JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] [JJ] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 105 (国際会議場 1F)

コンビーナ:臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、座長:宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)

11:00 〜 11:15

[PPS10-14] 衝撃実験による玄武岩中カンラン石の微細構造と火星隕石中カンラン石との比較

*竹之内 惇志1三河内 岳1小林 敬道2山口 亮3 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.物質・材料研究機構、3.国立極地研究所)

キーワード:衝撃実験、火星隕石、カンラン石

火星隕石には衝撃により黒色化したカンラン石が報告されている。この黒色化はカンラン石中に晶出した鉄ナノ粒子が原因と考えられており、火星隕石に特有である。先行研究ではいくつかの形成過程が考えられてきたが、未だ統一の見解は得られていない (e.g., Treiman et al., 2007)。その形成過程・条件の解明は、天体衝突現象の理解や火星隕石の起源などを考える上で重要であり、定量的に制約する必要がある。本研究では、このような火星隕石中に見られる黒色カンラン石の形成条件・過程を明らかにするために衝撃回収実験を行った。これまで、カンラン石の微細構造変化観察のための衝撃実験では、カンラン岩やカンラン石粉末試料などが用いられてきた。黒色カンラン石を含む火星隕石は、玄武岩〜レルゾライト質であり、比較のためにはそれらに近い試料で衝撃実験を行う必要がある。本研究では長崎県北松浦産のカンラン石を含む玄武岩をターゲットとして用いた。この玄武岩は鉄に富んだカンラン石(Fo69程度)を含んでおり、岩石組織やカンラン石の組成が火星隕石(特にolivine-phyric shergottite)に非常に近い。そのため、カンラン岩やカンラン石粉末試料を用いた衝撃実験に比べ、火星隕石により近い条件でカンラン石が受ける衝撃の影響を観察することが可能である。
 実験には物質材料研究機構の一段式火薬銃を用いた。試料の玄武岩は厚さ約1 mmの円形ディスクに整形し、ステンレスのコンテナに詰めてターゲットとした。飛翔体は到達衝撃圧20〜40GPaでは3 mm厚のステンレス板を、50GPaでは2 mm厚のタングステン板を用いた。4回実験を行い、実際の到達衝撃圧はターゲットへの衝突直前の飛翔体速度から計算し、それぞれ22.2、28.7、39.5、48.5 GPaであった。回収した試料から薄片試料を作成し、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。また、薄片から収束イオンビーム法(FIB)により試料を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察も行った。カンラン石の着色については、変質により着色した領域もあるため、TEM観察によりナノ粒子の有無を確認した。
 薄片観察によると22.2 GPaの実験試料中では斜長石が波状消光を示し、28.7 GPa以上の実験試料中では斜長石は全てガラス化していた。輝石やカンラン石は、最も強い衝撃を受けた試料(48.5 GPa)でも波状消光と弱いモザイク化を示すのみであった。また、衝撃圧が28.7 GPa以上の試料中では細い衝撃溶融脈が観察されたが、高圧鉱物はいずれの試料中にも発見されなかった。39.5 GPaと48.5 GPaの衝撃圧の回収試料ではカンラン石中にラメラ状の組織が観察された(ラメラの幅は38.5、48.5 GPaでそれぞれ~ 0.25 µm、~ 1 µm)。このラメラ状組織をFIBで切り出してTEMで観察したところ、ラメラ状の組織は高密度に欠陥構造が入る領域に対応していた。しかし、そのようなラメラ状組織を含めてカンラン石中に鉄ナノ粒子は発見されなかった。
 これまでの研究でNorthwest Africa 1950隕石の黒色カンラン石はラメラ状組織の集合であることが明らかになっている(Takenouchi et al., 2015)。今回の実験で観察されたカンラン石中のラメラ状の組織はそれらと類似していた。しかし、この領域はナノ粒子を含まず、黒色カンラン石に見られる特徴も示さなかった。三河内他(2011)ではカンラン石粉末試料を用いた40 GPa程度の衝撃実験によりカンラン石中に僅かにナノ粒子が形成されることが報告されている。高い空隙率を持つ粉末試料では玄武岩に比べて衝撃時の温度が高いと考えられ、ナノ粒子の形成には高圧だけでなく、粉末試料で達成されるような高温が必要であると推測される。つまり、カンラン石の黒色化は、高圧により欠陥の集合体のラメラ状組織が形成され、高温により鉄の拡散が起きてナノ粒子が形成されるという過程を辿る可能性が今回の実験から示唆された。また、衝撃圧の強さによってカンラン石に見られるラメラ状組織のサイズが変化することから、このようなラメラ状組織は衝撃時の圧力の指標に応用できる可能性がある。実際の火星隕石で観察されるラメラ状組織は幅が~2 µmほどであり、48.5 GPaの実験試料で観察されたものに近い。一方、ラメラの数密度は火星隕石の方が高く、火星隕石では鉄ナノ粒子も形成されているため、温度の違いがラメラの数密度を支配している可能性がある。その為、より多くの実験を重ねることで、天然のカンラン石に見られるラメラ状組織のサイズと数密度から衝撃時の温度と圧力に制約を与えることが可能になると期待される。