14:45 〜 15:00
[PPS10-23] 水蒸気雰囲気下におけるフッ素アパタイトの水素拡散実験
キーワード:水素、アパタイト、拡散、二次イオン質量分析法
アパタイトは、Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)で表される普遍的な副成分鉱物であり、陰イオンサイトにF、Cl、OHを含むことから、地球内部や地球外天体内部における水–岩石相互作用の痕跡を残していると考えられている (e.g., [1]).近年、月や火星試料中のアパタイト結晶の水素同位体組成に基づいて、その天体における水の起源や進化を探る研究が盛んになされている (e.g., [2][3]).しかし、アパタイト結晶の水素同位体組成が、結晶化した際のマグマの値を反映しているのか、それとも結晶化後の水素拡散によって二次的に変化した値であるかは不明瞭である.アパタイト中の水素拡散挙動を理解することは、その水素同位体組成がどのようにして獲得された値であるかを明らかにすることにつながる.最近になって、結晶軸のc軸方向に対するアパタイト結晶中の水素拡散係数が初めて報告された[4].本研究では、アパタイト結晶中における水素拡散挙動をより詳細に明らかにするため、結晶異方性と含水量依存性の二点に注目した水素拡散実験を行った.
実験試料には、含水量の異なる二種類の天然フッ素アパタイトの単結晶(Durango産: ~500 ppm H2O [2], Morocco産: ~4000 ppm H2O [5])を用い、Durango産の結晶は、結晶軸のc軸に対して二通りの方向に切り出している.これらの試料を用いて、重水の水蒸気を拡散源としたトレーサー拡散実験を、500-700˚Cの温度範囲で行った. 拡散プロファイルの取得には、京都大学設置の二次イオン質量分析計(CAMECA ims 4f-E7 SIMS)を用いた.拡散プロファイルから、表面領域で水素と重水素の交換が見られ、両者の和が一定であることから、拡散機構がシンプルな水素同位体の交換反応であることが明らかになった.温度帯と結晶軸の異なる試料の拡散プロファイルからも、それぞれ拡散係数を求め、500-700˚Cにおける水素拡散のアレニウス則を求めた.
Durango産アパタイトのc軸に対して鉛直方向の水素拡散係数は、平行方向の水素拡散係数に比べて、およそ5倍速かった.含水量の異なるMorocco産の結果からは、水素拡散にOHの量が大きく影響しないことが示唆された.アパタイトの水素拡散の活性化エネルギーは、含水鉱物の水素拡散の活性化エネルギーと同程度であることから、類似の拡散メカニズムを持つことが示唆された.含水鉱物中の水素拡散は、結晶中で水素が酸素との結合を切り替えながら輸送されるGrotthuss mechanismと呼ばれる水素輸送機構に従うと考えられている(e.g., [6]).この拡散メカニズムによるアパタイト結晶中の水素拡散は、アパタイト結晶中の他の元素の拡散と比較して、桁違いに速く、活性化エネルギーも小さいことが明らかになった.本研究の結果から、アパタイト結晶の水素同位体組成が、水成分との反応によって、含水量に影響を与えることなく変化することが示された.水素拡散は、地球外におけるアパタイト結晶の水素同位体組成の決定に重要な役割を果たした可能性がある.
References
[1] Harlov (2015) Elements, 11, 171–176. [2] Greenwood et al. (2011) Nature Geosci., 4, 79–82. [3] Usui et al. (2015) Earth Planet. Sci. Lett., 410, 140–151. [4] Higashi et al. (2017) Geochem. J. 51, 115–122. [5] McCubbin et al. (2015) Am. Mineral., 100, 1668–1707. [6] Marion et al. (2001) Am. Mineral., 86, 1166–1169.
実験試料には、含水量の異なる二種類の天然フッ素アパタイトの単結晶(Durango産: ~500 ppm H2O [2], Morocco産: ~4000 ppm H2O [5])を用い、Durango産の結晶は、結晶軸のc軸に対して二通りの方向に切り出している.これらの試料を用いて、重水の水蒸気を拡散源としたトレーサー拡散実験を、500-700˚Cの温度範囲で行った. 拡散プロファイルの取得には、京都大学設置の二次イオン質量分析計(CAMECA ims 4f-E7 SIMS)を用いた.拡散プロファイルから、表面領域で水素と重水素の交換が見られ、両者の和が一定であることから、拡散機構がシンプルな水素同位体の交換反応であることが明らかになった.温度帯と結晶軸の異なる試料の拡散プロファイルからも、それぞれ拡散係数を求め、500-700˚Cにおける水素拡散のアレニウス則を求めた.
Durango産アパタイトのc軸に対して鉛直方向の水素拡散係数は、平行方向の水素拡散係数に比べて、およそ5倍速かった.含水量の異なるMorocco産の結果からは、水素拡散にOHの量が大きく影響しないことが示唆された.アパタイトの水素拡散の活性化エネルギーは、含水鉱物の水素拡散の活性化エネルギーと同程度であることから、類似の拡散メカニズムを持つことが示唆された.含水鉱物中の水素拡散は、結晶中で水素が酸素との結合を切り替えながら輸送されるGrotthuss mechanismと呼ばれる水素輸送機構に従うと考えられている(e.g., [6]).この拡散メカニズムによるアパタイト結晶中の水素拡散は、アパタイト結晶中の他の元素の拡散と比較して、桁違いに速く、活性化エネルギーも小さいことが明らかになった.本研究の結果から、アパタイト結晶の水素同位体組成が、水成分との反応によって、含水量に影響を与えることなく変化することが示された.水素拡散は、地球外におけるアパタイト結晶の水素同位体組成の決定に重要な役割を果たした可能性がある.
References
[1] Harlov (2015) Elements, 11, 171–176. [2] Greenwood et al. (2011) Nature Geosci., 4, 79–82. [3] Usui et al. (2015) Earth Planet. Sci. Lett., 410, 140–151. [4] Higashi et al. (2017) Geochem. J. 51, 115–122. [5] McCubbin et al. (2015) Am. Mineral., 100, 1668–1707. [6] Marion et al. (2001) Am. Mineral., 86, 1166–1169.