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[PPS10-28] MC-ICPMSを用いた普通コンドライトコンドルールの高精度Mg同位体分析
キーワード:マグネシウム同位体、誘導結合プラズマ質量分析法、コンドルール、難揮発性包有物、初期太陽系
短寿命放射性核種である26Al(半減期73万年)は、惑星物質の相対的な年代差を議論する上で広く用いられてきた。太陽系最古の物質とされているCa, Al-rich inclusions (CAIs)の高精度なAl-Mg同位体分析から太陽系誕生時の26Al/27Al比は5.25 x 10-5であることが明らかとなった [1, 2]。また、未分化隕石の主要構成物質であるコンドルールの形成年代は、CAIsよりも150-400万年後であるとされてきた [3]。しかし近年、高精度なU-Pb年代測定法から、コンドルールの中にはCAIsと同時期に形成していたものも存在することが示唆された [4]。さらに、U-Pb年代が分かっているエコンドライト隕石のAl-Mg同位体分析から逆算した26Al/27Alの初生比は1.33 x 10-5という値を示し、CAIsよりも有意に低い値となった [5]。これらの相対年代と絶対年代の矛盾は、初期太陽系における26Alの分布に空間的な不均一が存在した可能性を示唆する。
初期太陽系における26Alの分布の解明は、Al-Mg年代系の妥当性の評価だけではなく、26Alを熱源とした惑星の分化過程など、惑星の進化を考察する上で重要である。分布を議論するために、様々な隕石種およびその構成物質の高精度なAl-Mg同位体分析が必須であるが、特にコンドルールについては分析例が少なく、先行研究は炭素質コンドライト中のコンドルールに限られている [e.g, 6, 7]。そこで本研究では初期太陽系における26Alの空間的均一性を議論することを目的として、マルチコレクター型の誘導結合プラズマ質量分析器 (MC-ICPMS)を用いた高精度Mg同位体分析手法の開発を行った。また、開発した手法の確度を確かめるため、炭素質コンドライト中のCAIを3つ試験的に分析した。さらに、同手法をこれまで分析例のない普通コンドライト中のコンドルールに適用し、炭素質コンドルールとの比較を行うことで、26Alの分布を議論した。
本研究ではNWA 3118 (CV 3)隕石のCAIを2つ、Allende (CV 3)隕石のCAIを1つ、NWA 7936 (LL 3.15)隕石のコンドルール6つについてMg同位体分析を行った。サンプルのMg同位体比は、純粋なMg溶液であるDSM-3 [8]からの偏差を取り、ppmレベルで算出した(= μ26Mg*)。地球の岩石であるBCR-2とJB-2について測定を行った結果、それぞれμ26Mg* = -5.9 ± 11.2, 2.3 ± 20.0 (2σ)という値を示し、先行研究 (e.g., [9]) と同程度の確度と精度の分析に成功した。3つのCAIsのデータを用いてアイソクロンを引いた結果、26Al/27Alの初生比は(26Al/27Al)0 = (5.08 ± 0.84) x 10-5と求まった。また、アイソクロンの切片からはμ26Mg*0 = -25 ± 103 ppmという値を示し、先行研究とよい一致を示す結果となった[1, 2]。このことから、確立した手法の確度の高さが再確認された。
6つのLLコンドルールのうち5つのLLコンドルールは太陽組成(0.10)に近い27Al/24Mg比(0.091-1.04)を示した。太陽系形成時の26Al/27Al比およびMg同位体比が均一であり ((26Al/27Al)0 = 5.23 x 10-5, μ26Mg*0 = -40 ppm)、物質形成時から27Al/24Mg比が変化しなかったと仮定すると、現在の太陽組成に近い27Al/24Mg比をもつ物質の現在のμ26Mg* は26Alの壊変の寄与から0 ppmを示すことが予測される。しかし本研究の結果から、LLコンドライト隕石中の太陽組成に近い27Al/24Mg比をもつコンドルールが異なるμ26Mg*を示すことが分かった。また、誤差の範囲を越えて負の値を示すコンドルールも見つかった。したがって、本研究の結果から初期太陽系において26Alが不均一に分布していた可能性が示唆された。
また、先行研究と比較した結果、普通コンドライトのコンドルールは炭素質コンドライトのコンドルールに比べて低いμ26Mg*を示すものが存在することがわかった。μ26Mg*0 = -40 ppmという値を用いて太陽系形成時における初生26Al/27Al比を算出した結果、炭素質コンドルールはCAIと同等もしくは67%ほど低い値を示したのに対し、普通コンドルールはCAIに対して47%ほど低い値を示した。以上の結果から、普通コンドライトおよび炭素質コンドライトコンドルールにおいて、26Alの寄与が不均一であった可能性が示唆された。
[1] Jacobsen B. et. al. (2008) Earth and Planet. Sci. Lett, 272, 353-364. [2] Larsen K. K. et al. (2011) The Astrophysical Journal Lett, 735, L37. [3] Kita N. T. et al. (2013) Meteoritics and Planet. Sci, 48, 1383-1400. [4] Connely J. N. et al. (2012) Science, 338, 651-655. [5] Schiller M. et al. (2015) Earth and Planet. Sci. Lett, 420, 45-54. [6] Luu T.-H. et al. (2015) PNAS, 112, 1298-1303. [7] Olsen M. B. et al. (2016) Geochim. Cosmochim. Acta, 191, 118-138. [8] Galy A. et al. (2003) Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 18, 1352-1356. [9] Bizzarro M. et. al. (2005) The Astrophysical Journal, 632, L41-L44.
初期太陽系における26Alの分布の解明は、Al-Mg年代系の妥当性の評価だけではなく、26Alを熱源とした惑星の分化過程など、惑星の進化を考察する上で重要である。分布を議論するために、様々な隕石種およびその構成物質の高精度なAl-Mg同位体分析が必須であるが、特にコンドルールについては分析例が少なく、先行研究は炭素質コンドライト中のコンドルールに限られている [e.g, 6, 7]。そこで本研究では初期太陽系における26Alの空間的均一性を議論することを目的として、マルチコレクター型の誘導結合プラズマ質量分析器 (MC-ICPMS)を用いた高精度Mg同位体分析手法の開発を行った。また、開発した手法の確度を確かめるため、炭素質コンドライト中のCAIを3つ試験的に分析した。さらに、同手法をこれまで分析例のない普通コンドライト中のコンドルールに適用し、炭素質コンドルールとの比較を行うことで、26Alの分布を議論した。
本研究ではNWA 3118 (CV 3)隕石のCAIを2つ、Allende (CV 3)隕石のCAIを1つ、NWA 7936 (LL 3.15)隕石のコンドルール6つについてMg同位体分析を行った。サンプルのMg同位体比は、純粋なMg溶液であるDSM-3 [8]からの偏差を取り、ppmレベルで算出した(= μ26Mg*)。地球の岩石であるBCR-2とJB-2について測定を行った結果、それぞれμ26Mg* = -5.9 ± 11.2, 2.3 ± 20.0 (2σ)という値を示し、先行研究 (e.g., [9]) と同程度の確度と精度の分析に成功した。3つのCAIsのデータを用いてアイソクロンを引いた結果、26Al/27Alの初生比は(26Al/27Al)0 = (5.08 ± 0.84) x 10-5と求まった。また、アイソクロンの切片からはμ26Mg*0 = -25 ± 103 ppmという値を示し、先行研究とよい一致を示す結果となった[1, 2]。このことから、確立した手法の確度の高さが再確認された。
6つのLLコンドルールのうち5つのLLコンドルールは太陽組成(0.10)に近い27Al/24Mg比(0.091-1.04)を示した。太陽系形成時の26Al/27Al比およびMg同位体比が均一であり ((26Al/27Al)0 = 5.23 x 10-5, μ26Mg*0 = -40 ppm)、物質形成時から27Al/24Mg比が変化しなかったと仮定すると、現在の太陽組成に近い27Al/24Mg比をもつ物質の現在のμ26Mg* は26Alの壊変の寄与から0 ppmを示すことが予測される。しかし本研究の結果から、LLコンドライト隕石中の太陽組成に近い27Al/24Mg比をもつコンドルールが異なるμ26Mg*を示すことが分かった。また、誤差の範囲を越えて負の値を示すコンドルールも見つかった。したがって、本研究の結果から初期太陽系において26Alが不均一に分布していた可能性が示唆された。
また、先行研究と比較した結果、普通コンドライトのコンドルールは炭素質コンドライトのコンドルールに比べて低いμ26Mg*を示すものが存在することがわかった。μ26Mg*0 = -40 ppmという値を用いて太陽系形成時における初生26Al/27Al比を算出した結果、炭素質コンドルールはCAIと同等もしくは67%ほど低い値を示したのに対し、普通コンドルールはCAIに対して47%ほど低い値を示した。以上の結果から、普通コンドライトおよび炭素質コンドライトコンドルールにおいて、26Alの寄与が不均一であった可能性が示唆された。
[1] Jacobsen B. et. al. (2008) Earth and Planet. Sci. Lett, 272, 353-364. [2] Larsen K. K. et al. (2011) The Astrophysical Journal Lett, 735, L37. [3] Kita N. T. et al. (2013) Meteoritics and Planet. Sci, 48, 1383-1400. [4] Connely J. N. et al. (2012) Science, 338, 651-655. [5] Schiller M. et al. (2015) Earth and Planet. Sci. Lett, 420, 45-54. [6] Luu T.-H. et al. (2015) PNAS, 112, 1298-1303. [7] Olsen M. B. et al. (2016) Geochim. Cosmochim. Acta, 191, 118-138. [8] Galy A. et al. (2003) Journal of Analytical Atomic Spectrometry, 18, 1352-1356. [9] Bizzarro M. et. al. (2005) The Astrophysical Journal, 632, L41-L44.