JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] [EE] 変動帯ダイナミクス

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、Robert Holdsworth(Durham University)、Jeanne Hardebeck(USGS)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)

[SCG62-P30] 高圧・高温における塩水の見かけの誘電率:予報

*星野 健一1盛田 唯花 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード:誘電率、塩水、水ー岩石相互作用

地殻流体は一般に,水−塩(−ガス成分)の混合流体であろう。このような混合溶媒中と水溶媒中の溶質jの化学ポテンシャルの差(Dµoj)は,
  Dµoj = ωj (1/εm - 1/εw),
と示される。ここで,ωjは溶質jのボルン係数で,εmとεwはそれぞれ混合溶媒と水の誘電率である。従って,溶媒の誘電率は,溶媒の化学的性質を決定する鍵となる。言い換えると,混合溶媒の誘電率がわかれば,例えばSUPCRT92などから得られる水溶媒中の溶質の熱力学的状態量から,混合溶媒中のそれらを求めることができる。
 これまでの高圧・高温における石英の溶解度測定実験では,H2O-NaCl系溶媒中の溶解度が水に比べて高い場合(塩溶)と低い場合(塩析)があることが示されてきた。この効果は,上式で示されるSiの主要な溶存種であるSiO2(aq)のH2O-NaCl系溶媒と水溶媒中の化学ポテンシャルの差で説明できるであろう。即ち,塩溶が生じる場合はH2O-NaCl系溶媒の誘電率が水より大きく,塩析の場合はその逆であるはずである。圧が50 - 200 MPa,温度が200 - 550℃の範囲で,NaClモル濃度が0.5 - 1.6程度のH2O-NaCl系溶媒中の上記溶解度のほとんどは,水溶媒中のそれより高い,即ち,塩溶が生じている。
 これらの実験データと,低温(<50℃)のH2O-NaCl系溶媒で提唱されている誘電率を用いて,圧が50 - 200 MPa,温度が25 - 550℃の範囲の1モルNaCl溶媒の見かけの誘電率(εb)と水の誘電率(εw)の比を求めた。
  εb / εw = a / (2 pi b)0.5 exp(- (T - c)2 / (2 b)) + d,
ここで,piは円周率,Tは絶対温度で,a,b,cおよびdはそれぞれ定数で,300,13000,573および0.8であり,上記の範囲では圧に依存しない。この式が示すように,塩溶効果は300℃付近で最も大きくなり,100℃と500℃付近で効果は消滅する。
 これを用いて,100 MP 定圧で,500℃から200℃まで温度が降下する場合の,石英に飽和した水溶媒と1モルNaCl溶媒からの温度25℃降下当たりの石英の沈殿量を求めた。その結果,水溶媒の場合では400℃(425℃から400℃に降下)で最も沈殿量が大きいが,その量は475℃の場合より30%ほど大きいに過ぎない。これに対して1モルNaCl溶媒の場合では,350℃付近で最も大きく,475℃の場合の約9倍にも上る。
 予察的な解析ではあるが,この結果は,地殻流体が塩水の場合には,裂かの充填や熱水変質などの塩水ー岩石相互作用が,350℃付近で著しく進展することを示している。