JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG65] [EE] 混濁流:発生源から堆積物・地形形成まで

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:横川 美和(大阪工業大学情報科学部)、泉 典洋(北海道大学大学院工学研究院)、Svetlana Kostic(Computational Science Research Center, San Diego State University)、阪口 口(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:横川 美和(大阪工業大学情報科学部)、座長:阪口 秀(海洋研究開発機構、海洋研究開発機構)

11:45 〜 12:00

[SCG65-11] 混濁流によって発生する底面不安定現象

*泉 典洋1萩澤 さくら1 (1.北海道大学大学院工学研究院)

キーワード:turbidity currents, bed instability, linear stability analysis

大陸棚や大陸斜面上の砂が何らかの原因によって巻き上がると,巻き上がった砂によって底面付近の海水の密度は周囲の水より大きくなり,その海水は斜面下流側に流下し始める.このように,砂を含むことによって密度を増加させ流れる密度流のことを特に混濁流と呼ぶ.混濁流は想像を遥かに超える侵食力や土砂輸送能力を持っており,海底峡谷や海底ベッドフォームなど海底地形を形成する主要な営力となっている.また,土砂だけでなく陸域由来の大量の有機物を深海に輸送しており,石油やメタンハイドレートの生成には無くてはならない重要なプロセスとなっている.さらに混濁流は,大陸間の情報通信に無くてはならない海底ケーブルを切断するほどの大きな破壊力を有しており,海底インフラを維持管理する観点からも重要な問題である.

ベンガル湾からインド洋に広がる海底では,混濁流の堆積によって形成されたと推測される全長3000キロメートルを超えるデルタの形成が確認されているが,これまでこれだけの距離を混濁流が流下し得るメカニズムについては長年の間謎であった.塩水密度流や温度密度流などの密度流では,流下に伴う上部の水の連行によって層厚を増加させ濃度を減少させていく.それに対して混濁流の場合,砂の沈降が拡散と釣り合うことによって,特に濃度の高い層(以降高濃度層と呼ぶ)の拡散が妨げられ,いわゆる等流状態が実現することで,長距離を流下する可能性がLuchiら(2015)によって示されている. もし混濁流に等流状態が存在するとすれば,海底面に傾斜が存在する限り海底面を流下することが可能である.それによって3000キロを超えるようなデルタの形成も合理的に説明することが可能となる.さらに,これまで等流状態が存在しないことで解析が困難となり,近似的な解析にとどまっていた各種海底地形の形成に関する理論解析は飛躍的に容易になる.

以上のことを踏まえて,本研究では等流状態の混濁流の実現を仮定し,乱流モデルとして非常に簡易な混合距離モデルを用いることで海底面に発生する不安定現象によるベッドウェーブの形成に関する線形安定解析を提案した.解析では,浮遊砂濃度をドライビングフォースとする流れの方程式と,浮遊砂の移流拡散方程式,浮遊砂の堆積巻き上げによって生じる海底面高さの時間変化を表す式を支配方程式として用いた.支配方程式を無次元化することで,重要な無次元パラメータが密度フルード数と摩擦速度で無地原価した沈降速度であることが明らかとなった.また,無次元沈降速度が0.08を上回ると高濃度層の上部に,濃度ゼロの部分が発生するという非現実的な結果となる.浮遊砂の粒径が大きく,摩擦速度に対して沈降速度が大きくなると,等流状態の混濁流は存在しなくなることを意味していると考えられる.

流速および浮遊砂濃度,底面高さ,高濃度層厚に対して摂動を与え線形安定解析を行ったところ,密度フルード数が0.5〜0.8より大きい領域で平坦面は不安定となることが明らかとなった.層厚で無次元化した卓越波数は0.3から0.5程度となることが示された.また,河床波は波数の大きい領域では下流に伝搬し,波数の小さい領域では上流に伝搬することが明らかとなった.この結果は実験結果とも一致している.