JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG70] [EJ] 震源域近傍強震動の成因解明と強震動予測への展開

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:浅野 公之(京都大学防災研究所)、香川 敬生(鳥取大学大学院工学研究科)、司 宏俊(株式会社サイスモ・リサーチ)、堀川 晴央(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、座長:司 宏俊(株式会社サイスモ・リサーチ、株式会社サイスモ・リサーチ)

13:45 〜 14:00

[SCG70-01] 震源域近傍強震動の物理学

★招待講演

*纐纈 一起1 (1.東京大学地震研究所)

震源域近傍強震動の成因に関しては複数の説が提唱されてきた.中でも長く研究され広く受け入れられているものがディレクティビティ効果である.その物理学は明確で,断層破壊の進展に伴い断層各部から放出される地震動が,進展方向では建設的干渉を起こすことにより強震動となるというメカニズムである.一方,フリングステップ効果というものも提唱されているが,その物理学は不明確である.初めて提唱したAbrahamsonの記述の中には「地殻変動の永久変位に伴う地震動によるもの」(Bolt and Abrahamson, 2003)と書かれている.しかし,地殻変動も強震動と同じように地震の断層運動の結果であるから,強震動の原因とはなりえない.また,Hisada (2003)が図らずも示したように,それらは断層運動の結果として計算される地震動に自然に含まれるものである.あえて特別なものとして区別するならば,震源域近傍では貢献の大きい地震動の近地項などに関連しているということはできる.それでも「物理学」となるためには,なぜ近地項などが大きくなって強震動となるのかの原因を提示する必要がある.このほか,断層運動そのものが地震動に現れているからという説明もなされている.これ自体に異存はないが,これは断層運動の結果であるすべての地震動に当てはまることであって,フリングステップ効果と同じくなぜ強震動となるのかの説明たりえない.

これまでディレクティビティ効果は,断層破壊が横ずれ断層なら走向方向に,縦ずれ断層なら傾斜方向に伝播するときに,地震動の断層直交成分に現れると考えられてきた.しかし,2015年ゴルカ地震では縦ずれの逆断層で走向方向の破壊伝播にも関わらず大きな長周期パルスが現れた.また,2016年熊本地震では地震動の断層平行成分に大きな長周期パルスが現れた.そのため,フリングステップ効果や断層運動説が改めて唱えられているが,われわれの研究(Koketsu et al., 2016; Kobayashi et al., in review)では,どちらの地震でも大きな長周期パルスの主な原因はディレクティビティ効果であることを示した.第一に重要な点は,「大きな」長周期パルスである必要があるということである.建設的干渉はどの方向の破壊伝播でも起こり得るが,その方向に沿って小さな地震動しか放射しない小断層が並んでいたり放射特性が小断層ごとにまちまちであると,大きな長周期パルスにはならない.傾斜角45°程度の通常の逆断層では走向方向が放射パターンの節面に当たってしまうために,走向方向の破壊伝播にはディレクティビティ効果が現れないのである.2015年ゴルカ地震は傾斜角約10°という低角逆断層だったため,走向方向が節面から離れて放射パターンの中心部に近くなりディレクティビティ効果が現れた.第二に重要な点は,震源断層全体の大局的な破壊伝播方向と,断層すべり主要部(いわゆるアスペリティ)付近の破壊伝播方向は一致するとは限らないことである.2016年4月16日熊本地震の大局的な破壊伝播は走向方向であるが,アスペリティ内の破壊伝播は斜め上方向となっていた.上向き主体の伝播の場合,建設的干渉は放射パターンの4象限すべてで起こり,強震動域が大きく広がることはない(Miyatake, 2000).その結果,強震動域はアスペリティ直上付近に限られ,断層平行方向の強震動も現れた.

ゴルカ地震については,無限媒質の解析解の遠地項+中間項と近地項を比較することで,ディレクティビティ効果とフリングステップ効果を比較した(図).震源域およびその近傍であってもディレクティビティ効果の方がかなり大きい.全般的に地震動の振動方向は似ているが両者の極性は反転している.また,もっとも注目すべきは,右側のカトマンズ相当地点の地震動波形において,小断層ごとの波形(細線)とそれらを加え合わせた波形(実線)を比較すると,遠地項+中間項に比べて近地項は細線が小さいにも関わらず実線は同程度の大きさになっている点である.これは近地項をコントロールしているのも遠地項+中間項と同じように建設的干渉であることを意味しており,建設的干渉=ディレクティビティ効果と考えれば震源域近傍特有の強震動特性は概ねディレクティビティ効果で支配されているということもできる.