15:45 〜 16:00
[SCG70-08] 動力学的断層モデルに基づく地表・地中断層の震源ごく近傍の地震動:逆断層と横ずれ断層の比較検討
キーワード:動力学的断層モデル、地表断層、地中断層、震源ごく近傍、地震動
震源ごく近傍の地震動を考える上で地表付近の破壊は重要であり、地表断層と地中断層のどちらが強震動を強く励起するかは興味深いテーマである。観測事例を比較した検討としてSomerville (BSSA 2003)やKagawa et al. (EPS 2004)が挙げられ、地中断層は地表断層に比べて強震動が大きくなることを指摘している。ただし、こういった検討事例は限られた震源近傍の観測記録に基づかざるを得ないのが現状である。そこでDalguer et al. (BSSA 2008)やPitarka et al. (BSSA 2009) は横ずれ断層を対象とし、動力学的断層モデルを用いた理論的検討により、地表断層と地中断層の地震動を多点において比較検討した。地中断層は地表断層に比べて破壊開始点が深く、かつ平均応力降下量が大きいとの前提に立てば、地中断層の強震動は地表断層に比べて大きくなり、Somerville (2003)やKagawa et al. (2004)による観測事実と整合すると指摘している。
以上は横ずれ断層に限定された検討であることから、著者らは逆断層を対象とした動力学的断層モデルにより地表・地中断層の強震動を比較した(加藤ほか、地震学会秋季大会 2016)。Dalguer et al. (2008)やPitarka et al. (2009)が対象としていない断層最短距離Xsh≦2kmでは、地表最大速度の上限レベルは地表断層が地中断層より大きくなり、横ずれ断層とは異なる結果が得られた。ここでDalguer et al. (2008)は断層面積と地震モーメントのスケーリングを満たすような、矩形のアスペリティと背景領域からなる断層パラメータを設定している。一方、Pitarka et al. (2009)は応力降下量などの断層パラメータを一様不均質に設定するなど、モデル化の考え方が異なっている。そこで本検討は、逆断層を対象とした加藤ほか(2016)と同様の断層パラメータを横ずれ断層について設定し、地表・地中断層の震源ごく近傍の地震動を比較すると共に、逆断層の震源ごく近傍の地震動とも比較した。
断層面は半無限均質地盤内に設置し、断層長さ20km、断層幅20km、傾斜角90°とした。地表断層と地中断層の断層パラメータは、逆断層を対象とした加藤ほか(2016)の条件にそろえ、地表断層の初期破壊中心深さHを7.5km、応力降下量⊿σを5MPaとした。地中断層はH=7.5および10.0km、⊿σ=7.5 MPaとした。なお深さ3km以浅は⊿σを線形に変化させ、地表断層の地表の⊿σは0または-2.5MPaに、地中断層は-20MPaとした。解析は3次元差分法(Kase and Kuge、GJI 2001)を用い、断層面にはすべり弱化の摩擦構成則を適用した。
これらの解析条件の基で自発的な断層破壊を計算すると、地中断層の地震規模はMw6.8、地表断層はMw6.9が得られた。断層走向方向の震源ごく近傍(Xsh≦2km)の最大速度を比較すると、フリングステップの影響(例えばHisada and Bielak、BSSA 2003)により地表断層が地中断層よりも大きな速度振幅を示した。一方、断層直交方向のXsh≦2kmの最大速度は地中断層が大きくなる傾向があり、特に⊿σを大きく(7.5 MPa)、初期破壊域を深めに設定(H=10.0km)した場合は、⊿σと破壊伝播効果の相乗効果により大きな速度振幅を示す結果となった。
逆断層を対象とした加藤ほか(2016)による検討のうち、Xsh≦2kmの最大速度振幅が特に大きくなるのは下盤側の断層直交方向と上盤側の上下動であった。これらはいずれも地表断層が地中断層に比べて大きい傾向を示している。
以上、Xsh≦2kmに着目したこれまでの検討結果をまとめると、横ずれ断層の断層直交方向の最大速度は地中断層が大きくなるが、それ以外は地表断層が大きくなる傾向が見られた。なお、Xsh>2kmは横ずれ断層と逆断層の双方において地中断層の最大速度が地表断層より大きくなる傾向を示しており、震源からやや離れた地点の記録の整理に基づくSomerville (2003)やKagawa et al. (2004)の観測事例と整合している。
震源のごく近傍は表層部分のパラメータの設定の仕方に大きく依存する領域であり、今回の条件設定では地表断層が大きくなる結果が得られたが、さらに検討が必要である。本検討で用いた地中断層と地表断層のモデル化の違いについては、今後も観測事実に基づいて整理していきたい。
【謝辞】産業技術総合研究所・加瀬祐子博士、東京理科大学・永野正行教授から貴重なご意見をいただいた。
以上は横ずれ断層に限定された検討であることから、著者らは逆断層を対象とした動力学的断層モデルにより地表・地中断層の強震動を比較した(加藤ほか、地震学会秋季大会 2016)。Dalguer et al. (2008)やPitarka et al. (2009)が対象としていない断層最短距離Xsh≦2kmでは、地表最大速度の上限レベルは地表断層が地中断層より大きくなり、横ずれ断層とは異なる結果が得られた。ここでDalguer et al. (2008)は断層面積と地震モーメントのスケーリングを満たすような、矩形のアスペリティと背景領域からなる断層パラメータを設定している。一方、Pitarka et al. (2009)は応力降下量などの断層パラメータを一様不均質に設定するなど、モデル化の考え方が異なっている。そこで本検討は、逆断層を対象とした加藤ほか(2016)と同様の断層パラメータを横ずれ断層について設定し、地表・地中断層の震源ごく近傍の地震動を比較すると共に、逆断層の震源ごく近傍の地震動とも比較した。
断層面は半無限均質地盤内に設置し、断層長さ20km、断層幅20km、傾斜角90°とした。地表断層と地中断層の断層パラメータは、逆断層を対象とした加藤ほか(2016)の条件にそろえ、地表断層の初期破壊中心深さHを7.5km、応力降下量⊿σを5MPaとした。地中断層はH=7.5および10.0km、⊿σ=7.5 MPaとした。なお深さ3km以浅は⊿σを線形に変化させ、地表断層の地表の⊿σは0または-2.5MPaに、地中断層は-20MPaとした。解析は3次元差分法(Kase and Kuge、GJI 2001)を用い、断層面にはすべり弱化の摩擦構成則を適用した。
これらの解析条件の基で自発的な断層破壊を計算すると、地中断層の地震規模はMw6.8、地表断層はMw6.9が得られた。断層走向方向の震源ごく近傍(Xsh≦2km)の最大速度を比較すると、フリングステップの影響(例えばHisada and Bielak、BSSA 2003)により地表断層が地中断層よりも大きな速度振幅を示した。一方、断層直交方向のXsh≦2kmの最大速度は地中断層が大きくなる傾向があり、特に⊿σを大きく(7.5 MPa)、初期破壊域を深めに設定(H=10.0km)した場合は、⊿σと破壊伝播効果の相乗効果により大きな速度振幅を示す結果となった。
逆断層を対象とした加藤ほか(2016)による検討のうち、Xsh≦2kmの最大速度振幅が特に大きくなるのは下盤側の断層直交方向と上盤側の上下動であった。これらはいずれも地表断層が地中断層に比べて大きい傾向を示している。
以上、Xsh≦2kmに着目したこれまでの検討結果をまとめると、横ずれ断層の断層直交方向の最大速度は地中断層が大きくなるが、それ以外は地表断層が大きくなる傾向が見られた。なお、Xsh>2kmは横ずれ断層と逆断層の双方において地中断層の最大速度が地表断層より大きくなる傾向を示しており、震源からやや離れた地点の記録の整理に基づくSomerville (2003)やKagawa et al. (2004)の観測事例と整合している。
震源のごく近傍は表層部分のパラメータの設定の仕方に大きく依存する領域であり、今回の条件設定では地表断層が大きくなる結果が得られたが、さらに検討が必要である。本検討で用いた地中断層と地表断層のモデル化の違いについては、今後も観測事実に基づいて整理していきたい。
【謝辞】産業技術総合研究所・加瀬祐子博士、東京理科大学・永野正行教授から貴重なご意見をいただいた。