JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG71] [EJ] 海洋底地球科学

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:富田 史章(東北大学大学院理学研究科)、座長:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

13:45 〜 14:00

[SCG71-19] 伊豆・小笠原・マリアナ弧の背弧海盆で見られる2種類の上部海洋地殻地震波速度構造

*古川 優和1島 伸和1高橋 成実2海宝 由佳3小平 秀一3 (1.神戸大学、2.防災科学技術研究所、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構 )

本研究は伊豆・小笠原・マリアナ弧(IBM弧)の背弧海盆の地殻構造に注目し、上部海洋地殻のP波速度構造の空間的変化を明らかにする。一般的な海洋地殻の速度構造には、速度勾配が大きくP波速度VPが遅い(約3~6 km/s)層layer2と、速度勾配が小さくVPが約6~7 km/sの層layer3がある。中央海嶺で形成された海洋地殻のlayer2の厚さは約1~2 kmである(e.g., Kearey et al., 2009)。背弧海盆の上部地殻のP波速度構造はlayer2の厚さと速度勾配によって次の2グループに分けられる(Sato et al., 2015);1)中央海嶺で形成された地殻と同じ標準的な構造のグループ(以下、“標準的構造”と呼ぶ), 2)約3 kmの厚いlayer2をもち、速度勾配が小さいために同じ深さでより低速度な構造のグループ(以下、“低速度構造”と呼ぶ)。“低速度構造”は岩石サンプルや重力異常の対比を根拠とする地殻の高空隙率に起因すると考えられる。高空隙率の原因は、背弧地殻が形成された時に近くに沈み込み帯が存在し、沈み込むスラブから供給された水を含んだマグマが地殻を形成したためだと推測されている(Dunn and Martinez, 2011)。南マリアナトラフやラウ海盆の沈み込み帯に近い拡大軸付近では“低速度構造”が見られ、水を含んだマグマの影響が現れていると推測される(Jacobs et al., 2007 ; Dunn and Martinez, 2011 ; Sato et al., 2015 )。
 本研究では、2次元の地震波速度構造を用いてIBMの背弧海盆の各地点直下の地震波速度とlayer2の深さの関係を表すグラフを作成し、速度構造をグループ分けして構造の空間的変化を見る。使用した2次元の地震波速度構造は、伊豆・小笠原弧を横切る8本の測線とマリアナ弧を横切る1本の測線に沿ったものであり、地震波速度構造探査の解析により得られた(Takahashi et al., 2015)。これらの測線は東西方向に走り、南北方向のIBM弧の古い拡大軸付近まで及んでいる。使用された海底地震計(OBS)の設置間隔が最短で5 kmであるため、グラフは5 kmおきに作成する。layer2の最も浅い所を深さ0 kmとするため、海水および堆積層と考えられる地震波速度が2 km/s以下のデータを除く。Sato et al. (2015)において構造の差が大きく現れている、深さ1.5 km、地震波速度5 km/sでのP波速度の値を元にグループ分けを行う。グラフが境界点付近を通っており、はっきりと区別できないものは“中間構造”に分類する。
 地震波速度構造の空間的変化は9本すべての測線において、海盆の火山弧に近い東端から西へ向かって“低速度構造”、“中間構造”、“標準的構造”の順に表れる。各構造が見られる幅は測線によって異なる。各測線名を北から順に測線1から測線9とすると、測線1・2・8では、海盆の東端から15~40 kmの“低速度構造”、30~80 kmの“中間構造”、それ以西は拡大軸付近まで“標準的構造”が見られる。測線3は“標準的構造”のみである。測線4・5・6・9は海盆の東端から30~70kmの“低速度構造”、それ以西は“中間構造”を示し、背弧拡大軸付近まで“標準的構造”は見られない。測線7は東端から約30 kmの“中間構造”とそれ以西の“標準的構造”を示し、“低速度構造”は見られない。測線9のみマリアナトラフを横切っており、トラフの東端40 kmと西端55 kmは“中間構造”を、それ以外の拡大軸付近約100 kmは“標準的構造”を示す。
 研究地域の測線に低速度構造・中間構造が含まれることから、IBM弧の背弧海盆においても沈み込み帯の影響を受けた地殻が形成されたと推測される。“低速度構造”や“中間構造”が見られる範囲はいずれも形成された年代が古い地殻である。このことは、沈み込み帯の影響を受けた地殻は拡大軸がスラブに近い背弧拡大初期に形成されたことを示す。“低速度構造”“中間構造”を示す幅が測線によって異なることから、沈み込み帯の影響の受け方は拡大軸に沿って変化している。特に四国海盆の中部とパレスベラ海盆には“標準的構造”が見られず、沈み込み帯の影響が大きいことを示唆する。