JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG72] [EJ] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:干場 充之(気象研究所)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、山本 直孝(防災科学技術研究所)、田島 文子(University of California at Irvine)、座長:山本 直孝(防災科学技術研究所)、座長:川元 智司(国土地理院、国土地理院)

14:00 〜 14:15

[SCG72-14] 波動場予測手法に基づく緊急地震速報のためのリアルタイムP相識別処理

*小寺 祐貴1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:緊急地震速報、P相識別、PLUM法、揺れの数値予報、SMGA、誘発地震

M8を超えるような巨大地震発生時の緊急地震速報の予測精度を向上させるために,揺れの数値予報 (Hoshiba and Aoki, 2015)やPLUM法(小寺・他,2014)といった,震源推定を介さずに波動場から波動場を直接予測する手法が提案されている.しかしながら,これらの波動場予測手法は,S相による強震動に頼って予測しているのが現状であり,その前に得られるP相の情報を活用できていない.従って,P相の情報を直接予測に活用できれば,より予測の迅速性を高められると期待される.本発表では,V/Hを用いたごく単純なP相検出器を導入し,同検出器とPLUM法とを組み合わせた場合の性能について考察する.

1. P相の識別方法について
地震波の自動フェーズ検知に関する先行研究の多くは,polarityを活用している(例えばRoss and Ben-Zion, 2014).本研究では,リアルタイム計算の実装が容易な「V/H(加速度の上下動と水平動合成の比)」に着目し,P相の検出を試みる.地震の発生状況によらず「V/H」を連続的に計算し続け,「V/H≧1.0」を満たしたときに「P相を観測している」と判定する.この単純なP相検出器を,①東北地方太平洋沖地震,②熊本地震M6.5,③熊本地震M7.3の事例へ適用し,有効性を評価した.①~③のいずれにおいても,初動部分のP相は明瞭に見えることが分かった.また,①では破壊開始点近傍のSMGA (Asano and Iwata, 2012) に伴うP相をいくつかの観測点で検出できた(図a).③では,大分県で発生したM5.7程度の誘発地震によるP相も確認できた(図b).一方で,理論S波直後に「V/H≧1.0」を満たす観測点が存在したり,①における福島県沖付近のSMGAのP相が明瞭に検知できなかったりなど,改善の余地があることを示す現象もいくつか見られた.

2. PLUM法への適用について
上記の「V/H」によるP相検出器を,PLUM法の予測計算に組み込むことを考える.P相部分の計測震度は,S相部分の計測震度よりも1.0程度小さいことが報告されている(Yamamoto et al., 2008).この性質をもとにすると,PLUM法の予測計算は次のように修正できる:(1)(観測地点におけるS相の予測)まず,「V/H≧1.0」である観測点に対して,観測リアルタイム震度に「+1.0」を加える.(2)(PLUM法の通常計算)その後,予測対象点の半径30km以内の観測リアルタイム震度を集め,その最大値を予測値とする.このP相を活用したPLUM法を,①東北地方太平洋沖地震,②熊本地震M6.5,③熊本地震M7.3の事例へ適用した.警報第1報の発表タイミングに注目すると,①では5秒,②および③では1秒の迅速化が見込めることが分かった.また,最終的な震度の予測精度は,①~③いずれも大きな変化はなかった.これは,観測リアルタイム震度を嵩上げしたことによる過大評価の悪影響はそれほど顕著でないことを示している.