[SCG72-P05] 南海トラフ域における津波伝播即時予測システムの開発
キーワード:津波、DONET、水圧観測、即時解析
防災科学技術研究所では、日本海溝周辺の深海底に海底観測網S-netを整備中である(植平・他, 2016; 望月・他, 2016)。また、海洋研究開発機構が南海トラフ周辺に整備した海底観測網DONET(Kawaguchi et al., 2011, 2015; Kaneda et al., 2015)が、2016年4月1日に防災科学技術研究所へ移管された。このため、防災科学技術研究所では現在、合計200点以上の海底観測点のデータ管理・運用を行っている。S-net及びDONETのデータの活用により、陸上データのみの場合と比べて、海域で発生した地震・津波に伴うシグナルの検知時間の短縮や検出限界の低減、震源決定をはじめとする各種解析の精度向上が確認されている。
本研究では、大地震発生後に、海底観測網における水圧波形を即時にシミュレーションするシステムを開発した(Nakamura and Baba, 2016)ので報告する。開発したシステムでは、5分毎にGlobal CMT解をチェックし、新規に解が発表された場合、震源及びメカニズム情報を収集する。収集した情報を基に、地殻変動及び津波伝播の並列計算を行う。並列計算を効率的に行うために、コードの最適化を施している他、予め分割した海底地形データの使用、地震の発生位置にあわせた計算領域・グリッドサイズ・タイムステップの可変設定などの仕組みを導入している。入力パラメータとして必要な断層サイズやすべり量は、スケーリング則を用いて値を設定する。計算終了後、DONETでの水圧波形、計算範囲内での地殻変動分布、最大波高分布を出力する。得られた結果は、関係者へメールで送信及び内部ホームページでの表示を行う。一連の計算及び入出力処理は全て自動で行い、Intel Xeon 3.3 GHz CPUによる32コア並列で処理を行った場合、CMT解入手から太平洋全域における津波伝播の計算終了まで20秒程度の処理時間である。
計算にあたっては、単一断層内での均質すべりを仮定したスケーリング則の適用を含め、多くの近似や仮定を行っているため、走時や波形について必ずしも高い精度を保証するものではない。しかし、第一近似としてのシミュレーション結果を用いてデータを見ることで、地震発生に伴う津波の伝播を海底水圧観測データから即時的に同定する際に有効なシステムとなる。実際に、2015年9月16日にチリ中部イヤペルで発生した地震(Mw 8.2)では、津波がDONETに到来する前に波形や波高を計算し、観測データと整合的な計算結果を得ることができた。観測された波高は数 cm程度であり、海洋潮汐や脈動などのシグナルと比べると非常に小さい振幅であるものの、シミュレーション結果を参照することで津波のシグナル同定に役立つことを示した。また、2016年11月13日に九州西方沖で発生した地震(Mw 6.8)では、DONETに到達する津波の予測波高(最大波高0.3 mm)がノイズレベル以下であることをシミュレーションの観点から示した。構築したシステムを活用することで、津波のシグナル検出や到来前の波形予測に役立てることに加え、観測データの解析からシグナル検出が困難であることを定量的に示すことも可能である。
本研究では、大地震発生後に、海底観測網における水圧波形を即時にシミュレーションするシステムを開発した(Nakamura and Baba, 2016)ので報告する。開発したシステムでは、5分毎にGlobal CMT解をチェックし、新規に解が発表された場合、震源及びメカニズム情報を収集する。収集した情報を基に、地殻変動及び津波伝播の並列計算を行う。並列計算を効率的に行うために、コードの最適化を施している他、予め分割した海底地形データの使用、地震の発生位置にあわせた計算領域・グリッドサイズ・タイムステップの可変設定などの仕組みを導入している。入力パラメータとして必要な断層サイズやすべり量は、スケーリング則を用いて値を設定する。計算終了後、DONETでの水圧波形、計算範囲内での地殻変動分布、最大波高分布を出力する。得られた結果は、関係者へメールで送信及び内部ホームページでの表示を行う。一連の計算及び入出力処理は全て自動で行い、Intel Xeon 3.3 GHz CPUによる32コア並列で処理を行った場合、CMT解入手から太平洋全域における津波伝播の計算終了まで20秒程度の処理時間である。
計算にあたっては、単一断層内での均質すべりを仮定したスケーリング則の適用を含め、多くの近似や仮定を行っているため、走時や波形について必ずしも高い精度を保証するものではない。しかし、第一近似としてのシミュレーション結果を用いてデータを見ることで、地震発生に伴う津波の伝播を海底水圧観測データから即時的に同定する際に有効なシステムとなる。実際に、2015年9月16日にチリ中部イヤペルで発生した地震(Mw 8.2)では、津波がDONETに到来する前に波形や波高を計算し、観測データと整合的な計算結果を得ることができた。観測された波高は数 cm程度であり、海洋潮汐や脈動などのシグナルと比べると非常に小さい振幅であるものの、シミュレーション結果を参照することで津波のシグナル同定に役立つことを示した。また、2016年11月13日に九州西方沖で発生した地震(Mw 6.8)では、DONETに到達する津波の予測波高(最大波高0.3 mm)がノイズレベル以下であることをシミュレーションの観点から示した。構築したシステムを活用することで、津波のシグナル検出や到来前の波形予測に役立てることに加え、観測データの解析からシグナル検出が困難であることを定量的に示すことも可能である。