JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG73] [JJ] 岩石・鉱物・資源

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)

16:30 〜 16:45

[SCG73-10] 南部北上山地,神楽複合岩類に伴われる珪長質岩類のジルコンU-Pb年代と岩石化学的特徴

*土谷 信高1足立 達朗2中野 伸彦2小山内 康人2 (1.岩手大学教育学部地学教室、2.九州大学大学院比較社会文化研究院)

キーワード:ジルコン年代学、北上山地、カンブリア紀

南部北上帯北縁~東縁部および西部では,早池峰複合岩類(永広ほか, 1988)およびそれに相当する複合岩類が,また中央部では氷上花崗岩類がそれぞれ基盤岩として露出している.早池峰複合岩類は,盛岡市東方の早池峰連峰を構成する苦鉄質~超苦鉄質岩類を主体とする複合岩類で,閃緑岩やトーナル岩などの中間質~珪長質岩類を伴う.磯﨑ほか(2010)はこの地帯を宮守-早池峰帯と呼び,また小沢ほか(2013)は早池峰宮守オフィオライトと称した.早池峰複合岩類は,蛇紋岩化した超塩基性岩類を主体としはんれい岩をともなう中岳蛇紋岩,超塩基性岩類・はんれい岩・トロニエム岩・ドレライトからなる神楽複合岩類,および玄武岩・ドレライトからなり凝灰質泥岩や砂岩をはさむ小黒層からなる(永広ほか,1988).これらのドレライトや玄武岩は,岩石化学的特徴から沈み込み帯起源と考えられている(Ozawa, 1988; Mori et al., 1992).これまでに得られていた放射年代には,早池峰複合岩類を構成するはんれい岩中のホルンブレンドからの437-455 MaのK-Ar 年代(Shibata and Ozawa, 1992),宮守地域の宮守複合岩類を構成するはんれい岩中のホルンブレンドからの421-484MaのK-Ar 年代,また母体-長坂地域の大鉢森角閃岩中の火成ホルンブレンドからの479MaのK-Ar 年代(蟹澤ほか, 1992)が報告されていた.また下條ほか(2010)は,小国地域の神楽複合岩類中のトロニエム岩中のジルコンLA-ICP-MS U-Pb年代として466±6Maを報告した.以上の年代測定結果から,早池峰複合岩類およびそれに相当する複合岩類の年代はオルドビス紀であると考えられていた.本報告では,神楽複合岩類に含まれる珪長質岩類のジルコンU-Pb年代と岩石化学的特徴について述べる.
神楽複合岩類の珪長質岩類のうち,小国地域のものについて,岩石学的性質を検討した.これらはいずれもカリ長石をほとんど含まないトーナル岩~石英閃緑岩であり,有色鉱物としては変質したホルンブレンドが主体である.石英閃緑岩にはしばしば輝石仮像が含まれる.全岩化学組成では,SiO2に富み(61-74%),K2O (0.18-0.28%)およびRb (4-6ppm)に著しく乏しく,Srに乏しい (105-211ppm, 石英閃緑岩の一部では576ppmに達する)ことが特徴である.これらの珪長質岩から分離されたジルコン結晶について,九州大学比較社会文化研究院のLA-ICPMS (Adachi et al., 2012)によってジルコンU-Pb年代を測定した.その結果,トーナル岩から494±4Ma (n=18)および487±4Ma (n=26)のコンコーディア年代が,また石英閃緑岩から500±4Ma (n=19)のコンコーディア年代が得られた.これらの年代は,下條ほか(2010)によって求められた466Maよりも明らかに古い.今回得られた年代のうち2つのトーナル岩試料は,下條ほか(2010)によって年代測定された試料から数100m以内の地点から採取された同様の岩相のものであり,下條ほか(2010)による年代は何らかの原因によって若返ったものであると考えられる.
今回得られた珪長質岩類の年代はカンブリア紀最末期に相当し,最近北上山地から報告された大船渡市の甫嶺珪長質岩類,奥州市水沢区正法寺付近の正法寺閃緑岩,および奥州市焼石岳南方の胆沢川石英閃緑岩と誤差の範囲で一致する.また,日立変成岩類中の大雄院花崗岩(Sakashima et al., 2003), 変成ポーフィリーおよび変成花崗岩礫(田切ほか,2010),長石質片岩(Tagiri et al., 2011),九州肥後帯の氷川花崗岩(Sakashima et al., 2003)のジルコンU-Pb SHRIMP年代ともほぼ一致する.これらの花崗岩質岩の年代は,日本列島の沈み込み起源の花崗岩としては最も古いものである.これらは,原日本のカンブリア紀の海洋性島弧-海溝系で形成された島弧性の花崗岩類であると考えられる(磯﨑ほか,2010).これまで早池峰複合岩類の年代は下條ほか(2010)による466±6 Maを主な根拠としてオルドビス紀と考えられていた.しかしながら,神楽複合岩類で最も後期の貫入と考えられる珪長質岩の年代が約5億年前を示すことが明らかとなったため,神楽複合岩類の年代はカンブリア期末まで遡ることになる.これらのカンブリア珪長質岩類は液相濃集元素に著しく乏しく,この後450Ma頃に活動した氷上花崗岩類(約450Ma; 佐々木ほか,2013; 2014)や黒瀬川構造帯の花崗岩類(446-472Ma; 小山内ほか,2014)が大陸地殻由来の元素に富む性質を示すことと対照的である.これらの花崗岩類の岩石学的性質を明らかにすることは,古生代前期における原日本がどの様なテクトニクス場に置かれていたのかを解明するために重要であると考えられる.