JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG74] [JJ] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻)、田阪 美樹(島根大学 )

[SCG74-P11] 減圧結晶作用に伴う玄武岩質メルトの粘性率変化:富士山宝永噴火玄武岩質マグマの例

*石橋 秀巳1天野 大和1 (1.静岡大学理学部地球科学専攻)

キーワード:減圧結晶作用、玄武岩質マグマ、粘性率、富士火山、MELTS、噴火様式

【序論】玄武岩質マグマの爆発的噴火では,穏やかなストロンボリ式噴火が一般的であるが,一方で稀に激しいプリニ―式噴火を発生することが知られている。富士火山においても,マグマの化学組成が大きく変化しないにもかかわらず,穏やかなストロンボリ式からプリニ―式まで多様な噴火様式がみられ,前者の例として864-866年貞観噴火が,後者の例として1707年宝永噴火があげられる。このような玄武岩質マグマの噴火様式に多様性を生じるメカニズムについては,未だ不明な点が多い。玄武岩質プリニ―式噴火である宝永噴火のスコリアの特徴として,斜長石マイクロライトに富む(>30vol.%)ことがあげられる。これは,穏やかなプリニ―式噴火のスコリア(貞観噴火長尾山スコリア)中にマイクロライトが少ないことと対称的である。プリニ―式噴火のスコリアの方がマイクロライトに富む事実は,マグマ上昇速度のちがいのみによっては説明できず,プレ噴火条件のちがいを反映している可能性がある。それでは,プレ噴火条件のちがいはマグマの火道上昇過程(特に減圧結晶作用と粘性率変化)と噴火様式にどのような影響を及ぼすのだろう?これを検討するため,本研究では様々な温度・メルト含水量の初期条件で玄武岩質メルトの減圧結晶作用シミュレーションを行い,火道上昇過程でのマグマの相変化および粘性率変化に及ぼすプレ噴火条件の効果について検討した。
【手法】本研究の減圧結晶作用シミュレーションは,rhyolite-MELTSプログラム(Gualda et al., 2012)を用いて行った.初期メルト組成には富士山宝永噴火の玄武岩のそれを用い,fO2条件はNi-NiOバッファとした。一旦析出した結晶・気泡は,その後メルトとは反応しないものとした。メルトの含水量と温度の初期条件はそれぞれ,0.5-3wt.%,1184-1094℃の範囲で変化させ,初期圧力150MPaから0.1MPaまで0.1MPaステップで等温減圧させた。各圧力ステップにおけるメルトの粘性率はGiordano et al.(2008)の方法によって,相対粘度はEinstein-Roscoe式によってそれぞれ計算し,減圧過程におけるマグマ(メルト-結晶2相系)の粘性率を計算した。
【結果】初期温度条件の低下に伴い,減圧結晶作用の開始圧力(Ps)は増加し,1気圧でのメルトフラクション(F1atm)は減少した。F1atmは,1189℃の場合には92wt.%であったのに対し,1094℃では40wt.%まで減少した。一方で,Psで規格化した圧力に対して,F1atmで規格化したメルトフラクションをプロットしたところ,初期条件によらず類似のパスを通ることがわかった。さらに,F1atmとPsはともに初期温度と明瞭な相関を示すのに対し,初期メルト含水量とは明瞭な相関を示さなかった。このことから,減圧結晶作用におけるP-Fパスは主に温度によって決まっていることがわかる。
 減圧に伴うメルト粘性率と相対粘度の変化も,初期温度に強い依存性を示した。初期温度が低いほど,減圧に伴うメルト粘性率・相対粘度の上昇率が増加する。1184℃と1094℃では後者の方が,1気圧で到達するメルト粘性率が約2桁大きく,相対粘度は4桁以上大きい。結果として,1気圧で到達するマグマの粘性率では,1184℃と1094℃の間で6桁以上の差がみられた。
【考察】マグマがプリニ―式噴火をおこす条件として,破砕することと,破砕時までに脱ガスしないことがあげられる。粘性率が高いほど,マグマが破砕するために必要な歪速度は小さくなり,またマグマから気泡が分離しにくいと考えられる。加えて,大量のマイクロライトの存在は,気泡同士の合体を妨害するため,脱ガスの抑制に貢献すると考えられる。したがって,初期温度が高いマグマでは,火道上昇中に形成されるマイクロライトが少量であり,メルト粘性率も低い値を維持するため,破砕しにくく脱ガスしやすい。結果として,激しい爆発的噴火をおこしにくいと考えられる。一方で,初期温度の低いマグマでは,火道上昇中に形成されるマイクロライトが多く,メルト粘性率も著しく増加する。加えて,形成されるマイクロライトは気泡の合体・移動を妨害するため,脱ガス効率を下げる。この結果,マグマは気泡を多く含んだまま破砕しやすくなり,激しい爆発的噴火をおこし得る。以上の結果は,玄武岩質マグマのプレ噴火温度が,発生する噴火の爆発性に著しい影響を及ぼすことを示唆する。