JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG75] [JJ] 地殻流体と地殻変動

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、松本 則夫(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、座長:梅田 浩司(弘前大学)、座長:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)

13:45 〜 14:00

[SCG75-01] 大阪府泉南地区の活断層近傍に出現する地下水中水銀の起源とテクトニクスとの関係

*坂本 裕介1益田 晴恵1武内 章記2村崎 友亮1新谷 毅1平井 望生1後藤 葵1近岡 史絵1 (1.大阪市立大学理学研究科生物地球系専攻、2.国立研究開発法人国立環境研究所)

キーワード:水銀、地下水、同位体

大阪府域では水質汚濁防止法に基づいて4513点で行われた地下水質調査により,総水銀検出井戸が31地点で検出されている(大阪府,2009).また,水銀検出井戸の多くは北河内地区と泉南地区にある.北河内地区では生駒断層系の活断層に沿って上昇していると考えられた(大阪府,2009).北河内地区のうち,枚方地区で採水した2地点の地下水についてδ202Hgが-0.65~-0.85‰の値を得ている.水銀の大部分が無機水銀であることと合わせて,これらの水銀の起源は地質由来であると推定された(坂本ほか,2016).本研究では,泉南地区の水銀が北河内地区と共通の由来を持つ可能性があると考え,水銀検出地点と活断層の地理的関係を明らかにし,水銀の起源を明確にすることを目的として,地下水の分析を行った.
水銀検出井戸が報告されている大阪府岸和田市・和泉市を対象として,2016年8月~12月に27地点で地下水を採取し,主成分と水銀濃度を分析した.地下水はすべて民家の丸井戸またはチューブ井戸で,井戸深度は10m以下,水位は1~2m程度であった.
調査地の泉南地区は大阪府南部に位置している.この地域は更新統の堆積岩からなる広い台地を中心として,大阪湾岸の沖積低地と南に領家花崗岩類からなる和泉山地を含んでいる.大阪湾の海岸線に沿って沖積低地と段丘層の境に泉南断層,大阪平野の中央部を南北に順談する上町断層,和泉山脈の領家花崗岩類と更新世の台地を南北に境する内畑断層が存在しており、これらの断層に斜行する小さな断層群がある.また、更新世の地層中の断層は大規模な撓曲帯や破砕帯を伴うものが多い.今回調査した泉南地区の地下水では環境基準値(0.5ppb)を超えた水銀は検出されなかったが,14地点の井戸から数十ppt以上の水銀が検出され,最も高いもので201pptの値を得た.またその地点は上町断層系の断層近傍であった.水銀が検出された地点は上町断層帯付近に集中しており,巨視的には上町断層帯をに沿った直線状の分布をとった.また,湾岸の泉南断層に沿っても水銀検出地点がある。
地下水の主成分化学組成はCa2-HCO3-型とNa-Cl-(SO4+NO3)型に大別された.水銀濃度が比較的高い試料の主成分化学組成は硝酸イオン・硫酸イオンが高い傾向が見られた.これは,北河内地区の水銀検出井戸の地下水の主成分組成と異なる性質である。北河内地区では、硫酸・硝酸・塩化物イオンなどの人為由来成分の多い地下水は、Ca-HCO3型の流動性の高い地下水よりも水銀濃度が低い傾向が顕著であった。硝酸イオンは水銀ガスを酸化させ,イオン化して溶存させる役割をしているのかもしれない. 水銀は温度変化によって急速に蒸発・気化する元素であり,好気的水環境では陽イオンとして溶存する.このような水銀の性質を考慮すると,調査地域の水銀は,断層に沿って地下深部から上昇した後に,好気的な浅層地下水に捕獲されたと考えられる.
 浅部では間隙水放出や続成作用により,深部では変成作用によって脱水が起こっている日本列島では,沈み込みに伴ってスラブからの流体の放出があることが知られている.そのような場所では,しばしば高濃度塩水と低周波地震の震源が重なることが報告されている(風早,2014).大阪府域で地質由来と推定される水銀の検出地点である北河内地区と泉南地区には低周波地震の震源が報告されている(高橋・宮村,2009).このことは,水銀が低周波地震活動に関連して地下深部から上昇していることを示唆する。本調査地域には上町断層帯に分類される活断層とそれとの共役断層が多く存在している.また,調査地域内の大阪層群(更新世堆積層)には大規模な撓曲帯が存在している.これらのことから,スラブ流体の脱水に伴って放出された水銀が活断層を上昇経路として地表に到達したと私たちは考えている.
今後,地下水と土壌ガスの水銀同位体比を分析することで,水銀の起源とテクトニクスとの関連を明らかにしたい.