JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG75] [JJ] 地殻流体と地殻変動

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、松本 則夫(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、座長:梅田 浩司(弘前大学)、座長:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)

15:00 〜 15:15

[SCG75-06] 地下坑道の2段階の再冠水に伴うP波速度およびS波速度の変化

*國友 孝洋1,2山岡 耕春1渡辺 俊樹1浅井 康広2石井 紘2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、2.公益財団法人 地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所)

キーワード:弾性波アクロス、地震波速度変化、地下水

東濃鉱山の地下坑道の閉鎖措置に伴い、周辺岩盤の地震波速度変化がS波のみならずP波でも検出され、2段階の再冠水イベントを捉えていたことが明らかになったので報告する。
弾性波アクロス土岐送信所(名古屋大学)が設置されている東濃鉱山(日本原子力研究開発機構、岐阜県土岐市)では、2012年3月から地下坑道(本延坑道はGL-125m、標高160m)の充填作業が開始され、2014年12月9日に主要排水ポンプ(本延坑道)を停止、2015年3月には坑道の閉鎖が完了した。主要排水ポンプ停止後、充填坑道内では再冠水が始まり、弾性波アクロス信号の観測により、直下のボアホール加速度計(98SE-01号孔、GL-203m。名古屋大学)で直接S波の顕著な走時変化が検出された。國友・他(2016)JpGUでは、主要排水ポンプ停止後、充填坑道内では地下水位が上昇し、ほぼ同期する形でBH-1号孔(本延坑道から約40m下)での歪変化(短縮)が観測されたこと、また、それらとほぼ連動する形で、98SE-01号孔でS波走時が約4ms低下するのが観測されたことを報告した。そして、S波速度変化が、送信所直下の瑞浪層群内ではなく、その基盤岩である土岐花崗岩内で生じたこと、埋設坑道内の間隙水圧の上昇により花崗岩内のクラックが開口しS波速度が低下したことを明らかにした。現在稼働している弾性波アクロス送信装置は、水平方向に加振するため、直下にはS波のみを放射するが、水平~斜め下方にはP波も放射している。そこで、TRIESのボアホール観測網のデータなどを用いて遠方から鉱山付近のP波速度変化についても調べた。その結果、主要排水ポンプを停止した2014年末よりも前に、P波速度が増加するイベントが発生していたことが判明した。
アクロス信号の解析には、①98SE-01号孔、②TRIESのボアホール観測網のうち記録計のサンプリングクロックに問題がなかった観測点、および、③Hi-net八百津(N.YOTH)を用いた。解析には、2012年4 月1日から2016年7月1日までのデータを用いた。2時間毎の6成分グリーン関数を計算した後、クロススペクトル法によりP波およびS波(SH波およびSV波)の走時変化を計算した。クロススペクトルを計算するための基準グリーン関数には、2012年4月の一か月間スタッキングデータを用いた。
解析の結果、全ての観測点(最大11.3km)で鉱山近傍でのS波およびP波の走時変化が検出された。S波の走時遅延の大きさは、観測点の方位やS波の振動方向によって異なっており、主要排水ポンプ停止後の再冠水による坑道周辺へのS波速度変化の影響範囲およびクラックの配向を反映しているものと考えられる。P波も、2014年末頃から全ての観測点で走時の遅延が観測されている。北方(HYS、N.YOTH)および南方(TOS)の観測点では、2014年の中頃から走時が徐々に早まり、遅延に移行する直前には、0.5~1ms程度早くなる現象が確認された。他の観測点ではこの現象は見られない。BH-1の歪計にもこの変化は現れていない。東濃鉱山では、2014年3月までに本延坑道の東端から北に延びる北延坑道(上盤・下盤)の充填が終了し、充填後の北延下盤坑道からもポンプにより坑道内の水を排水していた。しかし、同年6月頃に下盤ポンプが故障し、坑道での地下水位が下盤レベル(標高152m)から上盤レベル(標高160m)まで上昇した。主要排水ポンプが稼働していることから、その後の水位は上盤(本延)レベルに保たれている。この水位上昇により周辺の土岐花崗岩中の地下水位も上昇し、土岐花崗岩の含水率の高まった部分でP波速度が増大し、観測点の方位によってはP波の走時が早くなったものと考えられる。また、クラックが開口するとP波速度も遅くなるため、2014年度の後半での地下水位の上昇は、新たなクラックを開口させるほどには間隙水圧を上昇させなかったと考えられる。
(謝辞)本研究には、防災科学技術研究所のHi-netのデータを使用させて頂きました。また、東濃地科学センターからは鉱山坑道内の充填後の地下水位のデータを頂きました。合わせて感謝いたします。