JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM19] [JJ] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2017年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山崎 健一(京都大学防災研究所)、宇津木 充(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、座長:多田 訓子(海洋研究開発機構)、座長:南 拓人(東京大学地震研究所海半球観測研究センター)

10:00 〜 10:15

[SEM19-04] MT法による房総半島の地下比抵抗構造探査に関する研究 
~MSSAによる前処理の効果~

*小泉 直輝1陳 浩1吉野 千恵1服部 克巳1韓 鵬2奥田 真央3菅野 倖大朗3早川 美土里3茂木 透4坂中 伸也5 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.統計数理研究所、3.北海道大学大学院理学院、4.北海道大学大学院工学研究院環境循環システム部門、5.秋田大学大学院工学資源学研究科地球資源学専攻)

本研究では、地磁気地電流法(MT法)による房総半島全域の地下比抵抗構造探査を試みた。本研究の目的は以下のとおりである。(1)電磁気学的に房総半島全域の地下比抵抗構造を推定することである。特にプレート境界等の地下比抵抗構造を推定することが地学的なテーマである。(2) ULF帯等の地震電磁気現象が観測された場合、波の発生および伝播機構を調査するための基礎資料を得ることである。波の発生および伝播機構の解明には、波動の伝播シミュレーションが必要不可欠である。伝播シミュレーションには地下の比抵抗構造が重要であり、現実的な結果を得るためには観測データに基づくデータが必要である。(3)人工雑音が多く含まれる地域でMT探査が可能になる、新たな信号処理手法の開発である。関東地域では堆積層が厚く、また、直流電車や工場等からの漏洩電流の影響で、観測されるデータに雑音が多い。そのため、従来MT探査が敬遠されてきた。これらの雑音はどの周波数にも乗るため、周波数領域で行うMT解析では除去することが困難であった。時間領域において雑音を除去する新たな取り組みが必要であり、今回取得するデータを用いてその手法と効果について述べる。
 以上の目的のため、2014年11月から2015年3月にかけて房総半島の北部を対象とし、2015年11月から2016年1月にかけて房総半島の南部を対象としてMT探査を実施した。観測点は緯度経度ごとに41箇所設けた。全観測点においてPhoenix Geophysics社のMTU-5, 5A, netを用い、サンプリング周波数15, 150, 2400 Hzのデータを観測した。これらのデータから約0.003 s – 3,000 sのMTインピーダンスを推定する。41箇所の観測点の内12箇所ではテラテクニカ社のU-43も用い、サンプリング周波数1 Hzのデータを観測した。これらのデータから約20 s – 15,000 sのMTインピーダンスを推定する。
 MT法により房総半島全域の地下比抵抗を推定するためには、電磁場に影響するコヒーレント/インコヒーレントノイズを除去する手法が必要となる。ノイズを除去するため、まず従来の周波数領域の手法であるリモートリファレンス法を試みたところ、房総南部のMTインピーダンスは多少の改善が見られたものの、北部のMTインピーダンスは改善が見られなかった。そこで、時間領域で処理を行うマルチチャンネル特異スペクトル解析 (Multichannel-Singular Spectrum Analysis: MSSA) を長期観測点と参照点のMTデータに適用し、S/N比を改善する新たな試みを行った。MSSAによって元の時系列を特異値分解し、観測点と参照点の水平磁場で相対的に高い相関係数を示す主成分を用いて時系列を再構成したところ、リモートリファレンス法で見られる異常値を抑制できることがわかった。このことは、時間領域におけるMTデータの前処理の有効性および有望性を示すと考えられる。
 長期観測点の再構成時系列にリモートリファレンス法を用いて房総半島の南西から北東方向の地下比抵抗断面を算出したところ、地下約1-2 kmには0.1-10 Ωmの低比抵抗領域が存在した。これは房総半島の地表の大部分を覆う堆積層に含まれる流体の影響と考えられる。南西方向の地下では最深部で約10 kmまで0.1-10 Ωmの低比抵抗領域が存在するが、超苦鉄質岩類または沈み込む海山によって押し上げられた付加体の影響を反映した領域である可能性がある。