11:45 〜 12:10
[SEM19-10] 摩擦すべりしている模擬断層の接触状態をモニターするための電気伝導度連続測定
★招待講演
キーワード:電気伝導度、摩擦実験、断層、アスペリティ
室内実験において,すべっている模擬断層の力学的パラメータを他の観測量とともにモニタリングすることは,岩石の摩擦特性ひいては地震の動力学を理解する上で貴重な情報をもたらす.この観点から,我々はすべり面上の接触状態をモニターできる可能性のある断層の電気特性に着目した.円柱形のインド産変はんれい岩一組を実験試料として用い,それらを防災科学技術研究所が所有する高速回転せん断摩擦試験機に設置した.この試験機はスリップリングを介すことで回転中であっても回転側試料のセンサーから電気信号を取り出すことができる.直径25 mmで長さ30 mmの試料を2個重ねて実験に用いた.乾燥岩石試料の極めて高い抵抗値を測定するために,最大入力インピーダンスが200 TΩである2台のエレクトロメーター(Keithley 6514)を使用した.1台のエレクトロメーターによって模擬断層を横切る直流電流を入力し,もう1台によって断層間の電位を測定した.まず我々は模擬断層の電気的特性を把握するため,静的状態での予備実験をおこなった.急激な電流の入力に対して電位が過渡的な応答を示すことから,接触している断層は抵抗素子とコンデンサー素子の並列回路と見なすべきであることが明らかとなった.この過渡応答より,垂直応力が0.1 MPaから8 MPaにおける断層の抵抗およびキャパシタンスの値を推定したところ,垂直応力が高くなるにつれ抵抗が減少しキャパシタンスが増加していることがわかった.このことは,真の接触部とその他の部分(非接触部)がそれぞれ抵抗素子とコンデンサー素子として機能していると仮定すれば,高い垂直応力によりアスペリティの真の接触が増加する一方でアスペリティの高さが減少しているためと解釈できる.したがってこの実験結果は,アスペリティの電気伝導度(比抵抗の逆数)が一定である限り,抵抗とキャパシタンスの測定値から真の接触面積を見積もることが可能であることを示唆している.次に我々は,準地震すべり速度(5.3 × 10-3 m/s)で垂直応力が3 MPaの条件下における断層の電気伝導度モニタリングをおこなった.この条件下で,せん断応力と垂直応力の比で定義される摩擦係数は典型的なすべり弱化を示した.すなわち,すべりが始まると同時に0.8まで上昇した後0.2まで低下し,その後は0.2と0.6の間で変動した.電気伝導度データは摩擦強度と非常によく似た変動を示し,摩擦係数が増加した際には電気伝導度も増加した.さらに,測定した電気伝導度データより,すべりにともなう真の接触面積およびその強度の変化を推定した.その結果より,初期のアスペリティはすべり弱化のごく初期の段階で完全に破壊され,その後のガウジの粉砕フェイズの方がすべり弱化プロセスにおいてはより支配的であることが示唆された.我々はさらに地震性すべり速度(1 m/s)で垂直応力が3 MPaの条件で同様の実験をおこなった.この条件下では,断層の岩石は摩擦熱によって溶融し,その強度を大きく失うことが知られている.Hirose and Shimamoto (2005)は弱化プロセスが,2つの弱化ステージとその間の1つの強化ステージからなり,それらは摩擦溶融中のメルトパッチの生成とその後の溶融層の成長に関連していると報告している.我々の電気伝導度モニタリングはその2つの弱化ステージにおける急激な伝導度の上昇を示し,定性的ではあるが明瞭にそれらのプロセスを確認することに成功した.以上の結果は,電気伝導度がさまざまなすべり速度ですべっている断層の接触状態を明らかにする優れたツールであることを示している.