JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC54] [JJ] 地球化学の最前線

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、座長:横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)

15:00 〜 15:15

[SGC54-06] 高温高圧下での鉄-ケイ酸塩-水系の中性子回折その場観察と地球進化過程への応用

*飯塚 理子1八木 健彦1後藤 弘匡2奥地 拓生3服部 高典4佐野 亜沙美4 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.東京大学物性研究所、3.岡山大学惑星物質研究所、4.日本原子力研究開発機構J-PARCセンター)

キーワード:水素、中性子回折、高温高圧下その場観察、コアーマントル形成

鉄を主成分とする地球中心核には、軽元素(S, Si, O, C, Hなど)が溶け込んでいると考えられており、どの軽元素がどの程度存在するのかという疑問に対して、これまで数多くの実験的研究がなされてきた。このうち有力候補の1つである水素は、X線回折などの従来の実験手法では検出できないこと、高圧下でしか有意に鉄に溶け込まず脱圧すると試料から抜けてしまうこと、などの実験上の制約から、その高温高圧下での振る舞いや鉄への固溶量についてよく分かっていなかった。そこで本研究では、水素を直接観察できる中性子回折法を用いて鉄-シリケイト-水系の高温高圧下その場観察を行い、含水鉱物が脱水してできる水と固体の鉄とが反応して、鉄水素化物が生成する様子をリアルタイムでとらえることに成功した。
 実験は、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)のパルス中性子源に建設された高温高圧ビームライン(PLANET)において、大型6軸プレス(圧姫)を用いて行った。地球形成初期に集積した物質をモデル化した出発試料(モル比が2:1:1の鉄ロッドとSiO2とMg(OD)2(又はMgO) の混合粉末)に対して、高圧下約4 GPaで1000Kまで段階的に加熱を行いながら、高温高圧下での中性子回折測定を行った。
 結果として、水を含まない系では同時間で格子体積がほぼ不変であるのに対し、水を含む系では徐々に格子体積が膨張し飽和していくことが分かった。したがって、水を含む系では鉄が有意に水素を取り込み、鉄水素化物が生成したと考えられる。回収試料のSEM観察では、水を含む系にのみ、鉄ロッドと鉄に富むオリビンとの間にFeOの薄い層が確認され、含水鉱物から吐き出された水が鉄と酸化還元反応を起こしてFeOとFeHxが生成したことが示された。本研究の結果から、高圧下で1000K程度の比較的低温でも水が存在すれば、固体の鉄にも水素が溶け込むことが明らかになった。このことから、原始地球では始源物質が集積していく初期段階で、水素はすでに鉄へと溶け込み始めていたと考えられる。すなわち、現在の地球核に含まれると考えられる軽元素の中でも、水素が地球進化過程の早期において他の軽元素に先駆けて固体鉄に溶け込んでいき、その後に核-マントル分離や他の軽元素の溶融鉄への溶解が起きた可能性が高いことが示唆された。地球核の軽元素問題に向けた今後の展望として、これまで種々の実験が行われてきた純鉄とケイ酸塩の系だけではなく、水素化した鉄とケイ酸塩間での軽元素の分配を調べることが重要になると言えるだろう。
 発表では、本研究で開発したアンビルセルを用いた高圧高温中性子その場観察の紹介、および測定データの解析により得られた情報から地球のコアーマントル形成と水素の関わりについて考察する。