JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] [EJ] 重力・ジオイド

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山本 圭香(国立天文台)、宮崎 隆幸(国土交通省国土地理院)、座長:宮崎 隆幸(国土交通省国土地理院)、座長:田中 俊行(公益財団法人地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所)

09:30 〜 09:45

[SGD02-03] 沈み込み帯の標高ー重力異常の分布と力学的考察

*岩瀬 裕斗1生田 領野1 (1.静岡大学)

キーワード:沈み込み帯、巨大地震・超巨大地震、フリーエア重力異常、標高、TPFRs

沈み込み帯と最大地震規模の関係については,Uyeda & Kanamori (1979)に始まる比較沈み込み帯学でよく考察されている.若く浮力の大きな海洋プレートが低角で沈み込み,プレート間の固着が強いチリ型と,古く重い海洋プレートが高角で沈み込み,プレート間の固着が弱いマリアナ型を端成分にした分類が一般的である(Uyeda,1982).その後沈み込み諸元と地震活動から,Ruff & Kanamori (1980), Stein & Okal (2004)などでは沈み込み速度と年齢を議論,Schellart & Rawlinson (2013)では浅い沈み込み角や圧縮場であることが超巨大地震を発生させる要件であるとした.

2004年のスマトラ沖地震は,McCaffrey (2008)の言葉を借りれば,「世界中の海溝の一部は超巨大地震を起こせないという考えに疑問を投げかけた」.2011年の東北地方太平洋沖地震も同様である.しかし,これらはいずれもチリ型に比べれば沈み込み角度が急で年齢も古いスラブという点では例外的であるが,かといって海溝軸に直交する方向の背弧拡大が起こっているような伸張場でもなく,これをもってどこでも超巨大地震が起こるとする根拠とはならない.

我々は,超巨大地震の発生と沈み込み帯のより直接的な関係を見出す目的で,重力異常と地形データを調査し,前弧域の標高と重力異常分布の分類を行った.重力異常はWorld Gravity Map(WGM)より2min×2min gridのフリーエア異常データ,海底地形図はGeneral Bathymetric Chart of the Ocean(GEBCO)より30sec×30sec gridデータを用い,加えてNational Oceanic and Atmospheric Administration(NOAA)による火山分布を用いた.

重力異常は一般にアウターライズに高まりを持ち,海溝で一旦落ち込んだ後,前弧域で上昇する.

海溝の深さに注目すると,最深部が6000mよりも浅い沈み込み帯は全てでM8以上の巨大地震・超巨大地震が生じている.またこれらの海溝での重力異常の落ち込みは非常に弱く,変化形状での分類は困難であった.深い海溝を作らないのはリソスフェアが若く浮力が大きいためであるが,若く柔らかいためにアイソスタシーが成立しやすく,重力異常の起伏が出にくいものと考えられる.他方で,海溝が6000mよりも深い沈み込み帯には,M8以上の地震の発生が無い場所が含まれる.同時に東北沖やカムチャッカ半島沖のようにM9クラスの超巨大地震が発生する場所も含まれ,海溝の深さだけでは巨大地震・超巨大地震の発生場を分類することはできない.深い海溝のみを重力異常の分布形状で分類した結果,1.重力異常が前弧に向かって単調増加で,上がり方が急なもの(最大値になるまでに1deg以下),2.単調増加で,ゆっくりなもの(最大値になるまでに1degより大きい),3.海溝から小さなピークを経て前弧海盆域でいったん下がってからもう一度上がるもの,4.重力異常値の最小値が海溝から島弧寄りにシフトしているものに分けられた.このうち,ゆっくり単調増加するもの(日本,カムチャッカ,トンガ,北部・中部チリ)はこれまでにM8以上の地震を起こしたことがある沈み込み帯が属するグループとなった.また単調増加でない2つのグループについて検討すると,3.海溝沿いの小さなピークや4.島弧寄りのシフトが見られる場所は,堆積物が多いことがわかった.つまり本質的には,重力異常は前弧のピークに向けて急に上がるかゆるやかに上がるかの2種類に分類できるものと考えられる.

そこで,縦軸に海溝から火山フロントまでの距離,横軸に海溝から重力異常がピークの6割に達するまでの距離をとってプロットすると,両者に正の相関が見られた.火山フロントはスラブ上面の100km等深度線と見れば,沈み込み角の緩いものほど重力異常のピークが海溝から遠いことになる.Bassett and Wasst (2015)は,地形・重力異常値から,各沈み込み帯での海溝距離でのアンサンブル平均をとった値を差し引いたものであるTPTA (Trench-parallel Topography Anomaly)とTPGA(Trench-parallel Gravity Anomaly)に,地震発生域の下端に相当する位置にピークがある場合があることを報告し,trench-parallel fore-arc ridges (TPFRs)と名づけた.本研究で得られた重力異常ピークの位置は,例えばクリル海溝,トンガケルマデック海溝といった海溝で彼らが示したTPFRの位置とよく一致しており,平均からの偏差としなくとも,重力異常の絶対値にTPFRが現れていることを示唆している.我々の分類では6000mを超える沈み込み帯の全てで前弧に重力異常のピークが見えており,Basset and Wasst (2015)では海溝距離でのアンサンブル平均値を差し引いているが,比較的均一な海溝や,あるいは海溝平行方向の変化の大きすぎる海溝ではかえって差し引かないほうが,TPFRをよく表している可能性も示唆される.



本発表では海溝の浅い沈み込み帯も含めて,ピークと過去の地震の震源域,Basset and Wasst (2015)のTPFRとの対応について,詳細に検討した結果を発表する.