JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] [EJ] 重力・ジオイド

2017年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山本 圭香(国立天文台)、宮崎 隆幸(国土交通省国土地理院)、座長:潮見 幸江(群馬大学大学院理工学府)、座長:今西 祐一(東京大学地震研究所)

11:45 〜 12:00

[SGD02-11] アラスカ南東部のiGrav-003超伝導重力計で観測された陸水重力変化の物理的モデリング

横山 智也1、*風間 卓仁1三浦 哲2金 娧希2田村 良明3 (1.京大理、2.東北大理・地震噴火予知研究観測センター、3.国立天文台水沢)

キーワード:陸水重力変化、超伝導重力計、iGrav、氷河、土壌水、地下水

アラスカ南東部では氷河融解に伴い年間最大3センチの地殻隆起が観測されている(Larsen et al., JGR, 2007)。この地殻隆起は「過去の氷河融解に伴う粘弾性変形」と「現代の氷河融解に伴う弾性変形」を含んでおり、地殻変動と同時に地上重力変化を観測することで両者を分離することができる(Wahr et al., GRL, 1995)。しかしながら、地上重力データには土壌水浸透・地下水流動といった陸水変動の影響が含まれており、氷河融解に伴う重力変化を正しく理解するにはこれら陸水変動に伴う重力擾乱を適切に補正する必要がある。この際、重力観測点のごく近傍の水質量分布が重力擾乱に大きく寄与するので、重力観測点周辺の水質量収支を現実的にモデル化することが最も重要である。
そこで本研究は、アラスカ南東部・ジュノーの重力観測点EGAN周辺のローカルな陸水収支、およびそれに伴う重力変化を物理モデルによって再現し、EGANの超伝導重力計iGrav(シリアル番号:003)で観測された陸水重力擾乱と比較した。具体的には、まず陸水流動解析ソフトウェアG-WATER [3D](Kazama et al., JGR, 2015)を用いてEGAN周辺における土壌水および地下水の時空間変化を計算し、それを空間積分することで重力変化g1(t)を見積もった。次に、EGANに隣接するオーク湖の水位データを用い、湖水位変化に伴う万有引力変化g2(t)を見積もった。さらに、観測点EGANの建物の屋根に雪が積もることを考慮し、EGANの建物形状と近隣の積雪データから積雪変化に伴う万有引力変化g3(t)を計算した。最後に、これらの重力変化をgcal(t) = g1(t) + g2(t) + g3(t)として足し合わせ、実際に観測された超伝導重力変化gobs(t)と比較した。
計算されたg1(t), g2(t), g3(t)の振幅(peak to peak)はそれぞれ約4, 1, 1マイクロガルで、土壌水・地下水の寄与が最も大きくなった。特に、2012年9月~12月の100日間についてgobs(t)とgcal(t)を比較すると、降水に伴う重力の急激な上昇、および土壌水浸透・地下水流動に伴う緩やかな重力減少のパターンが良く一致した。しかしながら、G-WATERにおいて土壌の飽和透水係数に10-8 m/sオーダーの低い値を設定すると、この期間のgcal(t)の振幅はgobs(t)の30%程度に小さくなることが分かった。これは、透水係数を小さくすると土壌の毛細管効果が強く作用することで、非降水時の土壌含水率が大きくなる反面、降水時に水の浸透できる空隙が少なくなるためと考えられる。そこで本研究は、透水係数をはじめとした土壌パラメーター群を6セット準備し、各土壌パラメーター群に対してg1(t)およびgcal(t)を計算した。その結果、透水係数1.5*10-6 m/sの土壌を仮定した際に振幅比gcal(t)/gobs(t)が55%と最も大きくなることが分かった。この透水係数の値は、EGAN周辺の土壌が氷河堆積物のglacier siltで覆われていることと整合的である。
このように、本研究は土壌水・地下水・湖水・積雪の局所分布に伴う重力変化を計算し、実際に観測された重力変化を55%の振幅で再現した。gcal(t)がgobs(t)に比べて依然として45%離れているのは、土壌パラメーターの空間不均質や広域の陸水変動が効いている可能性がある。これらを解決するには、土壌パラメーターの実測や、広域陸水モデル(GLDAS, WaterGAP等)を用いた重力変化の見積もりが必要と考えられる。