JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL34] [EJ] 「泥火山」の新しい研究展開に向けて

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:浅田 美穂(国立研究法人海洋研究開発機構)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、辻 健(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)

[SGL34-P01] 種子島海底泥火山から採取した間隙水中のホウ素同位体比

*土岐 知弘1安慶名 昂1井尻 暁2芦 寿一郎3 (1.琉球大学理学部、2.海洋研究開発機構、3.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:ホウ素同位体比、間隙水、泥火山、種子島沖

泥火山とは,泥の中に貯まったガスによって噴出した高さ数100 mほどの円錐状の地形的高まりである。こういった場所は,地下深部からの物質の供給路として,地球化学的な物質循環において重要な役割を果たしている。表層堆積物中の間隙水の化学組成や同位体組成を調べることは,地下深部からの物質循環を把握する上で有用なツールの一つである。種子島沖の海底泥火山は,これまでに高精度な地形調査が行われており,新たな泥流地形などが報告されている。本研究では,種子島沖の泥火山から採取した間隙水の化学組成及び同位体組成を調べることにより,種子島沖の泥火山における流体の起源や移動過程について考察した。
 2015年8月19日から9月1日にかけて,白鳳丸によるKH-15-2次航海において,種子島沖の二つの泥火山(MV1及びMV14)の頂部から,ピストンコアを用いて海底下約350 cmの堆積物を採取した。採取した堆積物から,船上で直ちに間隙水を抽出し,ポリ瓶に分取して持ち帰った。試料は,陸上のクリーンルームにおいて3N硝酸を1 wt%添加し,分析に供されるまで冷暗所に保管した。
 間隙水試料は,マイクロ昇華法を用いてホウ素を分離し,マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いてホウ素同位体比を測定した。ホウ素同位体比は,国際標準試料(NBS SRM 951)からの千分率偏差としてδ11B(‰)で表記した。精度は0.9‰以下であった。塩化物イオン濃度はイオンクロマトグラフィーにより,水の酸素及び水素同位体比はキャビティーリングダウン分光法により高知コアセンターで測定した。
 塩化物イオンの濃度は,いずれの泥火山についても深くなるにつれて海水の値よりも減少した。水の同位体比は,酸素は深くなるにつれて高くなり,水素同位体比は低くなった。また,これらの変化幅は,いずれもMV1の方が大きかった。一方,ホウ素同位体比は,深くなるにつれて,MV1では海水よりも低くなり,MV14では海水よりも高くなった。
 いずれの泥火山においても,塩化物イオン濃度が低く,水の酸素同位体比が高く,水素同位体比が低い流体が,深部から供給されていることが示唆された。また,これらの変化幅の違いは,深部流体のフラックスの違いを表していると考えられ,変化幅の大きなMV1の方が変化幅の小さなMV14よりも深部からの流体のフラックスが大きいことが示唆された。水の酸素及び水素同位体比の組み合わせから,流体の起源はいずれの泥火山においても粘土鉱物の脱水起源であると考えられ,粘土鉱物の脱水反応が起こる60~160°Cといった温度環境から来た流体であることが示唆された。通常の地温勾配であれば,海底下数km程度の温度環境であると推定される。異なるホウ素同位体比を示したことは,同じ温度環境で粘土鉱物から放出されたホウ素が,堆積物中を上昇する際に受けた二次的な反応の違いによる影響と考えられる。
 本研究では,種子島沖海底における二つの泥火山から採取した間隙水の化学組成及び同位体組成を調べた。これらの泥火山には,深部からの流体のフラックスに違いがあることが示唆された。このうち,流体フラックスの小さい泥火山では,流体の上昇過程における二次的な反応の影響が示唆された。