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[SGL35-05] ESR法による断層活動性評価-浅野断層トレンチ掘削試料を用いた摩擦実験によるアプローチ
キーワード:ESR年代測定、電子スピン共鳴、浅野断層、断層ガウジ、断層活動性評価、摩擦試験
断層岩の年代から断層活動性評価を行う手法の一つとして,ESR(電子スピン共鳴)年代測定法がある(福地,2004)。ESR法では,断層岩中に含まれるESR信号が断層摩擦熱によりリセットされることを仮定して最新活動年代を求めるが,ESR信号が不完全にリセットされている場合には実際の活動年代よりも古い年代値が得られてしまう。ESR信号の不完全リセットの問題は,摩擦熱温度が上昇しやすい地下深部から断層岩試料を採取することで解決できると考えられるが,ボーリングの掘削深度が大きい程コストが掛かるので,ESR信号が完全にリセットされる深度を明らかにすることが重要である。そこで今回,浅野断層のトレンチ掘削調査で採取された断層ガウジを用いて摩擦試験を実施し,試験後のガウジ試料のESR解析を実施し,ESR信号が完全にリセットされる条件について検討を行った。また,試験後のガウジ試料から得られるESRスペクトルと浅野断層トレンチ及びボーリング掘削で採取された断層ガウジから検出されるESRスペクトルを比較し,天然における断層摩擦熱によるリセット現象の考察を行った。
摩擦試験に用いた断層ガウジ試料は,浅野断層トレンチ北壁の断層中軸部において花崗岩と大阪層群が接する部分に発達する幅~10 mmの灰白色ガウジである。自然乾燥後粉砕した灰白色ガウジは,直径24.98 mmに整形した一対の円柱状斑レイ岩試料の間に挟み,一方の円柱を回転させて剪断摩擦を与えた(堤・他,2016)。摩擦試験は,dry及び蒸留水で浸したwet条件下において,垂直応力2 MPa,すべり速度1.3 m/sで実施した(堤・他,2016)。 総変位量30mの時のガウジ内の最高到達温度は,dry条件下で380℃程度,wet条件下で340℃程度に達していたと推定される。摩擦試験後は,dry及びwet条件とも剪断面の中心を基準(=0mm)として,ガウジ試料を 0~9mm(中心部),9~16㎜(中間部),16~25mm(円周部)に三分割し,各々の部分についてESR測定を行った。その結果,dry条件下では,三分割した部分全てから摩擦熱により生成するFMR(フェリ磁性共鳴)信号が検出され(Fukuchi,2012),中心部から円周部に向かって信号強度が著しく増大しているのが確認された。また,中間部および円周部では,ESR年代測定に使用できる石英E’中心やモンモリロナイト(Mo)四重信号がリセットされているのが確認された。これに対して,wet条件下では,円周部において弱いFMR信号が検出されたが,E’中心やMo四重信号はほとんどリセットされていなかった。従って,浅野断層ガウジのESR信号がリセットされる時にはFMR信号の著しい増大が起こっている可能性が高いことが判明した。一方,浅野断層300m掘削コア試料の深度200m付近に位置するfa-5断層破砕帯のガウジ試料からは,wet条件下の円周部と同様のFMR信号が検出され,浅野断層ではwet条件下で断層摩擦熱が上昇した可能性が示唆される。
引用文献
福地龍郎,2004,ESR(電子スピン共鳴)法による断層活動年代測定―その原理と実践―.深田研ラ イブラリー,63,45pp.
T. Fukuchi, 2012, ESR Techniques for the Detection of Seismic Frictional Heat. In: Earthquake Research and Analysis: Seismology, Seismotectonics and Earthquake Geology (ed. D'Amico Sebastiano). InTech-Open Access Publisher, 285-308.
堤 昭人・他,2016,野島断層の分岐断層(浅野断層)中軸部物質の高速摩擦特性と摩擦発熱過程.日本地質学会第123年学術大会講演要旨,T1-P-7.
摩擦試験に用いた断層ガウジ試料は,浅野断層トレンチ北壁の断層中軸部において花崗岩と大阪層群が接する部分に発達する幅~10 mmの灰白色ガウジである。自然乾燥後粉砕した灰白色ガウジは,直径24.98 mmに整形した一対の円柱状斑レイ岩試料の間に挟み,一方の円柱を回転させて剪断摩擦を与えた(堤・他,2016)。摩擦試験は,dry及び蒸留水で浸したwet条件下において,垂直応力2 MPa,すべり速度1.3 m/sで実施した(堤・他,2016)。 総変位量30mの時のガウジ内の最高到達温度は,dry条件下で380℃程度,wet条件下で340℃程度に達していたと推定される。摩擦試験後は,dry及びwet条件とも剪断面の中心を基準(=0mm)として,ガウジ試料を 0~9mm(中心部),9~16㎜(中間部),16~25mm(円周部)に三分割し,各々の部分についてESR測定を行った。その結果,dry条件下では,三分割した部分全てから摩擦熱により生成するFMR(フェリ磁性共鳴)信号が検出され(Fukuchi,2012),中心部から円周部に向かって信号強度が著しく増大しているのが確認された。また,中間部および円周部では,ESR年代測定に使用できる石英E’中心やモンモリロナイト(Mo)四重信号がリセットされているのが確認された。これに対して,wet条件下では,円周部において弱いFMR信号が検出されたが,E’中心やMo四重信号はほとんどリセットされていなかった。従って,浅野断層ガウジのESR信号がリセットされる時にはFMR信号の著しい増大が起こっている可能性が高いことが判明した。一方,浅野断層300m掘削コア試料の深度200m付近に位置するfa-5断層破砕帯のガウジ試料からは,wet条件下の円周部と同様のFMR信号が検出され,浅野断層ではwet条件下で断層摩擦熱が上昇した可能性が示唆される。
引用文献
福地龍郎,2004,ESR(電子スピン共鳴)法による断層活動年代測定―その原理と実践―.深田研ラ イブラリー,63,45pp.
T. Fukuchi, 2012, ESR Techniques for the Detection of Seismic Frictional Heat. In: Earthquake Research and Analysis: Seismology, Seismotectonics and Earthquake Geology (ed. D'Amico Sebastiano). InTech-Open Access Publisher, 285-308.
堤 昭人・他,2016,野島断層の分岐断層(浅野断層)中軸部物質の高速摩擦特性と摩擦発熱過程.日本地質学会第123年学術大会講演要旨,T1-P-7.