09:05 〜 09:20
[SGL36-01] 低温領域の熱年代学とthermo-kinematicモデルに基づいた赤石山脈北部の隆起・削剥史
キーワード:赤石山脈、糸魚川‐静岡構造線断層帯、低温領域の熱年代学、thermo-kinematicモデル、arc-arc衝突帯
赤石山脈は,東北日本弧と西南日本弧の会合部付近に形成された日本アルプスの一部であるとともに,伊豆-ボニン弧と本州弧の衝突帯である南部フォッサ・マグナ地域にも含まれ,その隆起過程の解明は島弧会合部のテクトニクスの理解に有用である.本研究では,赤石山脈北部の熱年代を基に,thermo-kinematicモデル(Pecube ver. 3; Braun et al., 2012)を用いて以下を検討した:1)赤石山脈北部の隆起と糸静線断層帯南部の活動の関係,2)糸静線断層帯南部の地下形状や変位速度,3)赤石山脈北部の隆起・削剥史.
利用した熱年代データはSueoka et al. (2012, abst. AGU) が報告したもので,山地横断方向(東西方向)にアパタイトフィッション・トラック(AFT)年代,ジルコン(U-Th)/He(ZHe)年代,ジルコンフィッション・トラック(ZFT)年代,ジルコンU-Pb年代が得られている.AFT年代,ZHe年代,ZFT年代には,概して山地の東側で若くなる傾向が見られた.すなわち,山地東部でより多くの削剥が生じており,山地全体は西に傾動隆起していると考えられる.また,最も若いAFT年代とZHe年代は約3Maだが,これは曙礫岩層の堆積開始年代から推定された赤石山脈の隆起開始時期(約3.3Ma;狩野,2002)と一致する.ただし,最も若い年代は白州~鳳凰山断層の西側で得られており,その東側から下円井~市之瀬断層の間では,岩体の形成年代である約16Maより有意に若い年代は得られなかった.すなわち,赤石山脈北部を隆起させたのは主に白州~鳳凰山断層で,それ以東の山地では,約16Ma以降の削剥量は2~3km未満となる.下円井~市之瀬断層は赤石山脈と甲府盆地の現地形境界をなすが,赤石山脈の隆起開始以降に活発化した断層群と考えれば,上記の結果と矛盾しない.この考えは,更新世に逆断層frontの盆地側へのmigrationが起こったとする田力(2002)の推測とも一致する.
以上の年代測定結果・解釈を踏まえ,白州~鳳凰山断層の活動で赤石山脈北部の隆起を説明できるか,thermo-kinematicモデルによる検証を試みた.すなわち,単純なflat-ramp構造(2枚の矩形の断層面からなる純粋な逆断層)で近似した白州~鳳凰山断層の活動で山地が隆起した時に,地表で見られる熱年代の理論値を求め,実測値と比較した.その結果,変位速度が5~10mm/yr,rampの傾斜が27~45°,デコルマの深度が20~25kmの時,実測値と最も良く一致した.また,変位速度とrampの傾斜から,赤石山脈北部の基盤隆起速度は約4mm/yrと計算できるが,基盤隆起速度と削剥速度の動的平衡を仮定すれば,削剥速度も約4mm/yrとなる.この値は,ダムの堆砂速度や宇宙線生成核種法から推定された,より短期間の削剥速度(例えば,藤原ほか,1999; Korup et al., 2014)とほぼ一致しており,動的平衡の仮定共々妥当と考えられる.また,上記で推定した断層パラメータも,地下構造探査や地球物理学的観測などの結果(例えば,Ikeda et al., 2009; Panayotopoulos et al., 2010; 浅野ほか,2010)と矛盾しない.以上から,上記のパラメータを有した白州~鳳凰山断層の約3.3Ma以降の活動により,赤石山脈北部は隆起したと結論付けられる.
これらの結果に基づけば,赤石山脈北部の隆起・削剥様式は,Sueoka et al. (2012) のモデルのうち,simple tilted upliftモデルで良く説明できる.すなわち,片側の断層(ここでは白州~鳳凰山断層)の活動で傾動隆起した非対称な山地横断面形を持ち,断層側に向かって基盤隆起速度・削剥速度ともに増加する.ただし,同じモデルが赤石山脈の南部にも当てはまるかどうかは議論の余地がある.Yamagiwa (1998MS) が報告したAFT年代は約1Maを示すなど,北部とは異なる熱年代の分布を示す.また,南部では山地側に隆起をもたらす活断層の分布が不明瞭であるうえ,山地の幅が広く,断層運動による短波長の変形で説明できるかどうかは不明である.赤石山脈南部の隆起の原因については,約1Ma以降の伊豆ブロックの衝突なども考慮する必要がある(例えば,Hashima et al., 2016).なお,FT年代やHe年代が若返るにはkmオーダーの削剥が必要なため,赤石山脈で見られる侵食小起伏面や山頂の定高性は,隆起前の準平原地形の遺物というよりは,山体重力変形や周氷河作用などの隆起開始後のプロセスで形成されたと考えられる.
利用した熱年代データはSueoka et al. (2012, abst. AGU) が報告したもので,山地横断方向(東西方向)にアパタイトフィッション・トラック(AFT)年代,ジルコン(U-Th)/He(ZHe)年代,ジルコンフィッション・トラック(ZFT)年代,ジルコンU-Pb年代が得られている.AFT年代,ZHe年代,ZFT年代には,概して山地の東側で若くなる傾向が見られた.すなわち,山地東部でより多くの削剥が生じており,山地全体は西に傾動隆起していると考えられる.また,最も若いAFT年代とZHe年代は約3Maだが,これは曙礫岩層の堆積開始年代から推定された赤石山脈の隆起開始時期(約3.3Ma;狩野,2002)と一致する.ただし,最も若い年代は白州~鳳凰山断層の西側で得られており,その東側から下円井~市之瀬断層の間では,岩体の形成年代である約16Maより有意に若い年代は得られなかった.すなわち,赤石山脈北部を隆起させたのは主に白州~鳳凰山断層で,それ以東の山地では,約16Ma以降の削剥量は2~3km未満となる.下円井~市之瀬断層は赤石山脈と甲府盆地の現地形境界をなすが,赤石山脈の隆起開始以降に活発化した断層群と考えれば,上記の結果と矛盾しない.この考えは,更新世に逆断層frontの盆地側へのmigrationが起こったとする田力(2002)の推測とも一致する.
以上の年代測定結果・解釈を踏まえ,白州~鳳凰山断層の活動で赤石山脈北部の隆起を説明できるか,thermo-kinematicモデルによる検証を試みた.すなわち,単純なflat-ramp構造(2枚の矩形の断層面からなる純粋な逆断層)で近似した白州~鳳凰山断層の活動で山地が隆起した時に,地表で見られる熱年代の理論値を求め,実測値と比較した.その結果,変位速度が5~10mm/yr,rampの傾斜が27~45°,デコルマの深度が20~25kmの時,実測値と最も良く一致した.また,変位速度とrampの傾斜から,赤石山脈北部の基盤隆起速度は約4mm/yrと計算できるが,基盤隆起速度と削剥速度の動的平衡を仮定すれば,削剥速度も約4mm/yrとなる.この値は,ダムの堆砂速度や宇宙線生成核種法から推定された,より短期間の削剥速度(例えば,藤原ほか,1999; Korup et al., 2014)とほぼ一致しており,動的平衡の仮定共々妥当と考えられる.また,上記で推定した断層パラメータも,地下構造探査や地球物理学的観測などの結果(例えば,Ikeda et al., 2009; Panayotopoulos et al., 2010; 浅野ほか,2010)と矛盾しない.以上から,上記のパラメータを有した白州~鳳凰山断層の約3.3Ma以降の活動により,赤石山脈北部は隆起したと結論付けられる.
これらの結果に基づけば,赤石山脈北部の隆起・削剥様式は,Sueoka et al. (2012) のモデルのうち,simple tilted upliftモデルで良く説明できる.すなわち,片側の断層(ここでは白州~鳳凰山断層)の活動で傾動隆起した非対称な山地横断面形を持ち,断層側に向かって基盤隆起速度・削剥速度ともに増加する.ただし,同じモデルが赤石山脈の南部にも当てはまるかどうかは議論の余地がある.Yamagiwa (1998MS) が報告したAFT年代は約1Maを示すなど,北部とは異なる熱年代の分布を示す.また,南部では山地側に隆起をもたらす活断層の分布が不明瞭であるうえ,山地の幅が広く,断層運動による短波長の変形で説明できるかどうかは不明である.赤石山脈南部の隆起の原因については,約1Ma以降の伊豆ブロックの衝突なども考慮する必要がある(例えば,Hashima et al., 2016).なお,FT年代やHe年代が若返るにはkmオーダーの削剥が必要なため,赤石山脈で見られる侵食小起伏面や山頂の定高性は,隆起前の準平原地形の遺物というよりは,山体重力変形や周氷河作用などの隆起開始後のプロセスで形成されたと考えられる.