JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL37] [JJ] 地球年代学・同位体地球科学

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

09:30 〜 09:45

[SGL37-03] 低温領域の熱年代学的手法を用いた東北日本弧の隆起・削剥史の解明

*福田 将眞1末岡 茂2長谷部 徳子3田村 明弘3荒井 章司3田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.日本原子力研究開発機構、3.金沢大学理工研究域)

キーワード:熱年代学、(U-Th)/He法、フィッショントラック法、東北日本弧

東北日本には沈み込み帯に平行な複数列の山脈が分布し,世界的にも典型的な島弧として知られる.そのテクトニクスは太平洋プレートやフィリピン海プレートよって支配され(高橋 2006),プレート沈み込みに伴う応力によって陸域の山脈や地形構造は形成されてきたと考えられている.東北日本の主要なテクトニクス変遷は大まかに,30 Ma以前の大陸縁の時代から,25 Ma頃から始まる引張応力場の日本海拡大(Otofuji et al. 1985; Tosha and Hamano 1988),13.5 Maに日本海拡大が終了し,10 Ma頃から始まる圧縮テクトニクス,そして5 Maから現在まで続く圧縮応力場,によるInversion Tectonics(佐藤 1996)によって陸域が隆起する,といった応力場の大規模な変化を経験している.東北日本の地形の大半は鮮新世から第四紀に形成されたと考えられ(米倉ほか 2001),引張場によって形成された断層が最近の強い圧縮応力場で再活動し隆起に作用させたと考えて差し支えない.しかし,島弧横断方向の山地の隆起史はそれぞれ異なっている可能性がある.

地殻の変形像を把握する手段には,様々なタイムスケールを対象とした観測手法が存在する.測地学的な手法として,日本は世界的にも稠密なGPS観測網が発達しており(Sagiya et al. 2000),100年以下のオーダーの隆起速度は非常に精度よく求められている.しかし,山地の隆起や成長速度は106~107年のスケールだと考えられているので,GPS観測で得られた短期間のタイムスケールの隆起速度が,そのまま山地形成のタイムスケールの隆起速度に外挿できるとは限らない.さらに,地質学的タイムスケールの歪速度は適用範囲に制約があり,特に山地地域では困難であった.このような理由で,>106年単位での隆起速度を定量的に評価した研究は数少ない.

本研究では,複雑な東北日本弧のテクトニクスが山地の発達に与える影響や,地質学的タイムスケールの変形像を定量的に解明する目的で,低温領域の熱年代学的手法を用いた.この手法は106年単位の山地地域の熱史を推定する手法であり,上記の課題に関して解決方策となりうると考えられる.研究地点はSueoka et al. (2016)によってアパタイトとジルコンの(U-Th)/He(順に,AHeおよびZHe)年代が報告されている阿武隈山地~奥羽脊梁山地~朝日山地(南測線)を対象とし,アパタイトフィッション・トラック(AFT)法による年代測定とFT長を利用した逆解析を実施した.AFT法を適用した理由としては,①AFT法の閉鎖温度(90~120℃)がAHe法とZHe法の閉鎖温度の中間であり(AHe:55~80℃,ZHe:160~200℃),これらのデータと合わせると60~200℃までの連続的な熱史の復元が可能であること,②AFT法ではFT長分布を利用した熱史の逆解析が可能であり(例えば,Ketcham 2005),トラックの10~90%保持領域であるPartial Annealing Zone (PAZ)の60~130℃までの熱史を高精度に推定できること,の2点が挙げられる.

本研究の結果として,阿武隈山地で79.5~66.0 Ma, 奥羽脊梁山地で29.8~5.5 Ma, 朝日山地で21.0~17.6 MaのAFT年代が得られた.これらは,先行研究のFT年代(後藤 2001, Ohtani et al. 2004)やHe年代(Sueoka et al. 2016)の年代値と整合的な値を示している.また,HeFTy (Ketcham 2005)を用いたトラック長による逆解析では熱史の最終変曲点から年代を読み取り,阿武隈山地では80~60 Ma以降徐冷のパターン,奥羽脊梁では約1 Ma以降の急冷,朝日山地では6~5 Ma以降の急冷パターンが検出される結果となった.これらの推定された熱史をもとに,先行研究の構造史(Sato 1994; Yoshida et al. 2013; Nakajima 2013)や熱史(Takahashi et al. 2016)との比較検討を行った.
​1)前弧側では,白亜紀以降安定的な削剥環境であることと,50 Ma以降の削剥量が約2 km程度であることが推定された.つまり25 Maから始まる日本海拡大以降のテクトニクスの影響は少なく,白亜紀後期以降は非常に緩やかな削剥環境であったことが推測される.ただし,第四紀以降の削剥速度(Regalla et al. 2013)や最近12万年間での隆起速度(Suzuki 1989)はそれぞれ0.1~0.2 mm/yr,0.2~0.6 mm/yrと算出されており,本研究手法では検出できなかったが,第四紀以降の削剥が加速した可能性がある.
2)奥羽脊梁は6 Ma頃から始まる東西圧縮や3~2 Ma頃から始まる強圧縮によって隆起したとされている(Sato 1994; Nakajima 2013).山脈の中心部ではこの頃のテクトニクスの影響を示唆するAHe年代(2~1 Ma)およびAFT年代(6~5 Ma)や,逆解析による最終変曲点が約1 Maとされ,奥羽脊梁の隆起開始や最近2 Ma以降の急激な冷却を示唆する熱史が推定された.一方,縁辺部では>30 Maの古いAFT年代やZHe年代も得られており,脊梁山地内でも熱史は異なっていることが示唆された.これらの古い年代値は,日本海拡大期における第四紀の火山活動によるPartial Resetの可能もあり,解釈は容易ではない.ただし,大陸縁時代の年代値は数少なく,これらの古い年代値はその頃の熱史を復元できる可能性がある.
​3)背弧側は,AHe年代がすべて10 Maを切っていることや,トラック長による逆解析によって推定された熱史で約6~5 Ma頃に最終変曲点を持つことから推測すると,奥羽脊梁と同様に10 Maまでの東西圧縮の影響を受けている可能性がある.ただし,30 Ma付近の年代値の解釈は,グリーンタフ変動で知られる活発な火山活動や海進等の影響による沈降により,困難を極める.

今後の課題として,①測定数が不足している地点(特にST13,ST15)のAFT年代およびFT長の追加測定によってデータの信頼度を向上させる,②南測線のより詳細な熱史復元のため,ZFT法やU-Pb法などの他の分析手法を用いる,③Sueoka et al. (2016)によってHe年代が報告済みの北測線(北上山地~奥羽脊梁山地~太平・白神山地)のFT分析は手つかずの状態であるため,これらの測定が急がれる,などの課題が挙げられる.