JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL37] [JJ] 地球年代学・同位体地球科学

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

10:00 〜 10:15

[SGL37-05] パカ火山の40Ar/39Ar年代測定から見た北部ケニアリフト拡大軸上火山岩の全岩化学組成の時間変化

*周藤 正史1Strecker Manfred. R.1Friese Andrea2Hahne Kai2Frei Michaela2Riedl Simon1Lopeyok Tito3Mibei Geoffrey3 (1.University of Potsdam、2.Federal Inst. Geoscience Natur. Resource、3.Geothermal Development Company)

キーワード:ケニアリフト、アルゴンアルゴン年代測定、第四紀火山、玄武岩、トラカイト、全岩化学組成

ケニアリフトは,リフト中に見られる新鮮な第四紀カルデラ地形の分析などにより,陸上で最も活動的なリフトの一つと考えられている。そのうちケニアリフトの北半分には6個の火山の噴出中心が,玄武岩やトラカイトを噴出し,中規模のトラカイト質盾状火山を形成している。
これらのうちの一つ,パカ火山の活動時期が,主に溶岩からなる最新の32火山岩試料の40Ar/39Ar年代測定により0.58 Maから0.012 Maであることが示された。これらは石基試料から得られたプラトー年代とアイソクロン年代を注意深く吟味して得られた年代値であり,北部ケニアリフトの形成史の理解に大変有効である。活動期間中には3度の相対的に噴火回数の多い時期が,0.4 Ma, 0.15 Ma頃及び,0.05 Maより若い時期に見られた。これに基づいてパカの全活動時期を0.6-0.35 Ma (I), 0.35-0.1 Ma (II), 0.1-0 Ma (III)の3期に分けてパカの火山活動史を調べると,活動が進むと共に噴火口の分布が現在のケニアリフトの方向であるNNE-SSW方向に収束することが見られた。
また得られた年代を C.I.P.W.ノルム鉱物と組み合わせてみると,Dunkley et al. (1993)による北部ケニアリフトの地質調査の報告において,考察されたパカの活動史とは異なる姿が明らかになった。パカにおいて火山活動は0.58 Maにノルムネフェリンを持つ玄武岩(Lower Basalt)の噴出で始まる一方,ノルムハイパーシンを持つ玄武岩は,0.43 Ma 以来 0.01 Maまで活動が続くトラカイトマグマの噴出中に並行して0.3から0.1 Maの間でのみ噴火した(図)。
Dunkley et al. (1993)及び今回得られた全岩化学組成では,ノルムハイパーシンを持つ玄武岩は,ノルムネフェリンを持つ玄武岩よりも広範囲にパカの周囲に分布し,一方ノルムネフェリンを持つ玄武岩はパカでのみ分布する。しかしながらDunkley et al. (1993)では,パカ火山はそれらノルムハイパーシンを持つ玄武岩溶岩流の上に乗っており,また最も若いノルムハイパーシンを持つ玄武岩溶岩流(Young Basalt)がパカや隣接するシラリ,及びコロシ火山のさらに上位層として存在すると考えられたが,今回得られた年代値はこのモデルを支持しない。上記の通り,ノルムハイパーシンを持つ玄武岩は,実際にはむしろパカ火山形成中の中頃の時期にのみ噴出し,一方パカで最も古い玄武岩はノルムネフェリンを持つ玄武岩であった。
この得られた新しい噴出の順序では,むしろよりシンプルに,パカの直下に1つの熱いマントルダイアピルが断熱上昇して玄武岩マグマを順に分離したというモデルで,パカ火山のマグマ生成システムを実験岩石学の成果を用いて説明することができる。ダイアピルからは初めにより高圧下で少量のノルムネフェリンを持つ玄武岩マグマが生成して噴出し,さらにより浅い低圧下ではより高い部分溶融度でより多量のノルムハイパーシンを持つ玄武岩マグマが生成され,噴出したと考えられる。
さらに,上記で分けられた3期に沿って,火山岩中の,マントル鉱物に対する不適合元素の比であるNb/Zr比が減少することが観察された。このことも,パカ直下に上昇してきた単一の熱いマントルダイアピルからの玄武岩質マグマの分離の繰り返しというモデルで説明できる。なぜならマントルからの分別融解の繰り返しによって分離した玄武岩マグマ中のNb/Zr比は,マントル鉱物に対するZrの僅かに高い分配係数によって徐々に減少するため,その玄武岩及び玄武岩に由来するトラカイトに維持されていると考えられるからである。
以上の議論により,パカ火山の火山活動史は,単一のマントルダイアピルの上昇と玄武岩マグマの分離という比較的単純なモデルで説明することが可能である。これまで北部ケニアリフト中の洪水玄武岩とトラカイト質盾状火山は,それぞれ別のマグマ噴出物として考えられることが多かったが,今回の結果は,それらのマグマが同一のマグマ生成システムに由来し,同一の火山から噴出したと考えられる場合があることを示唆している。我々はまた,今回の年代測定によって得られたパカ火山の新しい火山地質層序を提案する。

Reference: Dunkley P. M., M. Smith, D. J. Allen and W. G. Darling (1993): International Series, Research Report SC/93/1, 185pp, British Geological Survey