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[SGL37-09] NanoSIMSを用いたZagamiとRBT04261中のリン酸塩鉱物のウラン-鉛年代測定
キーワード:火星隕石、年代学、Zagami、RBT04261、NanoSIMS、リン酸塩鉱物
[1]導入
火星隕石のうちシャーゴッタイトに分類される隕石は、火成活動に由来した岩石であると考えられている。このシャーゴッタイトの年代学的な情報、特に結晶化年代を考えることは火星の火成活動の歴史を制約するのに重要である[1][2]。
シャーゴッタイトの年代学的研究は様々な放射性同位体を用いて研究されており、その多くは約2億年を示している(例:[1])。特にウランは半減期が長く、また、ウラン-鉛系列は2つの壊変系が存在するため、火星隕石の年代測定によく用いられる。TIMSを用いたZagami隕石の全岩238U-206Pb年代は230±5 Maであった[3]。また、SIMS(IMS 1280)を用いたZagami中のリン酸塩鉱物における238U-206Pb年代として153±81 Maが報告されており[4]、TIMSと調和的である。一方、Bouvier et al. [2]らは207Pb-206Pb年代として4048±17 Maという年代を報告している。Bouvierらは41億年がシャーゴッタイトの結晶化年代で、そのほかの年代は、衝撃変成もしくは水質変成によりリセットされた年代であると主張した。水質変成や衝撃変成に強いバデレアイトを用いた鉱物年代測定では、RBT 04261に対して235±37 Maという鉱物年代が報告されており、約2億年という年代が結晶化年代とされた[5]。
本研究ではリン酸塩鉱物に着目し、玄武岩質シャーゴッタイトであるZagamiとレルゾライト質シャーゴッタイトであるRBT 04261の238U-206Pb年代測定、207Pb-206Pb年代測定を行った。さらに、結晶化年代を得るために2つの年代測定法を用いて「U-Pb 3D年代」を求め、得られた年代から火星がマグマ活動を行っていた年代について考察することを目的とした。
[2]方法
測定に用いたZagamiの厚片は東京大学の杉浦先生、RBT 04261の厚片はNASA-JSCからそれぞれ借用した。
東京大学理学部のSEM-EDS (S-4500)、および大気海洋研究所のEPMA (JXA-8900)を用いてZagami、RBT 04261中のカルシウムに富むリン酸塩鉱物(アパタイト、メルリライト[Ca9NaMg(PO4)7])の観察および同定を行った。
大気海洋研究所のNanoSIMS 50を用いて238U-206Pb年代を求めた。その後、同じスポットで207Pb-206Pb年代を求め、3D年代を決定した。
[3]結果、考察
得られた238U-206Pb年代はそれぞれZagami:164±240 Ma、RBT04261:261±72 Ma(どちらも誤差は2σ)と求まった。
207Pb-206Pb年代は誤差が大きく、意味のある年代は得られなかった。
2つの隕石の3D年代はそれぞれ、Zagami:245±80 Ma、RBT 04261:248±41 Maと求まった。回帰直線が両方で引けたので、年代系が2次的な変成の影響を受けていないことが分かった。したがって、求めた年代は隕石の結晶化年代と考えられる。2つの結晶化年代はおよそ250 Ma(2.5億年前)で一致した。さらに、先行研究[3][4][5]の238U-206Pb年代と本研究で得られた2つの3D年代は誤差の範囲内で一致した。
また、Zagamiの初期鉛同位体比(以下初生比と表す)は206Pb/204Pb=14.46±0.82、207Pb/204Pb=15.45±0.65と求まり、RBT04261の初生比は206Pb/204Pb=10.1±2.2、207Pb/204Pb=12.7±1.1と求まった。2つの隕石は初生比が異なっていることから、初生比の異なるマグマで結晶化したか、初生比の異なる鉛が混入したかという可能性が考えられる。したがって2つの可能性が考えられる:(1)250 Maに形成した初生比の異なるマグマが複数あり、2つの隕石は別々のマグマで結晶化したという可能性。(2)250 Maの1つのマグマでZagamiとRBT 04261が結晶化したものの、浅部で形成されたと考えられているZagamiが高温で火星表層に噴出した際に、隕石中に火星表層の初生比の異なる鉛が混入したという可能性。上記の仮説を証明するためには、他の年代系や隕石中の微量元素などの情報を合わせてさらに議論する必要がある。
[4]参考文献
[1] Nyquist et al. (2001) SS. 96, 105-164. [2] Bouvier et al. (2005) EPSL. 240, 221-233. [3] Chen and Wasserburg (1986) GCA. 50, 955-968. [4] Zhou et al. (2013) EPSL. 374, 156–163. [5] Niihara T. (2011) JGR. 116, E12008.
火星隕石のうちシャーゴッタイトに分類される隕石は、火成活動に由来した岩石であると考えられている。このシャーゴッタイトの年代学的な情報、特に結晶化年代を考えることは火星の火成活動の歴史を制約するのに重要である[1][2]。
シャーゴッタイトの年代学的研究は様々な放射性同位体を用いて研究されており、その多くは約2億年を示している(例:[1])。特にウランは半減期が長く、また、ウラン-鉛系列は2つの壊変系が存在するため、火星隕石の年代測定によく用いられる。TIMSを用いたZagami隕石の全岩238U-206Pb年代は230±5 Maであった[3]。また、SIMS(IMS 1280)を用いたZagami中のリン酸塩鉱物における238U-206Pb年代として153±81 Maが報告されており[4]、TIMSと調和的である。一方、Bouvier et al. [2]らは207Pb-206Pb年代として4048±17 Maという年代を報告している。Bouvierらは41億年がシャーゴッタイトの結晶化年代で、そのほかの年代は、衝撃変成もしくは水質変成によりリセットされた年代であると主張した。水質変成や衝撃変成に強いバデレアイトを用いた鉱物年代測定では、RBT 04261に対して235±37 Maという鉱物年代が報告されており、約2億年という年代が結晶化年代とされた[5]。
本研究ではリン酸塩鉱物に着目し、玄武岩質シャーゴッタイトであるZagamiとレルゾライト質シャーゴッタイトであるRBT 04261の238U-206Pb年代測定、207Pb-206Pb年代測定を行った。さらに、結晶化年代を得るために2つの年代測定法を用いて「U-Pb 3D年代」を求め、得られた年代から火星がマグマ活動を行っていた年代について考察することを目的とした。
[2]方法
測定に用いたZagamiの厚片は東京大学の杉浦先生、RBT 04261の厚片はNASA-JSCからそれぞれ借用した。
東京大学理学部のSEM-EDS (S-4500)、および大気海洋研究所のEPMA (JXA-8900)を用いてZagami、RBT 04261中のカルシウムに富むリン酸塩鉱物(アパタイト、メルリライト[Ca9NaMg(PO4)7])の観察および同定を行った。
大気海洋研究所のNanoSIMS 50を用いて238U-206Pb年代を求めた。その後、同じスポットで207Pb-206Pb年代を求め、3D年代を決定した。
[3]結果、考察
得られた238U-206Pb年代はそれぞれZagami:164±240 Ma、RBT04261:261±72 Ma(どちらも誤差は2σ)と求まった。
207Pb-206Pb年代は誤差が大きく、意味のある年代は得られなかった。
2つの隕石の3D年代はそれぞれ、Zagami:245±80 Ma、RBT 04261:248±41 Maと求まった。回帰直線が両方で引けたので、年代系が2次的な変成の影響を受けていないことが分かった。したがって、求めた年代は隕石の結晶化年代と考えられる。2つの結晶化年代はおよそ250 Ma(2.5億年前)で一致した。さらに、先行研究[3][4][5]の238U-206Pb年代と本研究で得られた2つの3D年代は誤差の範囲内で一致した。
また、Zagamiの初期鉛同位体比(以下初生比と表す)は206Pb/204Pb=14.46±0.82、207Pb/204Pb=15.45±0.65と求まり、RBT04261の初生比は206Pb/204Pb=10.1±2.2、207Pb/204Pb=12.7±1.1と求まった。2つの隕石は初生比が異なっていることから、初生比の異なるマグマで結晶化したか、初生比の異なる鉛が混入したかという可能性が考えられる。したがって2つの可能性が考えられる:(1)250 Maに形成した初生比の異なるマグマが複数あり、2つの隕石は別々のマグマで結晶化したという可能性。(2)250 Maの1つのマグマでZagamiとRBT 04261が結晶化したものの、浅部で形成されたと考えられているZagamiが高温で火星表層に噴出した際に、隕石中に火星表層の初生比の異なる鉛が混入したという可能性。上記の仮説を証明するためには、他の年代系や隕石中の微量元素などの情報を合わせてさらに議論する必要がある。
[4]参考文献
[1] Nyquist et al. (2001) SS. 96, 105-164. [2] Bouvier et al. (2005) EPSL. 240, 221-233. [3] Chen and Wasserburg (1986) GCA. 50, 955-968. [4] Zhou et al. (2013) EPSL. 374, 156–163. [5] Niihara T. (2011) JGR. 116, E12008.