JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT23] [EE] Structure and Dynamics of Earth and Planetary Mantles

2017年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:中川 貴司(海洋研究開発機構数理科学・先端技術研究分野)、趙 大鵬(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、芳野 極(岡山大学惑星物質研究所)、座長:中久喜 伴益(広島大学)、座長:梅本 幸一郎(東京工業大学)

11:45 〜 12:00

[SIT23-17] Mg2SiO4系およびMgSiO3系における高圧相関係の熱力学計算

*糀谷 浩1赤荻 正樹1 (1.学習院大学理学部化学科)

キーワード:mantle minerals, Mg2SiO4, MgSiO3, thermodynamic stability, high-pressure phase relation

Mg2SiO4およびMgSiO3は、地球のマントルを構成する鉱物の最主要端成分であり、高圧高温実験により高圧相関係が詳細に決定されてきた。一方、高圧高温実験と相補する形で、熱力学的手法によりそれらの系における相の安定性を検討する研究も行われてきた。相平衡境界線を求める熱力学計算においては、様々な研究者が実測によって決定した熱力学パラメータが使用される。また、実測に基づく熱力学パラメータがない場合には、高圧高温実験により決定された相境界を再現するように最適化されることもある。これらのことから、ある物質における熱力学パラメータ間の整合性は必ずしも取れているとは限らず、計算結果には大きな不確実さが伴っていた。

近年、Mg2SiO4やMgSiO3の高圧多形および構成酸化物について、より信頼性の高いエンタルピー、定圧熱容量、エントロピーそして状態方程式が実測により決定されてきている。そこで、本研究では、まずそれらの物質それぞれについて熱力学パラメータ間の内的調和性を吟味した。例えば、高温定圧熱容量測定が困難な物質については、実測の低温定圧熱容量を再現するようにして計算した定積熱容量に、状態方程式に用いられているものと同じ熱膨張率や体積弾性率を適用して計算した非調和効果の寄与を加えることにより高温熱容量の推定を行った。次に、計算の対象としたMg2SiO4系およびMgSiO3系の全ての相に関して、構成酸化物との落下溶解エンタルピーの差から標準生成エンタルピーを求めることにより、エンタルピー値の相対的な大小関係が統一的に決定された。この標準生成エンタルピー値があることで、任意の圧力温度における生成のギブス自由エネルギーを求めることが可能となる。そして、得られた熱力学データセットを用いることにより、無水の条件下26 GPa, 2300 Kまでの圧力温度範囲において、Mg2SiO4系およびMgSiO3系の高圧相関係を熱力学的に計算した。

熱力学計算により求められた相境界線は、Mg2SiO4系およびMgSiO3系ともに高圧その場観察実験により決定されたものと調和的である。また、Mg2SiO4系において、約1500 Kより低温側では、Mg2SiO4リングウッダイトとMgSiO3ブリッジマナイト+MgOの間にMgSiO3アキモトアイト+MgOの安定領域が存在するとの結果が得られた。周囲のマントル岩石よりも低温である沈み込むスラブ中では、圧力の増加に伴ってリングウッダイトがアキモトアイト+フェロペリクレースへの分解を経てブリッジマナイト+フェロペリクレースに相転移している可能性が示唆される。