15:45 〜 16:00
[SMP41-08] 九州西端西彼杵変成岩(白亜紀沈み込み帯)の深部沈み込みと超高圧変成作用:ダイヤモンド・石墨集合体の発見
キーワード:deep subduction, ultrahigh-pressure metamorpshim, diamond graphite aggregate, Nishisonogi metamorphic rock, pseudotachylyte, serpentinite melange
白亜紀沈み込み帯である九州西端の西彼杵変成岩より,ダイヤモンド・石墨集合体(DGA: diamond-graphite aggregates)を発見した.DGAは蛇紋岩メランジュ中に産し,蛇紋岩に含まれるものと泥質片岩に含まれるものがある.蛇紋岩中のものには2つの産状がある.クロミタイト中のもの(Nishiyama et al. 2014),石英・炭酸塩岩に発達するシュードタキライト様黒色脈中のものの2種である.泥質片岩中では,強く変形した黄鉄鉱斑状変晶中に産する.DGAを確認したすべての薄片はダイヤモンドペーストを用いずに作成(Al2O3ラッピングシート使用)し,カーボン蒸着はしていない.
いずれのDGAも1 μmから10 μm程度の粒子として産し,金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1330 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( G)ならびに2680cm-1( S1)の石墨のバンドを示す.またSEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断した.
クロミタイトは蛇紋岩中に1 cmから最大50 cmの厚さの薄層として稀に産し,径数100 μmのクロマイトよりなる.そのクロマイト中にpseudosecondary inclusionとして長さ数10 μmの包有物の列が認められ,その中にDGAが確認される.またSiO2を2 wt%程度含み,6~8 wt%程度の水を含有する特異なクロマイトも産する.
石英・炭酸塩岩は石英とマグネサイトを主とし,少量のドロマイトを伴う塊状の堅硬な岩石で,蛇紋岩やアクチノ閃石片岩にCO2が作用して形成されたと考えられる.蛇紋岩メランジュの限られた範囲に多量に産し,稀に黒色のシュードタキライト様脈を伴う.シュードタキライト様脈は厚さ1 cm程度の細脈で,分岐や流動組織を示すがガラスは残存しておらず,石英とマグネサイトの微粒の混合物となっている.この中に径10 μm程度の粒子としてDGAが産する.このDGAには周囲の変成岩には産しない様々な鉱物が伴われる.珪灰石,ファヤライト,多量のZrを固溶するルチルなどの高温条件を示す鉱物,還元条件を示す自然銅球晶,MgSi4O9組成の未知鉱物,ジルコン,ゼノタイム,輝石(Na0.27Ca0.32Mg0.80Fe0.42Al0.19Si2.02O6),角閃石(Na0.30Ca1.73Mg4.09Fe0.85Al0.13Si8.00O22(OH)2)など,いずれも数μm程度の微細な粒子として産する.またアナテーズ中に見られるSiO2組成の鉱物はラマン分光法で石英のスペクトルを示すものもあるが,全く何のスペクトルも示さないものがあり,非晶質の可能性がある.
蛇紋岩メランジュ中の泥質片岩は緑泥石+フェンジャイト+アルバイト+石英の鉱物組み合わせを有し,ザクロ石の分解組織が認められる.この岩石には,蛇紋岩メランジュ外の結晶片岩中には見られない強く変形した黄鉄鉱斑状変晶が含まれ,その中にDGAとシリカの包有物が多量に含まれている.シリカ包有物は石英のラマンスペクトルを示すが,特徴的な突起を有する形態を示し,電子線でダメージを受けるという,通常の石英には見られない性質を示す.突起状の形態は,コース石からの相転移による体積膨張による可能性があり,電子線によるダメージは転移により微粒の多結晶集合体になっているためである可能性がある.
これらのDGAはそれぞれ異なる成因のものである可能性が高いが,同じ蛇紋岩メランジュのさまざまな岩石からDGAが産することは,この蛇紋岩メランジュが全体としてダイヤモンドの安定領域である深さ(120km以深)まで沈み込んだことを強く示唆する.DGAにおけるダイヤモンドと石墨の共存が,沈み込み時における石墨からダイヤモンドへの部分的な転移を示すものか,上昇時におけるダイヤモンドの部分的な石墨化を示すものかが問題である.DGAに板状の形態を示すものがあることは,前者の可能性を示唆するが,現時点では明確な判断はできない.
蛇紋岩メランジュ以外の結晶片岩の変成条件は,最高500 oC, 1.5G Paであり,コース石やダイヤモンドの安定領域に達していない.しかし,今回泥質片岩中からもDGAが発見されたことから,蛇紋岩メランジュのみならず,周囲の結晶片岩も深部沈み込みを経験し,再度上昇してきた可能性があることを示している.
島弧海溝系の沈み込み帯では,現在までコース石やダイヤモンドの産出は知られていない.本報告はこのような沈み込み帯においても,蛇紋岩メランジュにおいては超高圧変成岩が形成されうることを示す点で,沈み込み帯のダイナミクスに新たな視点を与える.
いずれのDGAも1 μmから10 μm程度の粒子として産し,金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1330 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( G)ならびに2680cm-1( S1)の石墨のバンドを示す.またSEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断した.
クロミタイトは蛇紋岩中に1 cmから最大50 cmの厚さの薄層として稀に産し,径数100 μmのクロマイトよりなる.そのクロマイト中にpseudosecondary inclusionとして長さ数10 μmの包有物の列が認められ,その中にDGAが確認される.またSiO2を2 wt%程度含み,6~8 wt%程度の水を含有する特異なクロマイトも産する.
石英・炭酸塩岩は石英とマグネサイトを主とし,少量のドロマイトを伴う塊状の堅硬な岩石で,蛇紋岩やアクチノ閃石片岩にCO2が作用して形成されたと考えられる.蛇紋岩メランジュの限られた範囲に多量に産し,稀に黒色のシュードタキライト様脈を伴う.シュードタキライト様脈は厚さ1 cm程度の細脈で,分岐や流動組織を示すがガラスは残存しておらず,石英とマグネサイトの微粒の混合物となっている.この中に径10 μm程度の粒子としてDGAが産する.このDGAには周囲の変成岩には産しない様々な鉱物が伴われる.珪灰石,ファヤライト,多量のZrを固溶するルチルなどの高温条件を示す鉱物,還元条件を示す自然銅球晶,MgSi4O9組成の未知鉱物,ジルコン,ゼノタイム,輝石(Na0.27Ca0.32Mg0.80Fe0.42Al0.19Si2.02O6),角閃石(Na0.30Ca1.73Mg4.09Fe0.85Al0.13Si8.00O22(OH)2)など,いずれも数μm程度の微細な粒子として産する.またアナテーズ中に見られるSiO2組成の鉱物はラマン分光法で石英のスペクトルを示すものもあるが,全く何のスペクトルも示さないものがあり,非晶質の可能性がある.
蛇紋岩メランジュ中の泥質片岩は緑泥石+フェンジャイト+アルバイト+石英の鉱物組み合わせを有し,ザクロ石の分解組織が認められる.この岩石には,蛇紋岩メランジュ外の結晶片岩中には見られない強く変形した黄鉄鉱斑状変晶が含まれ,その中にDGAとシリカの包有物が多量に含まれている.シリカ包有物は石英のラマンスペクトルを示すが,特徴的な突起を有する形態を示し,電子線でダメージを受けるという,通常の石英には見られない性質を示す.突起状の形態は,コース石からの相転移による体積膨張による可能性があり,電子線によるダメージは転移により微粒の多結晶集合体になっているためである可能性がある.
これらのDGAはそれぞれ異なる成因のものである可能性が高いが,同じ蛇紋岩メランジュのさまざまな岩石からDGAが産することは,この蛇紋岩メランジュが全体としてダイヤモンドの安定領域である深さ(120km以深)まで沈み込んだことを強く示唆する.DGAにおけるダイヤモンドと石墨の共存が,沈み込み時における石墨からダイヤモンドへの部分的な転移を示すものか,上昇時におけるダイヤモンドの部分的な石墨化を示すものかが問題である.DGAに板状の形態を示すものがあることは,前者の可能性を示唆するが,現時点では明確な判断はできない.
蛇紋岩メランジュ以外の結晶片岩の変成条件は,最高500 oC, 1.5G Paであり,コース石やダイヤモンドの安定領域に達していない.しかし,今回泥質片岩中からもDGAが発見されたことから,蛇紋岩メランジュのみならず,周囲の結晶片岩も深部沈み込みを経験し,再度上昇してきた可能性があることを示している.
島弧海溝系の沈み込み帯では,現在までコース石やダイヤモンドの産出は知られていない.本報告はこのような沈み込み帯においても,蛇紋岩メランジュにおいては超高圧変成岩が形成されうることを示す点で,沈み込み帯のダイナミクスに新たな視点を与える.