09:30 〜 09:45
[SMP42-03] 神居古潭帯江丹別峠地域の変成分帯の再検討
キーワード:変成分帯、ローソン石青色片岩、神居古潭帯
沈み込み帯におけるローソン石の形成・消滅過程は沈み込み帯での流体活動を考察する上で重要な要素である。沈み込む過程でローソン石が分解する変成帯の一つである三波川変成帯において、Yoshida et al. (2015)は地下15-60kmで変成した岩石中に捕獲された流体包有物は海水並の高Cl濃度とともに高Li/Cl比(>0.001)を示し、それらはスラブ由来とされる有馬型熱水の特徴の一つ (風早ほか, 2014)と一致することを見出した。上記の特性が沈み込み帯流体の普遍性であるか否を検討するためには、他の低温高圧型変成帯での検証が必要である。
北海道の神居古潭変成帯幌加内-江丹別地域もその一つである。Shibakusa (1989)は、I帯(ローソン石青色片岩相)からIII帯(緑簾石青色片岩相)へと変成度が上昇する変成分帯を提案した。その一方で、今泉(1984)や小俣・渡辺(1992)達は“III帯はテクトニックブロックであり周囲の変成岩とは不連続である”との考えを提示した。さらに、皆川・平島(2012)や平島ほか(2016)はShibakusa (1989)のII帯において、緑簾石とアルカリ角閃石で構成される主片理面を包有して成長しているローソン石を発見し、Shibakusa(1989)が提案した累進変成作用の考え方に疑問を提示した。さらに、Sakakibara & Ohta (1994)は幌加内-江丹別-峡谷地域の変成岩の白雲母のK-Ar年代に基づき、形成年代が最も古い幌加内ユニット(135-120Ma)、美瑛春志内ユニット(115-100Ma)、年代が最も若い斑渓幌内ユニット(80-50Ma)との分帯を提案した。この様に当該地域の形成史については未だに統一的な見解が得られていないのが現状である。
本報告では、道道72号線の江丹別峠から南北にそれぞれ約3kmの範囲で採集した試料のlow-variantな変成鉱物組み合わせの空間変化に基づいて、新たな変成分帯を提示する。この調査範囲はShibakusa (1989)のI帯とII帯、Sakakibara & Ohta (1994)の美瑛春志内ユニットと幌加内ユニットに相当している。
当該地域の主岩相は泥質変成岩でチャートや塩基岩が層状・レンズ条に産する。主片理面の走向は東西性で南北にそれぞれ40度程度ばらつくが、主として、北側に10-45度程度傾斜している。調査対象の大半の岩石にローソン石が認められるが、緑簾石は調査地域の北端約1kmの範囲に限られる。緑簾石の認められる地域はShibakusa (1989)のII帯、あるいは、Sakakibara & Ohta (1994)の幌加内ユニットに相当し、緑簾石が出現しない地域は、Shibakusa (1989)のI帯、Sakakibara & Ohta (1994)の美瑛春志内ユニットに相当する。
石英、アルバイト、緑泥石を含む塩基性変成岩中において、緑簾石が出現しない地域では、Lws+Napx±Pmpの組合せが卓越し、ローソン石青色片岩を特徴づける鉱物組合せである、Lws+Namp+Pmp、あるいは、Lws+Namp +Napxは、II帯との境界付近にのみ出現する。同様の鉱物組み合わせ変化は、九州黒瀬川帯の箱石地域で認められており、このような鉱物組合せの変化は、Ca-Al-Fe3-(Fe+Mg)の4成分系において、以下の吸水反応が累進的に進行したことによって説明されている(Sato et al., 2017): Pmp+Napx+Chl = Lws + Namp+H2O (1)
この新知見は、江丹別峠付近の、Shibakusa (1989)のI帯とSakakibara & Ohta (1992)の美瑛春志内ユニットは、Lws+Napx+Pmp亜帯とLws+Namp亜帯に区分でき、見かけ上位に向かって変成圧力が上昇したことを示唆している。
江丹別峠北方の緑簾石を含む試料に卓越する鉱物組み合わせは、Ep+Namp+Pmp+Lws+Chl(7/16)で、他に2試料ずつにEp+Lws+NampとEp+Namp+Pmpを認めた。これらの組み合わせはEp +Pmp+Chl = Lws +Namp+H2O (2)
の反応の周辺で安定である。Sato et al (2017)が提案したPetrogenetic gridでは、上記2つの反応の安定領域の間には温度圧力ギャップが存在する。従って、江丹別峠のローソン石帯と緑簾石帯は構造接触関係にあると考えるのが妥当で、本研究結果は、今泉(1984)、小俣・渡辺(1992)、Sakakibara & Ohta (1992)達の考えを支持する。
北海道の神居古潭変成帯幌加内-江丹別地域もその一つである。Shibakusa (1989)は、I帯(ローソン石青色片岩相)からIII帯(緑簾石青色片岩相)へと変成度が上昇する変成分帯を提案した。その一方で、今泉(1984)や小俣・渡辺(1992)達は“III帯はテクトニックブロックであり周囲の変成岩とは不連続である”との考えを提示した。さらに、皆川・平島(2012)や平島ほか(2016)はShibakusa (1989)のII帯において、緑簾石とアルカリ角閃石で構成される主片理面を包有して成長しているローソン石を発見し、Shibakusa(1989)が提案した累進変成作用の考え方に疑問を提示した。さらに、Sakakibara & Ohta (1994)は幌加内-江丹別-峡谷地域の変成岩の白雲母のK-Ar年代に基づき、形成年代が最も古い幌加内ユニット(135-120Ma)、美瑛春志内ユニット(115-100Ma)、年代が最も若い斑渓幌内ユニット(80-50Ma)との分帯を提案した。この様に当該地域の形成史については未だに統一的な見解が得られていないのが現状である。
本報告では、道道72号線の江丹別峠から南北にそれぞれ約3kmの範囲で採集した試料のlow-variantな変成鉱物組み合わせの空間変化に基づいて、新たな変成分帯を提示する。この調査範囲はShibakusa (1989)のI帯とII帯、Sakakibara & Ohta (1994)の美瑛春志内ユニットと幌加内ユニットに相当している。
当該地域の主岩相は泥質変成岩でチャートや塩基岩が層状・レンズ条に産する。主片理面の走向は東西性で南北にそれぞれ40度程度ばらつくが、主として、北側に10-45度程度傾斜している。調査対象の大半の岩石にローソン石が認められるが、緑簾石は調査地域の北端約1kmの範囲に限られる。緑簾石の認められる地域はShibakusa (1989)のII帯、あるいは、Sakakibara & Ohta (1994)の幌加内ユニットに相当し、緑簾石が出現しない地域は、Shibakusa (1989)のI帯、Sakakibara & Ohta (1994)の美瑛春志内ユニットに相当する。
石英、アルバイト、緑泥石を含む塩基性変成岩中において、緑簾石が出現しない地域では、Lws+Napx±Pmpの組合せが卓越し、ローソン石青色片岩を特徴づける鉱物組合せである、Lws+Namp+Pmp、あるいは、Lws+Namp +Napxは、II帯との境界付近にのみ出現する。同様の鉱物組み合わせ変化は、九州黒瀬川帯の箱石地域で認められており、このような鉱物組合せの変化は、Ca-Al-Fe3-(Fe+Mg)の4成分系において、以下の吸水反応が累進的に進行したことによって説明されている(Sato et al., 2017): Pmp+Napx+Chl = Lws + Namp+H2O (1)
この新知見は、江丹別峠付近の、Shibakusa (1989)のI帯とSakakibara & Ohta (1992)の美瑛春志内ユニットは、Lws+Napx+Pmp亜帯とLws+Namp亜帯に区分でき、見かけ上位に向かって変成圧力が上昇したことを示唆している。
江丹別峠北方の緑簾石を含む試料に卓越する鉱物組み合わせは、Ep+Namp+Pmp+Lws+Chl(7/16)で、他に2試料ずつにEp+Lws+NampとEp+Namp+Pmpを認めた。これらの組み合わせはEp +Pmp+Chl = Lws +Namp+H2O (2)
の反応の周辺で安定である。Sato et al (2017)が提案したPetrogenetic gridでは、上記2つの反応の安定領域の間には温度圧力ギャップが存在する。従って、江丹別峠のローソン石帯と緑簾石帯は構造接触関係にあると考えるのが妥当で、本研究結果は、今泉(1984)、小俣・渡辺(1992)、Sakakibara & Ohta (1992)達の考えを支持する。