JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] [EJ] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 104 (国際会議場 1F)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、座長:松村 太郎次郎(静岡大学大学院理学研究科)、座長:中村 佳博(新潟大学自然科学研究科)

10:15 〜 10:30

[SMP42-06] 浮力による高温型変成帯の上昇

*宮崎 一博1池田 剛2松浦 浩久1 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地殻岩石研究グループ、2.九州大学 地球惑星科学)

キーワード:高温型変成帯、上昇、領家

白亜紀の高温型変成作用で特徴付けられる領家(深成変成)コンプレックス(以下領家コンプレックス)は日本列島を東西に約1000km連続する.最近,領家コンプレックスの西方延長と考えることができる高温型変成岩を北部九州大牟田地域で発見した.ここでは三畳紀の高圧型周防(変成)コンプレックスを原岩として高温型変成岩が形成されている(Miyazaki et al., submitted).大牟田地域の高温部は広くミグマタイトが分布する.地質温度圧力計による低温部と高温部の圧力差は地質学的に現在観測できる層厚の違いでは説明できず,低温部とミグマタイトが発達する高温部の間で変成帯の薄化が起こっていたと推定された(Ikeda et al., accepted).
 高温型変成帯の下部では部分溶融が起きており,メルトが存在していたはずである.また,高温型変成帯下部における片理に調和的に貫入する花崗岩類も変成作用の応力場でのメルトから固結を意味する.メルトは固体岩石より密度が小さく,それ自体浮力により上昇する.しかし,珪長質メルトは大きな粘性のために容易には固体岩石から分離して上昇できない.従って,メルトと固体岩石の混合体が上昇を開始する可能性が指摘できる.
 この可能性を探るため,密度差のある粘性流体の上昇シミュレーションを行った.シミュレーションでは地殻をホスト粘性流体と仮定した.周囲より密度が小さい上昇粘性流体を部分溶融した高温型変成帯に見立てた.ホスト粘性流体と上昇粘性流体の密度差だけを考えた場合,上昇粘性流体はダイアピルとして上昇できる.しかし,温度勾配がある場合,上昇粘性流体は途中で冷却され,ホスト粘性流体との密度差がなくなった時点で上昇はストップしてしまう.シミュレーションの結果,下底において絶えず上昇粘性流体が生産されれば,下底にあった粘性流体は浮力を失ったあとも上昇できることが分かった.浮力を失ったあとの粘性流体は,垂直方向の圧縮と水平方向の引っ張りにより薄化が起こる.シミュレーションの結果は,部分溶融した高温型変成帯が薄化を伴いながら地表付近まで上昇できることを示している.この機構が成り立つためには,地殻下部で数10 Myrの間,メルトを生成できるようなエネルギーの供給が必要となる.北部九州では112-98 Maの間に火成作用が継続したことが深成岩,火山岩のジルコンU-Pb年代測定から推定される.高温型変成帯の浮力による上昇を起こすだけのエネルギーのインプットが北部九州では起こっていた可能性を指摘できる.