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[SMP42-07] 九州中央部肥後変成岩(白亜紀高温低圧型変成岩)の超高圧変成作用の新証拠
キーワード:Higo Metamorphic Rock, ultrahigh-pressure metamorphism, diamond-graphite aggregate, Raman spectrometry, Soft X-ray emission spectrometry
九州中央部に位置する白亜紀高温低圧型変成岩である肥後変成岩からダイヤモンド・石墨集合体(DGA : diamond-graphite aggregate)を発見した.DGAには3つの産状がある.一つはスピニフェックス様組織を示す変成カンラン岩中のクロミタイトに含まれる包有物であり,これについてはすでに報告した(Nishiyama et al, 2014).今回新たに泥質片麻岩中のザクロ石に含まれる包有物として,また含ザクロ石角閃岩中の鉱物としてDGAを見出した.マイクロダイヤモンドを含むクロミタイトについては,mantle migration model (Arai, 2010)が提唱されており,その産出のみでは変成岩全体が超高圧変成作用を受けたことの証拠にはならない.しかし,今回泥質片麻岩と含ザクロ石角閃岩からDGAが発見されたことにより,肥後変成岩が超高圧変成作用を受けた後,白亜紀の高温低圧変成作用を重複して受けたことが明らかになった.なおDGAを確認したすべての薄片はダイヤモンドペーストを用いずに作成(Al2O3ラッピングシート使用)し,カーボン蒸着はしていない.
問題の泥質片麻岩は,甲佐岳周辺(川越・平・坂谷)の3か所で確認した.いずれも菫青石・ザクロ石帯(Obata et al., 1994; Miyazaki, 2004)に属する.これらの岩石中のザクロ石は肉眼で見ても,黒色のコアとピンク色のマントルから構成される二重累帯構造を示す.この種のザクロ石は肥後変成岩分布地域の各地で産するが,同一露頭においても,層の違いで単一累帯構造のザクロ石と二重累帯構造のザクロ石を産することが多く,その産出条件は全岩化学組成にも依存していると推定される(石丸ほか,2015).DGAはザクロ石のコアに10 μm程度の粒子として産し,板状の形態を示すものが多い.マントルには産しない.金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1335 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( Gバンド)ならびに2680cm-1( S1バンド)の石墨のバンドを示す.この特徴は西彼杵変成岩中のDGAと酷似している.ただし,ダイヤモンドのバンドの波数が西彼杵変成岩中で1330 cm-1であるのに対し,やや高波数側にシフトしている.また西彼杵変成岩中のDGAが1 μm程度のものが多いのに比べ,やや粗粒である.またSEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断した.
ザクロ石コアにはルチルの包有物が放射状に含まれているが,コース石は確認できていない.またマントルには石英の包有物が含まれている.
含ザクロ石角閃岩は砥用町川越の沢に産するもので,長径1m, 短径50 cmほどの岩塊として泥質片麻岩中に産する.一見転石のようにも見えるが,この20年間,度重なる洪水にも拘らず動いていないので,露頭と判断している.角閃石(マグネシオホルンブレンド)と黒雲母を主体とし,少量の斜長石を含む.局所的に径数mmのザクロ石を含んでいる.ザクロ石はアルマンディン質でXMg = 0.16,XCa = 0.17であり,累帯構造を示さず均質である.このザクロ石は周囲からシンプレクタイト(斜方輝石+アノーサイト)に分解している.シンプレクタイトの斜方輝石は多くの場合,緑泥石に変質しているが,変質を免れた組成はXMg = 0.47のフェロシライトである.Alの含有量は0.02 apfu程度と少ない.ザクロ石・角閃石温度計は450 oC程度の温度を,ザクロ石・斜方輝石温度計は640 oC (500 MPa)~670 oC (1GPa)程度の温度を示す.このことは450 oC程度の温度で平衡にあったこの岩石が,200 oC程度の温度上昇を経験し,これによりザクロ石が分解してシンプレクタイトを形成したと推定される.DGAはこのシンプレクタイト中に100 μm程度の粒状物質として産する.ザクロ石中には産しない.金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1335 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( Gバンド)ならびに2680cm-1( S1バンド)の石墨のバンドが確認される点は,泥質片麻岩中のDGAと全く同じである.SEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断される点も同じである.
以上,4カ所の2種の岩石からDGAが確認されたことから,肥後変成岩が超高圧変成作用を受けた後に白亜紀の高温低圧型変成作用を受けたことは確実と思われる.ただし,コース石がなぜ見つからないのかは理解できず,今後の検討課題である.肥後変成岩の重複変成作用に関してはOsanai et al. (2006)の先駆的研究がある.彼らは変成カンラン岩に伴うサフィリングラニュライトを発見し,250 Maの超高温変成作用の可能性を指摘した.今回,DGAを含むザクロ石コアがいつ形成されたのか,年代学的情報はない.この点も検討課題である.
問題の泥質片麻岩は,甲佐岳周辺(川越・平・坂谷)の3か所で確認した.いずれも菫青石・ザクロ石帯(Obata et al., 1994; Miyazaki, 2004)に属する.これらの岩石中のザクロ石は肉眼で見ても,黒色のコアとピンク色のマントルから構成される二重累帯構造を示す.この種のザクロ石は肥後変成岩分布地域の各地で産するが,同一露頭においても,層の違いで単一累帯構造のザクロ石と二重累帯構造のザクロ石を産することが多く,その産出条件は全岩化学組成にも依存していると推定される(石丸ほか,2015).DGAはザクロ石のコアに10 μm程度の粒子として産し,板状の形態を示すものが多い.マントルには産しない.金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1335 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( Gバンド)ならびに2680cm-1( S1バンド)の石墨のバンドを示す.この特徴は西彼杵変成岩中のDGAと酷似している.ただし,ダイヤモンドのバンドの波数が西彼杵変成岩中で1330 cm-1であるのに対し,やや高波数側にシフトしている.また西彼杵変成岩中のDGAが1 μm程度のものが多いのに比べ,やや粗粒である.またSEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断した.
ザクロ石コアにはルチルの包有物が放射状に含まれているが,コース石は確認できていない.またマントルには石英の包有物が含まれている.
含ザクロ石角閃岩は砥用町川越の沢に産するもので,長径1m, 短径50 cmほどの岩塊として泥質片麻岩中に産する.一見転石のようにも見えるが,この20年間,度重なる洪水にも拘らず動いていないので,露頭と判断している.角閃石(マグネシオホルンブレンド)と黒雲母を主体とし,少量の斜長石を含む.局所的に径数mmのザクロ石を含んでいる.ザクロ石はアルマンディン質でXMg = 0.16,XCa = 0.17であり,累帯構造を示さず均質である.このザクロ石は周囲からシンプレクタイト(斜方輝石+アノーサイト)に分解している.シンプレクタイトの斜方輝石は多くの場合,緑泥石に変質しているが,変質を免れた組成はXMg = 0.47のフェロシライトである.Alの含有量は0.02 apfu程度と少ない.ザクロ石・角閃石温度計は450 oC程度の温度を,ザクロ石・斜方輝石温度計は640 oC (500 MPa)~670 oC (1GPa)程度の温度を示す.このことは450 oC程度の温度で平衡にあったこの岩石が,200 oC程度の温度上昇を経験し,これによりザクロ石が分解してシンプレクタイトを形成したと推定される.DGAはこのシンプレクタイト中に100 μm程度の粒状物質として産する.ザクロ石中には産しない.金蒸着によるEDS分析ではCが確認され,ラマンスペクトルでは1335 cm-1のダイヤモンドのバンドと1580cm-1( Gバンド)ならびに2680cm-1( S1バンド)の石墨のバンドが確認される点は,泥質片麻岩中のDGAと全く同じである.SEM-SXES法により,これらの粒子は場所によりsp3とsp2が混在していることが確認され,ダイヤモンドと石墨の混合物であると判断される点も同じである.
以上,4カ所の2種の岩石からDGAが確認されたことから,肥後変成岩が超高圧変成作用を受けた後に白亜紀の高温低圧型変成作用を受けたことは確実と思われる.ただし,コース石がなぜ見つからないのかは理解できず,今後の検討課題である.肥後変成岩の重複変成作用に関してはOsanai et al. (2006)の先駆的研究がある.彼らは変成カンラン岩に伴うサフィリングラニュライトを発見し,250 Maの超高温変成作用の可能性を指摘した.今回,DGAを含むザクロ石コアがいつ形成されたのか,年代学的情報はない.この点も検討課題である.