JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP44] [JJ] 鉱物の物理化学

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)、座長:鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)

10:00 〜 10:15

[SMP44-05] Boehmiteの圧力誘起積層不整と非対称な水素結合について

石井 優佑1、*小松 一生1中野 智志2町田 真一3服部 高典4佐野 亜沙美4鍵 裕之1 (1.東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設、2.物質材料研究機構、3.総合科学研究機構 中性子科学センター、4.日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター)

キーワード:ベーム石、高圧、積層不整

高温高圧実験やダイヤモンド包有物の研究から、地球内部にー特に沈み込み帯やマントル遷移層などー少なくとも局所的には、かなりの量の"水"が含水鉱物として存在していることが明らかになってきた (e.g., Peacock (2000) Science, 248, 329; Pearson et al. (2014) Nature, 507, 221)。地球深部の主要な造岩鉱物は酸化物やケイ酸塩であるから、含水鉱物中の水素は酸素に囲まれてO-H...O結合(O-Hは共有結合、H...Oは水素結合)を形成しながら存在していることになる。ところで高圧下では、O...O距離が短くなることで、水素結合と共有結合が等価となる水素結合の対称化が起こることが予想される。したがって、地球深部のような高圧条件下では、ある深度以深で水素結合の対称化が起きている可能性が高い。しかし、含水鉱物中の水素結合が高圧下で対称化するか、また、対称化にしたがってどのような物性変化を起こすかについての研究はdelta-AlOOH (e.g., Tsuchiya et al. (2002) Geophys Res Lett, 29, 1; Sano-Furukawa et al. (2009) Am Mineral, 94, 1255)やPhase H (Tsuchiya and Mookherjee (2015) Sci Rep, 5, 15534)などについて、わずかに行われているのみであり、まだ理解が十分ではない。本研究では、層状水酸化物であるboehmite (gamma-AlOOH)に注目し、その高圧下での構造変化をX線・中性子回折およびラマン分光法により観察した。Boehmiteは、常圧下では空間群Cmcmの直方晶系で、AlO6八面体が辺共有した層がb軸方向に積層した層状構造を成しており、水素結合はちょうど層と層との空隙に存在する。圧力をかけると、優先的に層間距離が縮まり、水素結合の圧力変化を効率的に観察できると予想した。

BoehmiteのX線回折実験の結果、加圧に伴い、0kl 反射以外の反射、特に130反射について、顕著なブロードニングが見られた一方、0kl 反射についてはブロードニングは見られなかった。この現象は、AlO6八面体層が、隣り合う層についてa方向にdxだけ正負ランダムに変位する積層不整を考えることで説明可能であることがわかった。変位量dxを0 - 0.5まで変化させてシミュレーションした散乱パターンと、実測されたX線回折パターンとを比較することにより、変位量dxの圧力依存性を見積もった。また、10 GPa程度までの中性子回折実験から、O...O, O-D, D...O距離はそれぞれ線形に変化しており、これを単純に直線で外挿すると20 GPa程度でO-D距離とD...O距離は一致することになる。しかしながら、37 GPaまでのラマンスペクトルの結果からは、対称化の兆候は見られておらず、中性子回折の結果とは一見矛盾しているように見える。これは積層不整によって、ドナーとアクセプターの酸素が結晶学的に等価ではなくなり、O...O距離が短くなっても水素が感じるポテンシャルは非対称のままになっていると解釈することができる。