JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS04] [EE] Subduction zone dynamics from regular earthquakes through slow earthquakes to creep

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)、小原 一成(東京大学地震研究所)、Demian M Saffer(Pennsylvania State University)、Wallace Laura(University of Texas Institute for Geophysics)、座長:小平 秀一(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)

11:30 〜 11:45

[SSS04-28] 海陸地殻変動観測の捉えた2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動の時空間変化

*飯沼 卓史1太田 雄策2三浦 哲2,4武藤 潤3,4富田 史章2木戸 元之4,2日野 亮太2,4 (1.海洋研究開発機構、2.東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター、3.東北大学大学院理学研究科 地学専攻、4.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:The 2011 Tohoku Earthquake, Postseismic deformation, Seafloor geodesy, GNSS, Postseismic Slip, Viscoelastic relaxation

はじめに
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)に伴う余効変動は,本震発生から6年近くが経過した現在においても,陸上及び海底での地殻変動観測により,有意な大きさの変動として捉えられており,これまで数多くの研究が余効変動の解釈やモデル化に取り組んできた.

Sun et al. [2014]は,2011年4月から12月までの海陸の水平地殻変動データに基づいて有限要素法を用いた粘弾性構造モデルを構築した.Iinuma et al. [2016]は,このモデルを利用し,観測された変位時系列から粘性緩和による寄与を差し引いたものを余効すべりによる変位とみなして,逆解析により余効すべりの分布を推定すると同時に,小繰り返し地震から求まるプレート間すべりの分布及びプレート間地震の発生レート変化の空間分布と比較することで,余効すべりと地震時すべりの空間的相補性が東北地方太平洋沖地震においても成立していることを確認した.

Tomita et al. [2017, in Review]は,2012年に新規に設置された海底地殻変動観測点における変位速度を推定し,海底での余効変動には海溝軸に平行な方向に大きな空間変化が認められ,粘性緩和の影響が卓越する領域やプレート間での余効すべりの影響が大きい領域などに区分できることを明らかにした.本研究では,Tomita et al. [2017]で報告された海底地殻変動観測点における変位速度データと同期間の陸上GNSS観測から得られる変位時系列データに基づいて,余効変動場の時空間変化を検討した.また,余効すべり分布の推定を試み,2011年4月から12月までの余効すべり分布の推定結果との比較を行った.

データ
2012年9月に設置された20点のGPS/音響測距結合方式の海底地殻変動観測点における,2016年5月までの観測に基づいて推定された各観測点での変位速度データ[Tomita et al., 2017]と,国土地理院及び東北大学の運用する陸上GNSS連続観測点で取得されたデータを解析して得られた日座標値時系列を用いた.後者に関しては,2012年9月と2016年5月のそれぞれの月平均を求めて差を取ることで,海底地殻変動観測点における変位速度と同期間の変位速度を推定した.

結果・議論
得られた変位速度場を2011年4月から12月まで(以下,期間A)のものと比較すると,水平成分に関しては,空間パターンに顕著な違いは見られない.本震時のすべりが大きかった領域を通り海溝軸に直交する方向に変位速度場のプロファイルをとってみると,2012年9月から2016年5月まで(以下,期間B)の変位速度は,期間Aの変位速度の3から4分の1程度の大きさになっており,その比率は太平洋側ほど小さく,日本海溝から遠ざかるにしたがってほぼ単調に増加している.その一方で,上下成分は両期間での違いが顕著であり,期間Aに奥羽脊梁山脈周辺で見られた局所的に大きかった沈降はほとんど見られなくなっている一方で,前孤域の隆起速度は減衰が遅く,期間Bにおいて,期間Aの五割を上回る値を示している.Muto et al. [2016]が示したように,期間Aにおける奥羽脊梁山脈周辺の局所的な沈降がその直下の低粘性領域の存在に起因するものと考えれば,緩和時間も周辺に比べ短くなるため,期間Bで顕著にみられなくなってしまっていることと整合する.このように上下成分には内陸部の構造的不均質が強く影響しているが,水平成分にはより空間的長波長の変動が支配的であり,マントルウェッジ及び海洋プレート下のマントルの粘性流動がその主要因であると考えられる.

そこで,水平成分のみに着目し,Sun et al. [2014]が構築した粘弾性構造モデルから予測される変位を観測値から差し引いたものが,プレート境界におけるすべり・固着の影響によるものとみなしてインバージョン解析を行い,余効すべり及びバックスリップの分布を推定した.結果を見ると,福島県から茨城県にかけてのプレート境界浅部や,岩手県の沿岸直下周辺において余効すべりが発生していることなど,期間Aにおける推定結果と同様の特徴が観察できる.また,地震時に大きくすべった領域及び1968年十勝沖地震の震源域においては余効すべりが生じていないだけでなく,10cm/year程度のバックスリップが求まっており,地震時の主破壊域においてはプレート間の固着がすでに回復していることが示唆される.一方で,宮城県を中心とした領域の深部には大きな負の値(バックスリップ)が求まっているが,粘性緩和の寄与が取り切れていないことが原因と考えられ,今後,地震時すべり分布の改定も視野に入れて,余効変動モデルをさらに高度化していく必要がある.