[SSS04-P05] Finite fault model of the 2012 intraslab earthquake doublet and its implication for coseismic stress change in the Pacific plate associated with the 2011 Tohoku-Oki earthquake
キーワード:tsunami, The 2011 Tohoku-Oki earthquake, intraslab earthquake
2012年12月7日に日本海溝軸のごく近傍の太平洋スラブ内で,深い震源を持つ逆断層型地震 (サブイベント1,57.8 km,Mw 7.2,Global CMT) と浅い震源をもつ正断層型地震 (サブイベント2,19.5 km,Mw 7.2) からなるダブレット地震が発生した.この地震の震源周辺では,スラブの沈み込みに伴う折れ曲がりによって浅部と深部それぞれで水平引張・圧縮の応力場が発達していることが知られている (e.g., Gamage et al., 2009, JGR) が, Obana et al. (2012, GRL) は,2011年東北地方太平洋沖地震後のこの周辺のスラブ内で発生した小地震の震源分布から,正断層型地震が発生する深さ範囲の下限が東北沖地震前よりも深くなったことを明らかにし,スラブ内応力場が変化した可能性を指摘した.2012年の地震の2つのサブイベントの発震機構解は,それらが発生した深さにおける応力場を反映し,それらの破壊の深さ方向の広がりは東北沖地震後の引張・圧縮場の深さ方向の広がりと一致する考えられるため,各サブイベントの断層モデルを詳細に推定することで,東北沖地震後のスラブ内応力場を詳細に推定できると期待される.
このダブレット地震は2つのサブイベントがほぼ同時に発生しているため,地震波形記録からではサブイベントの震源過程を分離し,震源断層モデルを精度良く推定することが難しいと考えられる.しかし,地震波による解析が特に難しいと考えられる後続のサブイベント2は浅い震源を持ち,津波を効率良く励起することから,津波データを解析することでサブイベント2の断層モデルの推定精度の大幅な改善が期待できる.このダブレット地震による津波は,沖合に設置された多数の海底圧力計によって明瞭に捉えられており,本研究では,こうした沖合での津波波形データの詳細な解析により2つのサブイベントの震源断層の深さ方向の広がりを推定し,その結果を東北沖地震以前の地震活動と比較することにより,東北沖地震前後でのスラブ内応力場の変化を議論する.
断層モデルの推定に先立って,津波波形記録の逆解析により地震時の初期海底変動分布 (津波波源分布) を推定した.得られた分布は大きな沈降域と隆起域をひとつずつ持つ分布が得られた.この分布をGlobal CMT解から期待される各サブイベントの海底変動分布と比較したところ,沈降域はもっぱらサブイベント2によって生じていると考えてよいことがわかった.そこで,得られた波源分布の沈降域を説明できるようなサブイベント2の震源モデルを余震分布 (Obana et al., 2014, EPS; 2015, AGU FM) を参考にしながら推定した.その後,津波波源分布モデルからサブイベント2による地震時変動の寄与を差し引いてサブイベント1による海底変動分布を抽出し,これと遠地実体波記録を併用してサブイベント1の断層モデルを求めた.最終的に得られたサブイベント2の断層下端の深さは35 – 40 km,サブイベント1の断層上端の深さは45 – 50 kmと推定された.これは,東北沖地震前のスラブ内の正断層型地震発生域の下限 (約25 km) および逆断層型地震発生域の上限 (約40 – 45 km) よりも5 – 10 km深く,東北沖地震の影響によって地震活動の深さ分布が変化したことが明らかになった.このような変化が起こる理由として東北沖地震による静的応力変化が考えられるが,この領域での太平洋プレートの折れ曲がりによる応力の鉛直勾配を,プレートの曲率と弾性定数から概算すると15 MPa/km程度となるが,この状態では,東北沖地震による静的応力変化の大きさ (~10 MPa) によるプレート内応力中立面の深さ変化は数km程度にしかならず,ここで推定した東北沖地震前後の地震活動域の深さの変化を説明できない.東北沖地震後に観測された地震活動域の深さ変化は,東北沖地震による静的応力変化に加え,東北沖地震後にスラブ内断層の破壊強度が低下したことにより,正断層型の地震活動が東北沖地震前に発生していなかった深さ (~35 – 40 km) において活発になったことも要因である可能性が示唆される.
このダブレット地震は2つのサブイベントがほぼ同時に発生しているため,地震波形記録からではサブイベントの震源過程を分離し,震源断層モデルを精度良く推定することが難しいと考えられる.しかし,地震波による解析が特に難しいと考えられる後続のサブイベント2は浅い震源を持ち,津波を効率良く励起することから,津波データを解析することでサブイベント2の断層モデルの推定精度の大幅な改善が期待できる.このダブレット地震による津波は,沖合に設置された多数の海底圧力計によって明瞭に捉えられており,本研究では,こうした沖合での津波波形データの詳細な解析により2つのサブイベントの震源断層の深さ方向の広がりを推定し,その結果を東北沖地震以前の地震活動と比較することにより,東北沖地震前後でのスラブ内応力場の変化を議論する.
断層モデルの推定に先立って,津波波形記録の逆解析により地震時の初期海底変動分布 (津波波源分布) を推定した.得られた分布は大きな沈降域と隆起域をひとつずつ持つ分布が得られた.この分布をGlobal CMT解から期待される各サブイベントの海底変動分布と比較したところ,沈降域はもっぱらサブイベント2によって生じていると考えてよいことがわかった.そこで,得られた波源分布の沈降域を説明できるようなサブイベント2の震源モデルを余震分布 (Obana et al., 2014, EPS; 2015, AGU FM) を参考にしながら推定した.その後,津波波源分布モデルからサブイベント2による地震時変動の寄与を差し引いてサブイベント1による海底変動分布を抽出し,これと遠地実体波記録を併用してサブイベント1の断層モデルを求めた.最終的に得られたサブイベント2の断層下端の深さは35 – 40 km,サブイベント1の断層上端の深さは45 – 50 kmと推定された.これは,東北沖地震前のスラブ内の正断層型地震発生域の下限 (約25 km) および逆断層型地震発生域の上限 (約40 – 45 km) よりも5 – 10 km深く,東北沖地震の影響によって地震活動の深さ分布が変化したことが明らかになった.このような変化が起こる理由として東北沖地震による静的応力変化が考えられるが,この領域での太平洋プレートの折れ曲がりによる応力の鉛直勾配を,プレートの曲率と弾性定数から概算すると15 MPa/km程度となるが,この状態では,東北沖地震による静的応力変化の大きさ (~10 MPa) によるプレート内応力中立面の深さ変化は数km程度にしかならず,ここで推定した東北沖地震前後の地震活動域の深さの変化を説明できない.東北沖地震後に観測された地震活動域の深さ変化は,東北沖地震による静的応力変化に加え,東北沖地震後にスラブ内断層の破壊強度が低下したことにより,正断層型の地震活動が東北沖地震前に発生していなかった深さ (~35 – 40 km) において活発になったことも要因である可能性が示唆される.