JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS04] [EE] Subduction zone dynamics from regular earthquakes through slow earthquakes to creep

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)、小原 一成(東京大学地震研究所)、Demian M Saffer(Pennsylvania State University)、Wallace Laura(University of Texas Institute for Geophysics)

[SSS04-P60] Estimation of frictional properties and slip evolution on the Long-term SSE fault with Ensemble Kalman Filter -numerical experiments-

*錦織 健人1平原 和朗1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)

キーワード:Ensemble Kalman Filter, Slow Slip Events

長期的スロースリップイベント(LSSE)は、海溝型大地震発生域深部のプレート境界深部に発生しており、プレート境界における応力解放過程であり、海溝型大地震の発生の予測やあるいは直接的なトリガーにも成り得る。したがって、LSSE発生域の摩擦特性を知りそのすべりの発展を予測するのは重要な課題といえる。本研究の最終目標はGNSSで得られたSSE発生時の地表の変位データにデータ同化の一手法であるアンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)を適用し、SSE発生域でのすべり発展と摩擦パラメータを推定して海溝型巨大地震の発生予測に役立てることである。本研究では、豊後水道で発生するLSSEを想定し、単純なモデルではあるが、シミュレーション計算で得られたすべり速度、地表の変位速度に観測誤差を加え模擬データとしてEnKFを用いた数値実験を行い、これまで行ってきた八重山地域における場合と比較して、その適用可能性を議論した。
これまで、八重山地域のSSE(再来間隔: 6ヶ月、継続時間: 1ヶ月)を対象に数値実験を行ってきた。均質半無限弾性体中に設定した平面傾斜断層面での摩擦力は速度状態依存摩擦則に従うとし、状態変数の時間発展にはSlowness則を用いた。断層面に半径30kmの円形速度弱化(A-B<0)パッチを設定し、R/Rc=0.4 (Rc:臨界半径、R:パッチ半径)となるように摩擦パラメータを調整し、八重山地域のSSEを再現するモデルを構成した。このモデルから得たすべり速度、地表の変位速度に観測誤差を加えたものを模擬データとし、断層面での摩擦パラメータA、Lおよびアスペリティ内のB-Aをすべり速度、状態変数とともにEnKFで推定した。同化ステップ幅はSSE発生時は0.5日、それ以外の期間では5日とした。
この手法では観測値の時間変化が大きくなる際に、イノヴェーション(観測と予報の残差)が大きくなり更新量が大きくなるため、特にSSE発生時に推定値は大きく更新され真値に近づく様子が見られた。しかし、精度の良い推定をするには一回ではなく複数回のSSEを含む観測データが必要であることがわかった。
一方、SSE時に予報値が大きく更新されるために、計算が停止するという問題がしばしば発生した。これはEnKFの推定能力の有無とは本質的に異なる問題であって、たとえば観測点分布の推定能力への依存性の検証を行う際には厄介である。本問題はSSE時の観測値の時間変化が急であることに起因する問題であり、より時間スケールの大きなSSEの同化においては回避できるのではないかと考えた。
また、観測点分布が悪い(時間間隔が長い、密度が低い、偏った分布など)ほど、推定値の真値への近づき方は遅くなることが分かった。従って、海域という地理的制約から観測点分布を充実させるのが難しい八重山SSEは、同化の対象として適さないと考えられる。
以上のことをふまえ本手法が適用可能なSSE発生域の条件は:1)これまでに複数回観測されている、2)SSEの継続時間が長い、3)観測点分布に恵まれている、であると考えた。そこで本研究では、豊後水道を対象とし、LSSE(再来間隔: 7年、継続時間: 1年)を再現するような単純なモデル(パッチ半径は40km、R/Rc=0.9)を構成して八重山SSEの場合と同様の数値実験を行った。同化ステップ幅はSSE発生時は1日、それ以外の期間では5日とした。
その結果、期待通り同化ステップに比してイベントの継続時間が十分に長ければ、同化による更新は緩やかに行われ計算が停止しにくいことがわかった。また、本研究でのごく単純なモデルを仮定する限りでは、模擬観測点分布として現実のGNSS観測点分布を用いてもかなり精度よく摩擦パラメータを推定することができた。
現在はSSEパッチ内では摩擦パラメータは一様としているが、今後は、より複雑なモデルを設定して推定するパラメータを増やしたときの本手法の適用可能性を探る数値実験を行う必要がある。