JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] [EE] From Earthquake Source and Seismicity Parameters to Fault Properties and Strong-motion Assessment

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:内出 崇彦(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、Enescu Bogdan(京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻 地球物理学教室)、曽根 大貴(University of Wisconsin-Madison)、座長:内出 崇彦(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:曽根 大貴(ウィスコンシン大学マディソン校)

14:30 〜 14:45

[SSS06-10] 熊本地震における前震・本震間の静的トリガリングについての検証

*三宅 雄紀1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:seismicity, Kumamoto earthquake, fault model

本研究では、2016年4月に起きた熊本地震における、大きな2つの前震と本震の間に働く静的応力変化を計算し、トリガリングがあったかどうかの検証を行った。また、地震活動と整合的な断層モデルについての議論をした。

導入
熊本地震では、大きな前震が2つあった。一つはM6.5(前震1)で、その2.5時間後にM6.4の地震(前震2)である。25.5時間後におきた本震はM7.3のより巨大なものであった。
これらの地震が、互いの地震に与えた影響を静的応力変化という観点から調べるため、前震が本震に与えるΔCFFを計算しようと試みた。ΔCFFとは、他の場所での地震後に応力がどれだけ断層を滑りやすくしたかを定量的に計算するための尺度である。
ただし、前震、本震震源間の距離は、それぞれが10kmに満たないような狭い領域であり、大きな滑り分布依存性があり、滑り分布が少し違えばΔCFFが大きく異なる可能性がある。したがって、この依存性を調べ、解析結果の信頼性について評価した。

断層モデルの比較
断層モデルを不確実さが結果に大きな影響を与えることが予想されるため、正確な断層モデルを選ぶ必要がある。よく使用される断層モデルとして、InSARのデータをもとに推定されたモデルや、メカニズム解、CMT解がある。メカニズム解やCMT解は、断層の大きさについての情報を持っていないものの、マグニチュードからおおよその大きさを推定出来るので、これを本研究では断層モデルと呼ぶことにする。
これらの断層モデルを余震分布と比較するために、3Dで表示するためのツールを作った。このツールでは、MFTで決められた地震カタログ(Kato et al. 2016)や気象庁一元化カタログのような震源カタログをプロットできる。また、断層モデルや、滑り分布もプロットできるので、様々な情報を統合でき、熊本地方の地下構造が直観的に理解できるようになっている。
前震から本震にかけての余震分布は複雑であり、一枚の面ではなく幅を持った面状の分布であることが分かった。この面状の分布と余震分布を比較することにした。
その結果、InSARによる断層モデルは余震分布と整合的でなく、メカニズム解やCMT解が整合的であることが分かった。
したがって、使用する断層モデルとして、メカニズム解、CMT解を基準とする断層モデルとして採用し、このパラメータを変化させることにした。

課題の整理
これらのツールを見ると、前震2が本震までの余震分布と関係性が深いように思われたので、仮説として、「前震1が本震をトリガーしたのではなく、前震2が本震をトリガーした」というものを考えた。
課題を整理すると、(1)滑り分布にどれくらいΔCFFは依存するか (2)前震1と前震2のどちらが本震をトリガーしたのか の2つの問いになる。

計算方法(1)
ΔCFFを計算するためには、2つの断層(滑る断層、応力変化を受ける断層)が必要である。滑る断層については、滑り分布として円形のアスペリティを仮定し、この半径や傾斜、走向を変えることにした。また、応力変化を受ける断層モデルとして、初動の滑りを見るために、メカニズム解を使用した(パラメータは固定)。

結果(1)
その結果は、前震1から前震2へのΔCFFを見ると、傾斜、半径の依存性は小さく、走向の依存性が大きいことがわかった。これは断層間の力学的関係を考える際、走向の決定精度が重要になることを表している。

計算方法(2)
前震の2つの断層の円形アスペリティの半径を変化させ、それぞれについて本震震源でのΔCFFを計算することで、滑り分布の依存性を考慮に入れつつ、どちらがより本震をトリガリングしていると言えるかについて評価した。本震の断層面上で前震と本震の間にあった余震分布とΔCFFがどの程度相関があるかを調べた。

結果(2)
前震1の方が前震2に比べて半径による依存性が大きく、値の絶対値も大きくなる傾向があった。前震の滑り分布についての先行研究(Asano et al. 2016)を見ると、アスペリティは3km~4kmである可能性が高く、その場合、前震1は前震2に比べ、数倍大きいΔCFFになることから、前震2ではなく、前震1が本震をトリガーした可能性が高いという結論に至った。前震2による本震断層面でのΔCFFは、余震分布をよく説明する。このことは、狭い領域でのΔCFFを計算することが意味を持つことを示唆する。余震分布とΔCFFのずれは、不均質性と滑り分布の精度が十分でないことが原因と考えられる。

結論
・熊本地震において、前震2ではなく前震1が本震をトリガーした可能性が高い。
・ΔCFFを計算する際には走向を正確に決めることが重要である。
・断層モデルパラメータとして、メカニズム解やCMT解を使うことが推奨される。