JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] [EE] 地表地震断層の調査・分析・災害評価

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、Baize St?phane(Institut de Radioprotection et de S?ret? Nucl?aire)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、座長:吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

10:10 〜 10:25

[SSS07-05] 平成28年熊本地震と茨城県北部の地震から再考する短い活断層の評価

*遠田 晋次1石村 大輔2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.首都大東京)

キーワード:Kumamoto earthquake, short active fault, earthquake hazard assessment

M7前後の内陸地震は必ずしも既知の活断層で発生しない.このことは,C級活断層問題(浅田,1991),短い活断層の評価(例えば,島崎,2008)として,長期評価の課題として何度も取り上げられてきた.実際に,活断層分布から予測されるM7以上の地震数よりも,1923年以降に観測された地震数が2倍程度多いことが示されている(遠田,2013). そのため,長さ20km程度の断層が多数伏在しているか,その一部がわずかに「短い活断層」として地表に顔を出していることを前提とした検討が進んできた.本発表では,平成28年に発生した熊本地震と茨城県北部の地震の事例から,この前提と異なる考え方を提案したい.
1)2016年4月16日1:25に発生した熊本地震(M7.3):
 2016年熊本地震(M7.3)では,既知の日奈久断層北東部と布田川断層に概ねそって約30kmの地震断層が出現した(例えば,Kumahara et al., 2016).しかし,InSAR解析画像による干渉縞の不連続などから,主要地震断層帯以外にも200個所以上で小断層変位が検出された(Fujiwara et al., 2016).その拡がりは主要地震断層帯から約15km遠方にまで及ぶ.特に,阿蘇外輪山西方では40以上の東西走向の小断層からなる断層群(10km x 10km程度の範囲)が顕著な上下変位を示した.個々の変位は正断層とみられ,変位量は最大40cmにもおよぶ(Fujiwara et al., 2016).これらの一部は,鞍岳断層群として新編日本の活断層(活断層研究会,1991)などに記載されていた.また,同様の誘発小変位は熊本市街にも認められ,北西—南東走向の既存の断層崖(水前寺断層)にそって出現していることが確認されている(Goto et al., 2017).阿蘇外輪山では余震はほとんど認められず,非地震性のすべりである.一方で,水前寺断層沿いには5km以浅の小規模な余震が集中する.
2)2016年4月16日3:03に発生した熊本地震の余震(M5.9):
 InSAR解析画像にもとづく現地調査から,主要地震断層帯の北東端から約10km北東に位置するJR宮地駅付近に地震断層を確認した.この地震断層は,北東—南西に約2.5kmにわたって延び,最大上下変位約10cm,右横ずれ変位が5cmをともなう.本震破壊域との距離から本震時の地震断層とは考えにくく,直後の多数の余震のうち,約1時間半後の3時3分に発生したM5.9の地震(深さ7km)で出現したと推定される.日本の地震断層のなかでは最小Mとみられるが,InSAR画像がなければ見落としていたであろう.
3)2011年3月19日茨城県北部の地震(M6.1)と2016年12月28日茨城県北部の地震(M6.3):2016年12月28日の地震では,InSAR解析によって北西—南東走向の長さ約3kmの干渉縞の不連続が確認され,西側が低下する正断層が推定されている.直後の現地踏査でも,最大5cmの西側低下と約10cmの水平東西伸張が確認されている(小俣・杉田,2017;粟田・吾妻,2017).InSAR解析に基づく断層モデルから推定される断層下端の深さは4km程度であり,地震発生層下端まで延びない.また,この地震断層は2011年3月19日にも変位したことが確認されており(Aoyagi et al., 2015),同じ短い断層がわずか約6年間隔で繰り返し変位したと考えられる.この2つの地震によって約30cmの水平伸張が計測されている(粟田・吾妻,2017).
 以上のことから,1)短い活断層は必ずしも単独でM7地震を起こさず,大きな活断層の活動に付き合って変位し,その繰り返しによって断層変位地形が形成される可能性があること,2)M6前後のやや小規模な地震であっても長さ5km以下,10-20cm程度の変位を持つ地震断層を伴い,その動きの繰り返しによって短い活断層が形成される可能性があること,が示唆される.

文献:浅田 敏(1991)活断層研究,9,1-3;Aoyagi et al. (2015) Hokudan International Symposium on Active Faulting 2015 abstract; 粟田泰夫・吾妻 崇(2017)https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/ibaraki2016/report20170105.html;Fujiwara et al., EPS (2016), 68, 160; Goto H. et al., EPS (2017) in press;活断層研究会(1991),東京大学出版会,437pp;Kumahara et al. (2016) JpGU2016 abstract;小俣雅志・杉田律子(2017)http://jsaf.info/jishin/items/docs/20170105144457.pdf;島崎邦彦(2008)活断層研究,28,41-51;遠田晋次(2013)地質学雑誌,119,105-123;地震調査委員会資料