JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] [EJ] 地震波伝播:理論と応用

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、白石 和也(海洋研究開発機構)、松島 潤(東京大学大学院)、座長:江本 賢太郎(東北大学大学院理学研究科)、座長:武村 俊介(防災科研)

09:55 〜 10:10

[SSS11-04] べき乗型スペクトルを持つランダム媒質を伝播するスカラー波束強度の理論計算

*佐藤 春夫1江本 賢太郎1 (1.東北大学)

キーワード:地震波の散乱、地球の不均質構造、波動論

微小地震の観測から,短周期のS波は伝播距離の増加と共にその見かけ継続時間が大きくなり,その後ろには長い継続時間をもつコーダ波を伴うことが知られている.ここでは,ランダムな速度ゆらぎの数理的モデルとして伝播速度 V0, パラメータ (ε,a, κ) で特徴付けられるフォンカルマン型ランダム媒質を考え,中心波数kcのスカラ-波束の伝播を考察する.条件 ε2a2 kc 2<< 1を満たす場合には, Born近似を用いた輻射伝達方程式を用いて波動強度(自乗平均振幅)の時間変化を導出できることが知られている.一方,中心波数 kc がコーナー波数 a-1より高いべき乗型スペクトル領域にあって上記条件を満たさない場合,放物近似に基づくMarkov近似を用いることで直達波近傍の波動強度を計算することができる.特にスペクトル勾配が緩い場合には広角度散乱が強くなりコーダ波が励起されると考えられるが,従来の方法ではコーダ波を含めた波動強度の時間変化を統一的に説明することができない.本研究では昨年提案した方法(Sato,2016)を発展させ,初動着信からピーク値を超えてコーダに至るまでの波動強度を計算する次のような方法を提案する.(1)ランダムな速度ゆらぎのパワースペクトル密度を,ζ kにコーナーを持つフォンカルマン型の高波数(短波長)成分と,差としての低波数(長波長)成分とに分解する.ここで ζ は調節因子である.(2) 速度ゆらぎの短波長成分にボルン近似を適用して散乱係数を求め,これを伝播速度一定の輻射伝達方程式に用いてモンテカルロ法で波動強度の時間変化を計算する.(3)Markov近似法によって速度ゆらぎの長波長ランダム成分による継続時間幅の拡大と最大値の着信遅延を計算する.(4) これらを伝播速度の揺らぎと解釈し,(2)で求めた波動強度に時間領域でたたみ込み,グリーン関数を求める.計算に用いるパラメータはランダム媒質の ε, a, κ, V0, 中心波数 kc 及び調節因子 ζ であり,これによって速度揺らぎの全スペクトルを反映した波動強度の理論計算が完結する.例として, V0=4km/s, ε=0.05, a=5km, κ=0.1〜1で与えられるランダム媒質において3HzのRicker波が点震源から放射される場合を考察し,上記理論計算と差分計算との比較を行った.その結果,初動から最大値を経てコーダ波の前半に至るまでの範囲で,両者は良く一致することが確かめられた.ここに提案する方法は,短周期地震波のエンベロープの解析から固体地球の内部構造を推定する研究に寄与できるものと考えられる.