JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] [EJ] 地震波伝播:理論と応用

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、白石 和也(海洋研究開発機構)、松島 潤(東京大学大学院)

[SSS11-P07] コーダ波のデコリレーションの近似ベクトル感度カーネル:2次元1次散乱の場合

*中原 恒1江本 賢太郎1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)

キーワード:感度カーネル、コーダ波、ベクトル波

はじめに 地震波干渉法やコーダ波干渉法に基づき,地震や火山噴火などに伴う構造の時空間分布を調べるには,感度カーネルを考慮したトモグラフィーを行う必要がある.地震波速度変化に対するコーダ波走時の変化の感度カーネルについては,近似的ながらもベクトル波のモデリングが始まったところである(中原・江本,2016).一方で,散乱構造の変化に対するコーダ波のデコリレーション(相関係数を1から引いたもの)変化の感度カーネルについては,まだスカラー波のモデル化にとどまっているのが現状である(例えば,Planes et al., 2014; Margerin et al., 2016).そこで本研究では,中原・江本(2016)が走時変化に対して行ったのと同様の2次元1次散乱モデルと波線理論的な振動エネルギーの射影に基づき,デコリレーション変化の近似ベクトル感度カーネルの計算を行ったので,その結果について報告する.


感度カーネルの導出 干渉法などで得られた観測記録について,震源経過時刻におけるコーダ波の波群のデコリレーションがだけ変化した場合,その変化とある場所の散乱係数変化率とを,感度カーネルを介して関係づけることができる(たとえば,Margerin et al. 2016).感度カーネルは,震源経過時刻に到達するコーダ波のすべての波群のうち,散乱係数が変化した領域で散乱した波群の寄与の割合を表すものと解釈でき,各波群の重みはエネルギー密度で表される.本研究では2次元問題を扱い,エネルギー密度の計算にはスカラー波の等方1次散乱モデル(Kopnichev, 1977)を用いて計算する.ただし,スカラー波に対する多重散乱まで含めた感度カーネルの計算はすでにMargerin et al. (2016)により行われている.これに対して,本研究では1次散乱に対して近似的にではあるがベクトル波への拡張を行う点が新しい.ポイントは,ベクトル波の成分への分解を行う際には,エネルギー粒子の進行方向と振動方向を考え,振動方向を水平成分と鉛直成分に分解するというものである.これは地震波速度変化の場合に中原・江本(2016)が用いたのと同じである.P波かS波のどちらか一つだけしか扱えないという制約はあるものの,従来のスカラー波の等方1次散乱モデルを少し拡張するだけで,感度カーネルを成分ごとに解析的に導出できる.その結果,1次散乱なので散乱殻上のみに感度をもつことを確認した.また,水平成分と鉛直成分とでは感度カーネルの表現が異なり,特に感度がゼロになる場所が存在し,それらの場所は成分ごとに異なることが分かった.またそれに応じて,地震波散乱特性の空間変化に対して,コーダ波のデコリーレーション変化の震源経過時間依存性も水平成分と上下成分では異なることが分かった.これらは従来のスカラー波の枠組みでは扱えなかったことで,本研究によるベクトル波への拡張による大きな成果である.

まとめ
本研究では,2次元1次等方散乱モデルに基づき,デコリレーション変化の近似ベクトル感度カーネルを新たに導出した.その結果,スカラー波の感度カーネルとは異なるベクトル波の感度カーネルの特徴が明らかになった.今回導出したカーネルは解析的に表現できる点は一つのメリットである.今回の定式化は一つの波のモードの卓越を仮定した簡単なものであるが,並行して,ベクトル波へのより厳密な拡張も順次進めていく必要がある.