JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] [EJ] 地震波伝播:理論と応用

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、白石 和也(海洋研究開発機構)、松島 潤(東京大学大学院)

[SSS11-P09] V-netを用いた地震波干渉法による阿蘇山地域での表層構造時間変化の推定

*水谷 雄太2西田 究1青木 陽介1 (1.東京大学地震研究所、2.東京大学)

キーワード:地震波干渉法、地震波速度構造の時間変化

2016年4月の熊本地震,10月の噴火など,近年,阿蘇山は活動的である.地震や火山噴火活動を理解する上で,これらのイベントに伴う地震波速度構造をモニタリングすることは重要な手がかりとなる.本研究では阿蘇地方で,地震波干渉法による地下構造の時間変化を推定したので報告する.

地震波干渉法を用いて地下構造の時間変化を推定するに当たって,励起源が等方的に分布しているのが望ましい.励起源分布の時空間変化が見かけの地下構造の時間変化を作ってしまうためである.この問題を解決するためには,地震波干渉法によって計算された相互相関関数の直達波部分ではなく,散乱波であるコーダ波を用いることが有効である.これは散乱にともない,励起源の情報を失っていくためである.加えて,走時遅れは直達波よりもコーダ波で大きくなり,わずかな速度変化も精度良く検出できることが期待される.本研究では特に,直達波部分とコーダ波部分に現れる時間変化の速度構造への感度の違いから,構造速度変化の空間分布をどの程度制約できるかに注目した.

解析には,防災科学技術研究所V-netでの阿蘇山近辺の4観測点で,取得されたデータを用いた.解析期間は2015年1月1日から2016年10月31日である.各観測点は地表の広帯域地震計(3成分)とボアホール(深度 ~200 m)の速度型地震計(1 Hz,3成分)で構成されている.まず,2-8 Hzのバンドパスフィルタをかけ1bit化した後に,ホワイトニングを適用した.同じ観測点,同じ成分に対して相互相関関数(CCF)を1日毎に計算した.地下構造時間変化を推定する際のレファレンスは,2016年10月25日から31日までのCCFをスタックすることで計算した.次にレファレンスのCCFと任意の1日分のCCFに対して,長さ2.56 秒の時間窓についてそれぞれ遅延時間を求めた.この時,中心時間は-5 秒から+5 秒まで0.2 秒ずつずらした.速度変化が空間的に一様であるならば,各時間窓に対する遅延時間のプロットを直線フィッティングした傾きの符号を反転させたものが速度変化を示し,切片は直達波の走時における変化を示すと考えられる.すなわち,推定された傾きからは広域(~2 km)な速度変化を,切片からは2観測点間の局所的な(~200 m)速度変化を推定できる.

熊本地震前後で,高森観測点を除く3観測点の東西成分において,傾きから推定される観測点から2 km程度の領域における速度低下はおよそ0.2%であった.高森観測点に関しては,東西成分ではこの領域での速度変化がほとんど見られなかったが,南北成分ではやはり0.2%程度の速度低下が検出された.切片から推定されるボアホール間約200 mにおける速度変化に関しては,白水観測点,一ノ宮観測点の東西成分,高森観測点の南北成分から5-8%の速度低下が検出され,永草観測点では20%の速度低下があった.これは永草観測点付近では地表断層が見られるほど,熊本地震によって大きなダメージを負ったためだと考えられる.

また一ノ宮観測点では,降水量データと対応する数週間のタイムスケールの速度変化が検出された.この変化は,降水量のデータから求めた簡単な地下水位のモデルとよく対応している.これは,この観測点が火山麓扇状地に立地するためだと考えられ,ボアホール間の局所的な変化として検出されたと考えられる.

本研究では,同じ観測点のボアホール・データを用いて解析を行い、数百メートルから数キロメートルでの速度変化を検出できた.今後,阿蘇山を挟むような観測点間で同様の解析を行い,より大きなスケールでの火山活動に伴う速度構造の時間変化の検出を目指す.

謝辞:本研究では防災科学技術研究所V-netのデータを使用した.