JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] [EJ] 活断層と古地震

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)、安江 健一(日本原子力研究開発機構)、座長:大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:小荒井 衛(茨城大学)

09:00 〜 09:15

[SSS12-07] 2016年熊本地震を引き起こした布田川断層帯の過去30万年のテクトニクス

*大橋 聖和1田村 友識1戸澤 茉莉花2 (1.山口大学大学院創成科学研究科、2.山口大学理学部地球圏システム科学科)

キーワード:2016年熊本地震、平均変位速度、条線、断層岩、阿蘇火砕流堆積物

はじめに:2016年4月に発生した熊本地震は,主に日奈久断層帯の一部と布田川断層帯が活動することによって発生した.一連の地震活動や両断層帯の幾何学・運動像は,単純には説明できないように見える以下のような特徴を持つ.(1) M6.5の前震およびM7.3の本震の初動の発震機構解の節面は,日奈久断層,布田川断層の走向と一致しない.また,余震分布から日奈久断層帯・布田川断層に非調和な逆傾斜の断層面も認められる(清水ほか, 2016).(2) 一般的に中部九州は南北引張の展張場とされており,本地域の地形や地質には縦ずれの累積変位が強く記録されている(国土地理院, 2001; 渡辺ほか, 1979)が,布田川断層における地表変状(Shirahama et al., 2016)および震源インバージョン解析結果(防災科研, 2016)は横ずれが卓越する.(3) 布田川断層帯は全長64 km(地震調査研究推進本部, 2013)を超え,国内の内陸活断層では長い部類に入るが,今回の地震に伴う地表変状はステップや分岐を繰り返し,幾何学的な成熟度の低い断層であることを示唆する.(4)本震の地表地震断層は,これまで断層の引かれていなかった多くの場所において出現した.筆者らは,布田川断層帯および周辺地域の第四紀テクトニクスを解明することで,これらの疑問に対する回答を試みる.

布田川断層帯周辺における調査結果:益城町上陳に位置する上陳露頭では,2016年熊本地震に伴って阿蘇-4火砕流堆積物が最大2 m右横ずれ変位した(大橋・田村, 2016).断層は南東側に分布する阿蘇-4火砕流下部ユニット(固結)と北西側に分布する阿蘇-4上部ユニット(未固結)との境に位置しており,累積鉛直変位量は約10 m,ここから推定される鉛直平均変位速度は0.1 m/千年である.益城町杉堂の布田川断層通過地点では,約8万年前と考えられる阿蘇-4火砕流の二次堆積物と斜面崩壊堆積物が約5.4 m北落ちで撓曲変形している.ここから推定される鉛直平均変位速度は0.07 m/千年である.また,西原村小森桑鶴に露出する露頭では,断層の南東側にスコリアを含む凝灰角礫岩(阿蘇-4上部ユニット),北西側に阿蘇-4を覆う後期更新世の崖錐堆積物がほぼ水平に分布する.断層より南東側では崖錐堆積物が7.5 m以上は上位に位置することから,崖錐堆積物形成以降,最低でも7.5 mの北西沈降の運動があったことが示唆される.これらの露頭で得られた鉛直平均変位速度をまとめると,0.1〜0.07 m/千年の値が求まる.一方で,布田川断層帯南方の御船層群と木山変成岩中の小断層は,カタクレーサイトがほぼ傾斜ずれの高角な条線を有するのに対し,それを切って発達する軟弱な断層ガウジ帯は中角もしくは水平に発達する.

2016年熊本地震震源域のネオテクトニクス:布田川断層を定義した渡辺・小野(1969)は,約9万年前に形成された大峰火山の溶岩台地が断層の北側で最大100 m落ちていることを指摘し,渡辺ほか(1979)は約10–25万年前の阿蘇噴出物の累積変位量から,約1 m/千年の平均鉛直変位速度を推定した.一方で,本研究によって明らかとなった約9万年前以降の平均鉛直変位速度はそれよりも1桁以上低い値を示す.また,基盤岩中の断層ガウジの条線方位の変化から,布田川断層帯を含めた本地域の変形場が縦ずれ(正断層)型から横ずれ型に変化してきていることがわかる.これらのことは,中部九州の造構場がごく最近になって変化してきていることを示唆し,本地域の断層幾何学や運動像がtransientなものであることを示している.

引用文献
大橋・田村(2016), 地質学雑誌122,12, V-VI; 清水ほか(2016), JpGU Abstract, MIS34-02; 国土地理院(2001), 都市圏活断層図「熊本」; 渡辺ほか(1979), 第四紀研究18, 89-101; Shirahama et al.(2016), EPS, doi: 10.1186/s40623-016-0559-1; 地震調査研究推進本部(2013), 布田川断層帯・日奈久断層帯の評価; 渡辺・小野(1969), 地質学雑誌75, 365-374; 防災科研 (2016), http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/topics/Kumamoto_20160416/inversion/