[SSS12-P12] 活断層と後期更新世に活動を停止した断層における破砕帯物質の比較研究-阿寺断層と奈良県中央構造線を例として-
キーワード:活断層、破砕帯、阿寺断層、中央構造線
活断層の活動性評価には若い被覆層が必要であり,現状ではそれがなければ評価を行うことができない.そこで,基盤岩の断層破砕帯より活動性を評価する手法の開発が望まれる.この際,活断層における破砕帯物質の特徴を明らかにするだけではなく,比較的最近まで活動しつつも現在は活動を停止している断層と比較する必要がある.そこで,活断層として阿寺断層,後期更新世に活動していない断層として奈良県の中央構造線を対象として調査を行った.
阿寺断層の調査地点は岐阜県中津川市付知町田瀬であり,この露頭では阿寺断層は下盤側の第四紀砂礫層と上盤側の白亜紀花崗岩の境界として認識される.断層は露頭上部では二条に分岐しており,下側の断層面は砂礫層と花崗岩の境界,上側は花崗岩の内部に位置している.遠田ほか(1994)は本露頭で3回の地震イベントを認定しており,上側の断層面は最近の2回のみで活動しているとしている.
中央構造線の調査地点は奈良県大淀町畑屋であり,この露頭では中央構造線は白亜紀和泉層群礫岩と第四紀菖蒲谷層の境界として認識される.菖蒲谷層上部層の年代は約120万年~12万年前であり,本露頭では松本(2001)が示すように中央構造線は菖蒲谷上部層を切断している.一方で,岡田・東郷(2000)はこの地域の中央構造線は30万年前以降は断層活動を生じていないことを示している.よって,この地域の中央構造線は少なくとも約120万年前までは活動していたが,30万年前以降は活動していないといえる.また,この地域に発達する最高位段丘面(寒川, 1976)の分布から,この露頭の最上面は過去には地下10mに位置していたと考えられる.
これらの露頭において,断層ガウジ帯とその両側から岩石試料を採取し,粉末X線回折分析と蛍光X線分析を行った.粉末X線回折分析より,阿寺断層ではスメクタイトが複数の断層ガウジのうち最新すべり面ではない淡黄色ガウジのみで認められる.中央構造線では,斜長石が断層ガウジにおいて露頭上部に向かってピークが弱くなる傾向がある.また,カオリナイトはほぼすべての試料に認められ,スメクタイトは露頭下部の断層ガウジのみで認められる.蛍光X線分析より,阿寺断層ではMnOが一部の橙色ガウジ,茶褐色ガウジ,淡黄色ガウジで原岩である花崗岩と比べて増加し,Na2Oが淡黄色ガウジで減少している.中央構造線では,MnOは断層ガウジにおいて和泉層群・菖蒲谷層と比べ低い値を示す.また,Na2Oは和泉層群と断層ガウジでは露頭上部に向かうにつれて減少する.
阿寺断層におけるMnOの濃集は地表付近における酸化によって生じたと考えられる.一方で,中央構造線ではMnOの濃集は認められない.これは過去にはMnOの濃集が生じたものの,地表面の削剥により失われたのであろう.また,中央構造線におけるカオリナイトの形成や露頭上部でのNa2Oの減少,スメクタイトの消失は断層破砕帯での風化変質を反映していると考えられる.本調査対象地の中央構造線は削剥速度が極めて遅いために,断層破砕帯を風化させたと考えられる.一方で,阿寺断層の露頭では花崗岩が上昇するセンスで断層変位が生じており,断層ガウジは比較的風化の影響を受けてにくいものと考えられる.このように,断層破砕帯の風化変質に着目することにより最近の活動の有無を推測できる可能性があると考えられる.
阿寺断層の調査地点は岐阜県中津川市付知町田瀬であり,この露頭では阿寺断層は下盤側の第四紀砂礫層と上盤側の白亜紀花崗岩の境界として認識される.断層は露頭上部では二条に分岐しており,下側の断層面は砂礫層と花崗岩の境界,上側は花崗岩の内部に位置している.遠田ほか(1994)は本露頭で3回の地震イベントを認定しており,上側の断層面は最近の2回のみで活動しているとしている.
中央構造線の調査地点は奈良県大淀町畑屋であり,この露頭では中央構造線は白亜紀和泉層群礫岩と第四紀菖蒲谷層の境界として認識される.菖蒲谷層上部層の年代は約120万年~12万年前であり,本露頭では松本(2001)が示すように中央構造線は菖蒲谷上部層を切断している.一方で,岡田・東郷(2000)はこの地域の中央構造線は30万年前以降は断層活動を生じていないことを示している.よって,この地域の中央構造線は少なくとも約120万年前までは活動していたが,30万年前以降は活動していないといえる.また,この地域に発達する最高位段丘面(寒川, 1976)の分布から,この露頭の最上面は過去には地下10mに位置していたと考えられる.
これらの露頭において,断層ガウジ帯とその両側から岩石試料を採取し,粉末X線回折分析と蛍光X線分析を行った.粉末X線回折分析より,阿寺断層ではスメクタイトが複数の断層ガウジのうち最新すべり面ではない淡黄色ガウジのみで認められる.中央構造線では,斜長石が断層ガウジにおいて露頭上部に向かってピークが弱くなる傾向がある.また,カオリナイトはほぼすべての試料に認められ,スメクタイトは露頭下部の断層ガウジのみで認められる.蛍光X線分析より,阿寺断層ではMnOが一部の橙色ガウジ,茶褐色ガウジ,淡黄色ガウジで原岩である花崗岩と比べて増加し,Na2Oが淡黄色ガウジで減少している.中央構造線では,MnOは断層ガウジにおいて和泉層群・菖蒲谷層と比べ低い値を示す.また,Na2Oは和泉層群と断層ガウジでは露頭上部に向かうにつれて減少する.
阿寺断層におけるMnOの濃集は地表付近における酸化によって生じたと考えられる.一方で,中央構造線ではMnOの濃集は認められない.これは過去にはMnOの濃集が生じたものの,地表面の削剥により失われたのであろう.また,中央構造線におけるカオリナイトの形成や露頭上部でのNa2Oの減少,スメクタイトの消失は断層破砕帯での風化変質を反映していると考えられる.本調査対象地の中央構造線は削剥速度が極めて遅いために,断層破砕帯を風化させたと考えられる.一方で,阿寺断層の露頭では花崗岩が上昇するセンスで断層変位が生じており,断層ガウジは比較的風化の影響を受けてにくいものと考えられる.このように,断層破砕帯の風化変質に着目することにより最近の活動の有無を推測できる可能性があると考えられる.