[SSS14-P07] 余震等の活動とその予測情報
キーワード:地震予測、余震活動予測、震災関連死
はじめに
大規模な地震災害が発生すると,多数の住民が避難生活を送り,体調を崩したり,亡くなる方が出ることがある。阪神・淡路大震災(1995年)の死者6434名のうち,919名は自治体が認定した「震災関連死」である。熊本地震(2016年)では,犠牲者の半数以上が「震災関連死」であった。
気象庁は,1998年以後15個の大地震について,余震の確率予測を実施した。地震調査委員会は,昨年8月に報告書「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」(以下,報告書)を発表し,大地震直後の情報では,『揺れの強かった地域では,1週間程度,同程度の地震に注意して下さい。』等と記すことにした。これは,従来より高いレベルの注意・警戒を喚起するものである。
地震の規模・震度を過小予測すると,地震時の被害を増大させる恐れがある。一方,多数の避難生活者がいる状況では,過大予測に伴う過度な避難行動で,健康悪化や震災関連死の可能性が高まる。情報ではこれら両面を配慮し,人的被害を減らすことに努める必要がある。
以下,内陸直下の大地震を念頭に,大地震後の地震活動予測情報について検討する。要点は以下のとおりである。
1.後続の最大地震
防災活動にとって最大地震の規模は重要な要素である。報告書(表2)の内陸浅部M6.5以上の大地震(36個)で,その後7日以内に先行大地震より大きなもの(本震)が発生したのは熊本地震のみである(Fig. 1,黒色)。同程度のもの(M差0.3以内)は2例(灰色)だけで,残り33例では後続地震が0.4以上小さい。報告書に紹介されている海外事例も参考にしても,M6.5以上の内陸地震の後の対応は,従来の方針(先行大地震より一回り小さい余震に対する注意喚起)が妥当であり,報告書の方針は過大な注意・警告の傾向が強い。
2.確率予測の扱い
報告書では,低い予測確率が安心情報と誤解され得ることから,確率表記を中止したために,大地震の危険度が住民に伝わらない。本来ならば,『発生確率が小さくても,相応の割合で大地震が発生する。』ことを繰り返し説明し,確率予測への理解を得るのが望ましい。余震活動等が最も活発なときに,『同程度の地震に注意してください。』などと,定性的な予測情報を繰り返すことには疑問が感じる。なお,このような定性的な情報は,予測結果の統計的検定ができない。
3.地震活動予測の表現
今回の変更には,『確率予測では,どう対応すればよいのか分からない。』との声が反映したと推察される。しかし,提案された予測情報は確率予測に比べて情報量が劣る。別形式の表現として,予測期間中の最大地震Mを確率分布で表示することが考えられる。結果図では,『最大地震Mがどの程度になりやすいか』,『Mの予測精度はどの程度か』などが容易に分かる。天気予報では,通常の予報に加え,降水確率予報や高解像降水ナウキャストなどが並行実施されている。地震予測でも,文章表現による注意喚起と同時に,余震発生確率や最大地震規模分布なども出し,多様なニーズに対応するのが望ましい。
4.予測結果の検証とモデル改良
予測精度及び信頼性の向上には,予測結果の検証・評価とモデル改良が不可欠である。ラクイラ地震(2009,Mw6.3,死者300名以上)の予測を検証した国際委員会は,公的機関の予測について,『過去事例を用いた事後予測,及び将来起きるかもしれない地震を対象とした事前予測を実施し,予測の信頼性を確認すること』を勧告している。気象庁の予測結果を統計検定し,その精度や妥当性を評価する必要がある。新たに導入する,ETASモデルを用いた新方式でも,運用までに乱数実験で検証し,信頼性を明確にする必要がある。
Fig. 1. Magnitude difference between the maximum event within the next 7 days and the preceding major shallow inland earthquake of M6.5 or larger in Japan.
大規模な地震災害が発生すると,多数の住民が避難生活を送り,体調を崩したり,亡くなる方が出ることがある。阪神・淡路大震災(1995年)の死者6434名のうち,919名は自治体が認定した「震災関連死」である。熊本地震(2016年)では,犠牲者の半数以上が「震災関連死」であった。
気象庁は,1998年以後15個の大地震について,余震の確率予測を実施した。地震調査委員会は,昨年8月に報告書「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」(以下,報告書)を発表し,大地震直後の情報では,『揺れの強かった地域では,1週間程度,同程度の地震に注意して下さい。』等と記すことにした。これは,従来より高いレベルの注意・警戒を喚起するものである。
地震の規模・震度を過小予測すると,地震時の被害を増大させる恐れがある。一方,多数の避難生活者がいる状況では,過大予測に伴う過度な避難行動で,健康悪化や震災関連死の可能性が高まる。情報ではこれら両面を配慮し,人的被害を減らすことに努める必要がある。
以下,内陸直下の大地震を念頭に,大地震後の地震活動予測情報について検討する。要点は以下のとおりである。
1.後続の最大地震
防災活動にとって最大地震の規模は重要な要素である。報告書(表2)の内陸浅部M6.5以上の大地震(36個)で,その後7日以内に先行大地震より大きなもの(本震)が発生したのは熊本地震のみである(Fig. 1,黒色)。同程度のもの(M差0.3以内)は2例(灰色)だけで,残り33例では後続地震が0.4以上小さい。報告書に紹介されている海外事例も参考にしても,M6.5以上の内陸地震の後の対応は,従来の方針(先行大地震より一回り小さい余震に対する注意喚起)が妥当であり,報告書の方針は過大な注意・警告の傾向が強い。
2.確率予測の扱い
報告書では,低い予測確率が安心情報と誤解され得ることから,確率表記を中止したために,大地震の危険度が住民に伝わらない。本来ならば,『発生確率が小さくても,相応の割合で大地震が発生する。』ことを繰り返し説明し,確率予測への理解を得るのが望ましい。余震活動等が最も活発なときに,『同程度の地震に注意してください。』などと,定性的な予測情報を繰り返すことには疑問が感じる。なお,このような定性的な情報は,予測結果の統計的検定ができない。
3.地震活動予測の表現
今回の変更には,『確率予測では,どう対応すればよいのか分からない。』との声が反映したと推察される。しかし,提案された予測情報は確率予測に比べて情報量が劣る。別形式の表現として,予測期間中の最大地震Mを確率分布で表示することが考えられる。結果図では,『最大地震Mがどの程度になりやすいか』,『Mの予測精度はどの程度か』などが容易に分かる。天気予報では,通常の予報に加え,降水確率予報や高解像降水ナウキャストなどが並行実施されている。地震予測でも,文章表現による注意喚起と同時に,余震発生確率や最大地震規模分布なども出し,多様なニーズに対応するのが望ましい。
4.予測結果の検証とモデル改良
予測精度及び信頼性の向上には,予測結果の検証・評価とモデル改良が不可欠である。ラクイラ地震(2009,Mw6.3,死者300名以上)の予測を検証した国際委員会は,公的機関の予測について,『過去事例を用いた事後予測,及び将来起きるかもしれない地震を対象とした事前予測を実施し,予測の信頼性を確認すること』を勧告している。気象庁の予測結果を統計検定し,その精度や妥当性を評価する必要がある。新たに導入する,ETASモデルを用いた新方式でも,運用までに乱数実験で検証し,信頼性を明確にする必要がある。
Fig. 1. Magnitude difference between the maximum event within the next 7 days and the preceding major shallow inland earthquake of M6.5 or larger in Japan.