16:30 〜 16:45
[SSS15-11] 関東平野における長周期地震動の生成条件
キーワード:長周期地震動、関東平野、表面波
研究の目的
内陸や浅い海域で大地震(M>7)が起きた際に、関東平野では周期3~10秒の長周期地震動が強く生成する。浅い地震で地表に生成した長周期の表面波が長距離を伝播し、平野(盆地)の堆積層で強く増幅されるとともに、盆地端を2次震源として表面波が強く励起することが一般に説明される。これまでの関東平野での地震観測データから、新潟中越地方や紀伊半島沖の地震では長周期地震動が強く発生し、東北地方で発生した地震では生成強度が弱いことが指摘されている(湯浅・南雲, 2012; Furumura, 2014)。このように、関東平野の長周期地震動の生成強度と地震の方位性には、平野の3次元地下構造や伝播経路の影響など様々な原因が関わっていると考えられる。本研究では、関東平野の長周期地震動生成に地震の強い方位性が生まれる原因を探るために、2004年新潟県中越地震の長周期地震動の地震波伝播シミュレーションをもとに、いくつかの原因を検討した。
地震の方位と長周期地震動の生成
関東平野での長周期地震動生成における地震の方位性の影響を評価するために、関東周辺の堆積層モデル(JIVSM; Koketsu, 2008)を用いた地震波伝播の3次元差分法シミュレーションを行った。2004年新潟県中越地震(M6.8)の震源断層モデルを、関東平野から北北東〜南西方向の方位に等距離に仮想震源として配置し、地震波伝播シミュレーションを行った。この際、断層面からの放射特性の影響をなくすため、断層走行を震源の方位に合わせて回転させた。計算の結果、都心で観測される長周期地震動は、震源が新潟中越沖の方位で強くなり、東北地方の方位では弱まることが確かめられた。しかしながら、その差は固有周期6秒の速度応答で4倍程度に過ぎず、観測の大きな違いを説明するには不十分であった(約10倍程度; Furumura, 2014)。
震源断層からの表面波の放射特性
そこで、新潟中越の地震や東北の地震など、地震毎に見られる関東平野の長周期地震動のレベルの大きな変動の原因として、震源からの表面波の放射特性の違いについて検討した。ここでは、新潟中越地震の震源モデルの走行をいくつか変えた地震波伝播シミュレーションを行い、都心での長周期地震動を比較した。その結果、長周期地震動のレベルと応答スペクトルのピーク周期は断層走行により大きく変わり、その変動幅は上記の地震の方位による変動よりずっと大きいことがわかった。そして、都心での長周期地震動の周期6秒における応答レベルは、新潟中越地震の断層走行(212度)に相当する地震断層で大きくなることがわかった。
盆地生成表面波と盆地転換表面波
ところで、平野における長周期地震動の成因として、地中を伝わるS波が盆地端で表面波に変換して生まれる「盆地生成表面波」と、地表を表面波として伝わってきた波が、盆地で別の表面波に転換する「盆地転換表面波」の2つのメカニズムが一般に議論されている(たとえば、Kawase and Sato,1992; Kawase, 1993)。このうち、新潟県中越地震の際に、関東平野における盆地生成表面波の寄与を調べるために、伝播経路中の自由表面を剛体境界条件に置き換え、表面波の伝播を止めたモデルで地震波伝播シミュレーションを行った。結果、平野での長周期地震動の振幅は激減し、周期3秒以上での速度応答レベルが1/2程度に弱まった。したがって、関東平野での長周期地震動の生成において、盆地端での表面波の生成による寄与は小さいと判断された。
まとめと今後の課題
以上の検討から、2004年新潟県中越地震において関東平野で強い長周期地震動が観測された原因は、元々震源において関東方向に表面波が強く放射されたことと、伝播経路を表面波が良く伝播したことの2点に原因があると考えられる。一方、東北地方の地震において長周期地震動が弱い原因は、震源からの表面波の放射特性が異なり、かつ太平洋沿岸の伝播経路で表面波の減衰が大きいことが関係している可能性が高い。
内陸や浅い海域で大地震(M>7)が起きた際に、関東平野では周期3~10秒の長周期地震動が強く生成する。浅い地震で地表に生成した長周期の表面波が長距離を伝播し、平野(盆地)の堆積層で強く増幅されるとともに、盆地端を2次震源として表面波が強く励起することが一般に説明される。これまでの関東平野での地震観測データから、新潟中越地方や紀伊半島沖の地震では長周期地震動が強く発生し、東北地方で発生した地震では生成強度が弱いことが指摘されている(湯浅・南雲, 2012; Furumura, 2014)。このように、関東平野の長周期地震動の生成強度と地震の方位性には、平野の3次元地下構造や伝播経路の影響など様々な原因が関わっていると考えられる。本研究では、関東平野の長周期地震動生成に地震の強い方位性が生まれる原因を探るために、2004年新潟県中越地震の長周期地震動の地震波伝播シミュレーションをもとに、いくつかの原因を検討した。
地震の方位と長周期地震動の生成
関東平野での長周期地震動生成における地震の方位性の影響を評価するために、関東周辺の堆積層モデル(JIVSM; Koketsu, 2008)を用いた地震波伝播の3次元差分法シミュレーションを行った。2004年新潟県中越地震(M6.8)の震源断層モデルを、関東平野から北北東〜南西方向の方位に等距離に仮想震源として配置し、地震波伝播シミュレーションを行った。この際、断層面からの放射特性の影響をなくすため、断層走行を震源の方位に合わせて回転させた。計算の結果、都心で観測される長周期地震動は、震源が新潟中越沖の方位で強くなり、東北地方の方位では弱まることが確かめられた。しかしながら、その差は固有周期6秒の速度応答で4倍程度に過ぎず、観測の大きな違いを説明するには不十分であった(約10倍程度; Furumura, 2014)。
震源断層からの表面波の放射特性
そこで、新潟中越の地震や東北の地震など、地震毎に見られる関東平野の長周期地震動のレベルの大きな変動の原因として、震源からの表面波の放射特性の違いについて検討した。ここでは、新潟中越地震の震源モデルの走行をいくつか変えた地震波伝播シミュレーションを行い、都心での長周期地震動を比較した。その結果、長周期地震動のレベルと応答スペクトルのピーク周期は断層走行により大きく変わり、その変動幅は上記の地震の方位による変動よりずっと大きいことがわかった。そして、都心での長周期地震動の周期6秒における応答レベルは、新潟中越地震の断層走行(212度)に相当する地震断層で大きくなることがわかった。
盆地生成表面波と盆地転換表面波
ところで、平野における長周期地震動の成因として、地中を伝わるS波が盆地端で表面波に変換して生まれる「盆地生成表面波」と、地表を表面波として伝わってきた波が、盆地で別の表面波に転換する「盆地転換表面波」の2つのメカニズムが一般に議論されている(たとえば、Kawase and Sato,1992; Kawase, 1993)。このうち、新潟県中越地震の際に、関東平野における盆地生成表面波の寄与を調べるために、伝播経路中の自由表面を剛体境界条件に置き換え、表面波の伝播を止めたモデルで地震波伝播シミュレーションを行った。結果、平野での長周期地震動の振幅は激減し、周期3秒以上での速度応答レベルが1/2程度に弱まった。したがって、関東平野での長周期地震動の生成において、盆地端での表面波の生成による寄与は小さいと判断された。
まとめと今後の課題
以上の検討から、2004年新潟県中越地震において関東平野で強い長周期地震動が観測された原因は、元々震源において関東方向に表面波が強く放射されたことと、伝播経路を表面波が良く伝播したことの2点に原因があると考えられる。一方、東北地方の地震において長周期地震動が弱い原因は、震源からの表面波の放射特性が異なり、かつ太平洋沿岸の伝播経路で表面波の減衰が大きいことが関係している可能性が高い。