[SSS15-P01] 海底強震動記録の震源過程解析への適用可能性に関する地震波動場シミュレーションを用いた検討
キーワード:海底強震動記録、震源過程解析、地震波動場シミュレーション
近年DONETやS-netなどの海底強震観測網の整備が進み、震源インバージョンなどの震源過程解析における海底強震動記録の使用が現実味を帯びてきている。海底強震動記録の利用は海域の地震に対する震源過程解析の観測点カバレッジの改善に大きく寄与すると考えられ、それにより震源過程解析の分解能および解の信頼性の向上が期待される(e.g. Iida et al. 1988; Iida 1990)。しかしながら、海底強震動記録の利用にはいくつかのハードルがあり、その一つとしてグリーン関数の不確定性の問題が挙げられる。海域の浅部S波速度構造については詳しい調査があまり行われておらず、観測波形を説明可能なグリーン関数を得ることが現時点では難しいと考えられる。また、多くの震源過程解析では一次元速度構造モデルから計算される理論波形(1D理論波形)を用いているが、海水層や起伏に富んだ海底地形、厚い堆積層、沈み込む海洋プレートなどの海域特有の不均質構造を1D理論波形の計算で用いる一次元速度構造モデルにおいて十分に反映させることは難しい。この不均質構造を考慮するには堆積層や海水層、地形を含めた三次元速度地下構造モデルから差分法などで計算される理論波形(3D理論波形)を用いる必要があるが、海域の詳細な地下構造に関する情報の不足および多大な計算コストの理由からあまり現実的ではない。本研究では地震波動場シミュレーションに基づいて、海底強震動記録の震源過程解析への適用可能性に関する検討を行う。
S-netが沿岸付近から海溝付近まで展開する福島県沖の各S-net観測点での、沿岸付近および海溝付近での浅い地殻内地震による3D理論波形(海あり)・3D理論波形(海なし)・1D理論波形を用意し、5-10秒・10-25秒・25-50秒の三つの周期帯域で波形の比較を行う。3D理論波形(海あり)は、J-SHIS全国深部地盤モデル(藤原・他 2009, 2012)をベースとし、地形および海水層を含めた三次元速度構造モデルを仮定した上で、Takemura et al (2015)の差分法により計算した。3D理論波形(海なし)は海水層を空気層に変換した三次元速度構造モデルを用いて計算した。1D理論波形は、J-SHIS全国深部地盤モデルの観測点直下の情報を基にした一次元速度構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry 1979)により観測点毎に計算した。
まず3D理論波形(海あり)と3D理論波形(海なし)を比較し、S-net観測点における理論波形への海水層の影響を調べた。全体として、トランスバース成分においてはどの周期帯域でも海水層の有無に関わらずおおむね同じような波形が得られたのに対し、ラディアル成分および上下動成分では周期25秒よりも短い帯域において差異が見られた。波形に違いが見られる観測点の分布は沿岸付近の地震と海溝付近の地震で異なる。沿岸付近の地震では水深が深い(約2 km以上)の観測点において、震央での水深が2kmを超える海溝付近の地震ではほぼ全ての観測点において、波形の違いが見られた。海水層と堆積層のカップリングにより海洋性レイリー波が励起され、またその海洋性レイリー波の卓越周期は海水層の厚さに依存することが先行研究によって指摘されている(e.g. Nakamura et al. 2014; Noguchi et al. 2016)。本研究と先行研究の結果から、水深が深い領域で発生した地震の場合もしくは水深が深い観測点の波形を用いる場合、海水層を考慮してしないグリーン関数を用いる限り、震源過程解析に用いることができる地震波形の成分や周期帯域には限りがあると考えられる。
次に3D理論波形(海あり)と1D理論波形を比較し、沈み込み帯特有の不均質構造を考慮した三次元速度構造モデルを用いて計算される3D理論波形を、観測点直下の一次元構造モデルから計算される1D理論波形でどれくらい説明できるのかを確認した。その結果、S波およびその後続波における振幅の違いや到着時刻のずれが多く見られた一方で、S波部分の位相自体は似ている観測点がいくつか見られた。このことは到着時間ずれの補正および理論波形の振幅補正を行うことにより海底強震動記録を震源過程解析で用いることができる可能性を示す。
S-netが沿岸付近から海溝付近まで展開する福島県沖の各S-net観測点での、沿岸付近および海溝付近での浅い地殻内地震による3D理論波形(海あり)・3D理論波形(海なし)・1D理論波形を用意し、5-10秒・10-25秒・25-50秒の三つの周期帯域で波形の比較を行う。3D理論波形(海あり)は、J-SHIS全国深部地盤モデル(藤原・他 2009, 2012)をベースとし、地形および海水層を含めた三次元速度構造モデルを仮定した上で、Takemura et al (2015)の差分法により計算した。3D理論波形(海なし)は海水層を空気層に変換した三次元速度構造モデルを用いて計算した。1D理論波形は、J-SHIS全国深部地盤モデルの観測点直下の情報を基にした一次元速度構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry 1979)により観測点毎に計算した。
まず3D理論波形(海あり)と3D理論波形(海なし)を比較し、S-net観測点における理論波形への海水層の影響を調べた。全体として、トランスバース成分においてはどの周期帯域でも海水層の有無に関わらずおおむね同じような波形が得られたのに対し、ラディアル成分および上下動成分では周期25秒よりも短い帯域において差異が見られた。波形に違いが見られる観測点の分布は沿岸付近の地震と海溝付近の地震で異なる。沿岸付近の地震では水深が深い(約2 km以上)の観測点において、震央での水深が2kmを超える海溝付近の地震ではほぼ全ての観測点において、波形の違いが見られた。海水層と堆積層のカップリングにより海洋性レイリー波が励起され、またその海洋性レイリー波の卓越周期は海水層の厚さに依存することが先行研究によって指摘されている(e.g. Nakamura et al. 2014; Noguchi et al. 2016)。本研究と先行研究の結果から、水深が深い領域で発生した地震の場合もしくは水深が深い観測点の波形を用いる場合、海水層を考慮してしないグリーン関数を用いる限り、震源過程解析に用いることができる地震波形の成分や周期帯域には限りがあると考えられる。
次に3D理論波形(海あり)と1D理論波形を比較し、沈み込み帯特有の不均質構造を考慮した三次元速度構造モデルを用いて計算される3D理論波形を、観測点直下の一次元構造モデルから計算される1D理論波形でどれくらい説明できるのかを確認した。その結果、S波およびその後続波における振幅の違いや到着時刻のずれが多く見られた一方で、S波部分の位相自体は似ている観測点がいくつか見られた。このことは到着時間ずれの補正および理論波形の振幅補正を行うことにより海底強震動記録を震源過程解析で用いることができる可能性を示す。