[SSS15-P06] 2016年熊本地震の観測記録にみられるスペクトル低減特性に関する検討
キーワード：2016年熊本地震、スペクトル低減特性、fmaxフィルター、κ
１．はじめに
高周波数領域においてはスペクトルが低減し，ω-2則から乖離することが知られており，強震動予測の精度向上のためにはこの領域における地震動特性の解明が必要不可欠である．このスペクトル低減特性を表現する方法として fmax フィルター [Hanks(1982)]による方法，κ [Anderson and Hough(1984)]による方法があり，我が国では前者が，アメリカなど諸外国では後者が主流となっている．本検討では2016年熊本地震の前震，本震および余震等を対象にその観測記録に見られるスペクトル低減特性を fmax フィルターおよび κ を用いて評価し，両者の比較を行なう．
２．解析概要
解析対象とした地震は2016年熊本地震の前震，本震および余震等の全35地震であり，その MJ は4.1～7.3，震源深さは7～18kmである．これらの地震について，
＊地中地震計設置深度におけるせん断波速度が 2,000m/sec 以上の観測点
＊震源距離が概ね100km程度以下の KiK-net 地中観測点
の観測スペクトルを平均震源距離におけるスペクトルに補正して，その平均（「平均観測スペクトル」と称す）を求める．
【fmaxフィルター】
平均観測スペクトルと理論スペクトルを比較し，平均観測スペクトルに適合するような理論スペクトルを与える4つのパラメータ（地震モーメント，コーナー周波数，fmax，べき乗数 s ）を推定する．理論スペクトルとは ω-2 則に基づく震源特性と伝播経路特性および高域遮断フィルターを考慮したスペクトルである．
【κ】
Anderson and Hough(1984)はS波の加速度スペクトル A(f) が高周波数領域において指数関数的な低減特性を示すとして，次式のように定式化した．
A(f)=A0e-πfκ (f＞fE)
本検討では，平均観測スペクトルの形状からスペクトルがほぼ平坦となる上限周波数( fE )を決め，fE ～ 30Hzの範囲で最小二乗法によりスペクトル低減の傾き κ を求める．
３．解析結果
2016年熊本地震の最大前震（2016年4月14日21時26分，MJ：6.5），本震（2016年4月16日01時25分，MJ：7.3）の fmax およびべき乗数 s，fE および κ は以下のように得られた．
＊最大前震：fmax = 9.9Hz，s = 1.43，fE = 3.0Hz，κ = 0.0466
＊本震 ：fmax = 7.1Hz，s = 1.37，fE = 2.7Hz，κ = 0.0482
既往研究により得られている他の地殻内地震の結果と比べ，fmax の値はほぼ調和的であるが，べき乗数 s および κ は比較的大きな値であった．中小地震の fmax は10～20Hz，s は1.0～2.6，fE は3～10Hz，κ は0.0274～0.0553となり，他の地殻内の中小地震の結果と比べ，べき乗数 s および κ は比較的大きな値であった．これらはスペクトル低減特性の地域性を示唆する結果と言える．
続いて，fmaxフィルターのパラメータ(fmax，s )と fE や κ との関係を求めた．その結果，κ と fmaxフィルターのスペクトル低減の傾き s ，および fE と fmax の間には概ね正の相関が認められた．これは，同じ低減特性を異なる方法を用いて表現したことに因るもので，合理的な結果と言える．
謝辞：本研究は，原子力規制庁の委託研究「平成28年度原子力施設等防災対策等委託費（地震動評価における不確かさの評価手法の検討）事業」の一部として実施しました．独立行政法人防災科学技術研究所 基盤強震観測網 KiK-net の観測記録および広帯域地震観測網 F-net の震源パラメータを使用しました．記して感謝します．
参考文献
Anderson and Hough(1984)，BSSA，Vol.74，pp.1969-1993．
Hanks(1982)，BSSA，Vol.72，pp.1867-1879．
高周波数領域においてはスペクトルが低減し，ω-2則から乖離することが知られており，強震動予測の精度向上のためにはこの領域における地震動特性の解明が必要不可欠である．このスペクトル低減特性を表現する方法として fmax フィルター [Hanks(1982)]による方法，κ [Anderson and Hough(1984)]による方法があり，我が国では前者が，アメリカなど諸外国では後者が主流となっている．本検討では2016年熊本地震の前震，本震および余震等を対象にその観測記録に見られるスペクトル低減特性を fmax フィルターおよび κ を用いて評価し，両者の比較を行なう．
２．解析概要
解析対象とした地震は2016年熊本地震の前震，本震および余震等の全35地震であり，その MJ は4.1～7.3，震源深さは7～18kmである．これらの地震について，
＊地中地震計設置深度におけるせん断波速度が 2,000m/sec 以上の観測点
＊震源距離が概ね100km程度以下の KiK-net 地中観測点
の観測スペクトルを平均震源距離におけるスペクトルに補正して，その平均（「平均観測スペクトル」と称す）を求める．
【fmaxフィルター】
平均観測スペクトルと理論スペクトルを比較し，平均観測スペクトルに適合するような理論スペクトルを与える4つのパラメータ（地震モーメント，コーナー周波数，fmax，べき乗数 s ）を推定する．理論スペクトルとは ω-2 則に基づく震源特性と伝播経路特性および高域遮断フィルターを考慮したスペクトルである．
【κ】
Anderson and Hough(1984)はS波の加速度スペクトル A(f) が高周波数領域において指数関数的な低減特性を示すとして，次式のように定式化した．
A(f)=A0e-πfκ (f＞fE)
本検討では，平均観測スペクトルの形状からスペクトルがほぼ平坦となる上限周波数( fE )を決め，fE ～ 30Hzの範囲で最小二乗法によりスペクトル低減の傾き κ を求める．
３．解析結果
2016年熊本地震の最大前震（2016年4月14日21時26分，MJ：6.5），本震（2016年4月16日01時25分，MJ：7.3）の fmax およびべき乗数 s，fE および κ は以下のように得られた．
＊最大前震：fmax = 9.9Hz，s = 1.43，fE = 3.0Hz，κ = 0.0466
＊本震 ：fmax = 7.1Hz，s = 1.37，fE = 2.7Hz，κ = 0.0482
既往研究により得られている他の地殻内地震の結果と比べ，fmax の値はほぼ調和的であるが，べき乗数 s および κ は比較的大きな値であった．中小地震の fmax は10～20Hz，s は1.0～2.6，fE は3～10Hz，κ は0.0274～0.0553となり，他の地殻内の中小地震の結果と比べ，べき乗数 s および κ は比較的大きな値であった．これらはスペクトル低減特性の地域性を示唆する結果と言える．
続いて，fmaxフィルターのパラメータ(fmax，s )と fE や κ との関係を求めた．その結果，κ と fmaxフィルターのスペクトル低減の傾き s ，および fE と fmax の間には概ね正の相関が認められた．これは，同じ低減特性を異なる方法を用いて表現したことに因るもので，合理的な結果と言える．
謝辞：本研究は，原子力規制庁の委託研究「平成28年度原子力施設等防災対策等委託費（地震動評価における不確かさの評価手法の検討）事業」の一部として実施しました．独立行政法人防災科学技術研究所 基盤強震観測網 KiK-net の観測記録および広帯域地震観測網 F-net の震源パラメータを使用しました．記して感謝します．
参考文献
Anderson and Hough(1984)，BSSA，Vol.74，pp.1969-1993．
Hanks(1982)，BSSA，Vol.72，pp.1867-1879．