JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] [JJ] 強震動・地震災害

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:津野 靖士(鉄道総合技術研究所)

[SSS15-P08] 九州地方北部におけるQsの地域性に関する考察

*仲野 健一1境 茂樹1 (1.株式会社 安藤・間)

キーワード:Qs、伝播経路、二重スペクトル比法

筆者らは既報で九州地方南部を対象にして、防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-netで観測されたM4-5程度の中小地震の地震観測記録を用いて、二重スペクトル比法により同地域のQsを評価した。その結果、気象庁地震カタログの震源位置と観測地点を結ぶ側線の平均的なみかけのQsが、解析対象とする領域(伝播経路の組み合わせ)によって有意に変化することを示した。このことは、例えば統計的グリーン関数法等に基づく強震動計算に用いるQsの設定には、計算対象領域における適切なモデルを用いる必要があることを示唆している。

2016年4月、九州熊本地方を震源とする2016年熊本地震が発生した。この地震は、九州の別府-島原地溝帯における布田川-日奈久断層で発生しており、ちょうど九州地方を南北に分断するような形になっている。この地震に関しては多くの研究者によって、 2016年熊本地震の震源断層モデルや表層地盤の非線形地盤モデルが提案されている。一方で、九州地方の減衰に関する研究としては、スペクトルインバージョン解析によって震源特性やサイト特性と併せて評価されたものが多い。

本研究では加藤(1999)に倣って拡張した二重スペクトル比法を採用している。この手法で推定される伝播経路の平均的なみかけの減衰特性は、数学的にはスペクトルインバージョン解析で評価される減衰特性と同一と見なすことができる。従って、二重スペクトル比法によって減衰特性を評価し、スペクトルインバージョンによって推定されたそれと比較することで、お互いの評価結果を相互に確認することができる。

以上のことから、本稿では九州北部を対象にして、二重スペクトル比法を用いた減衰特性としてのQsを評価する。まず、九州地方北部をFig.1の薄い橙色のハッチで示すような「Region A」と「Region B」に分割した。また、既報で評価した九州地方南西部の領域を「Region C」として薄い青色のハッチで示す。同図には、白抜きの丸印として2016年熊本地震後に発生したM1 ~ M7.3のイベントの震央分布(2016年4月14日~2016年4月30日)と赤色の三角印としてK-NET & KiK-netの地震観測地点を併記している。震央位置は気象庁一元化震源リストを参照した。図中に示した領域において、面的な広がりをもつ領域(Area)での評価と側線としての評価(Line)をそれぞれ実施する。ただし、「Region B」についてはAreaの設定が困難であったため、Lineでの評価のみ実施した。なお、各解析ケースの名称は「Region A-Area」もしくは「Region A-Line」のように記す。

Qs評価結果をFig.2に示す。この図をみれば明らかなように、各領域においてAreaとLineでは異なる減衰モデルが評価されていることがわかる。これは、Areaの場合、Lineに比べて相対的に伝播経路が長くなり、表面波や最短経路以外の経路で伝播された地震動成分の影響で、見かけ上減衰が小さく評価されているものと考えられる。「Region A-Area」と「Region C-Area」ではQ0がどちらも約70であり、周波数依存性はどちらも約0.92と推定され、顕著な差異はみられないことがわかる。一方で「Region B」については大きく異なっていて、Qs = 23.6*f^1.0となっている。このQsは泉谷(2000)によって霧島直下で評価されたもの(浅い経路)とほぼ同じであり、Lin et al. (2016) によって阿蘇山直下のマグマだまりが約5kmから約10kmにかけて存在することが指摘されており、「Region B」では阿蘇山直下を通過していることから、上記の解釈が正しいとすれば、本研究で得られたQsの顕著な違いを説明することができる。一方、他の領域で評価されたQsは内山・山本(2016)で評価されたものと調和的である。しかしNakano et al. (2015)で評価されている値とは異なっている。それは、解析条件として設定した震源距離が異なっていること、解析対象としている領域が大きく異なっていること等が原因と考えられる。実際に、内山・山本(2016)や佐藤(2016)に合わせた条件でスペクトルインバージョン解析を実施したところ、彼らと同様のQsモデルが得られることを確認している。

今回得られた結果はあくまで少数の地震を選択して実施されていること、解析対象領域を広範囲に設定していること等から、地震と観測地点の異なる組み合わせの場合や細かく領域を分割した場合でどの程度これらの値が変化するのか、継続的に調査していく必要がある。我々の今後の取り組みとしては、上記の検討数を増やすとともに、強震動予測の精度向上に役立てるため、複雑な減衰構造の評価手法を開発していく予定である。


謝辞:本研究の実施にあたって、防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-netで観測された地震波形記録を使用させて頂きました。一部の図の作成にはGMTを使用しています。記して感謝します。