[SSS15-P19] 関東地域における微動アレイ観測記録を用いた工学的基盤の設定方法に関する検討
キーワード:工学的基盤、S波速度構造モデル、極小アレイ、常時微動
1.はじめに
巨大地震による被害推定を行う上で,広域における広帯域の地震動予測精度を向上させることは重要である.そのためには,より高度化された地盤モデルの構築が重要な課題の一つである.
防災科研ではこれまで,広帯域(0.1Hz~10Hz程度)の地震動特性を適切に説明することを目的として,ボーリングデータおよび物性値データ(主に微動観測データ)を収集し,浅部・深部を結合した地盤モデルを作成してきた.現在,防災科研では,内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の⑤「リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発」のテーマの1つである「地震被害推定のための地下構造モデルの構築」において,関東・東海地域の広域地盤モデルの構築を実施している.
本検討では,SIP事業の一環で2014年度後半から2016年度までに極小アレイ微動観測を実施した関東1都6県を対象として,極小アレイ微動観測記録から得られるS波速度構造を用いて,既存のボーリングデータや表層地質情報に基づいて作成された初期地質モデルの調整を行い,当該地域における浅部地盤モデルの高度化を試みる.ここでは特に,浅部・深部統合地盤モデルの構築を念頭におき,浅部および深部地盤の遷移領域に相当すると考えられる工学的基盤面周辺(Vs300m/s~500m/s層程度)の速度層境界面に着目した検討を行う.
2.極小アレイ微動観測
常時微動観測については,関東地域の主に低地・台地において,アレイ半径60cm の「4点極小アレイ」および1辺3m~10m超の「3 点不規則アレイ」を組み合わせたアレイ観測を実施した.これらの観測は,関東1都6県の公道上や地震観測点(K-NET,KiK-net,SK-NET,MeSO-net および気象庁)付近など合計で約10,000地点(2017年2月現在)において実施した.また,一体型常時微動観測機材JU210/2151)およびJU4101)を用いて,約1~2km 間隔で各地点15分間の観測を行った.サンプリング周波数は100Hzもしくは200Hz とした.
3.浅部地盤S波速度構造の解析手法とその結果
本検討では,近年の研究2)~4)で提案・高度化されている微動観測に基づく浅部地盤探査手法により,1次元S波速度構造の評価を行った.解析は,微動解析ソフト「BIDO」および「Microtremor Array Tools」等を用いて,以下の手順で行った.
(1)分散曲線およびH/Vスペクトル比の自動解析,読み取り
(2)AVS30等の増幅特性の抽出
(3)分散曲線の直接深度変換(Simple Profiling Method;SPM)
(4)簡易逆解析(Simple Inversion Method;SIM)等の逆解析処理
(5)H/Vと3,4の工程で得られた速度構造を初期値としたジョイントインバージョン(線形化逆解析)
(6)Vs350およびVs500上面深度の抽出
以上により得られる1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面について,既存の初期地質モデルと比較・検討した上で,必要に応じて修正を行った.その結果、河川部ではボーリングデータに基づくS波速度構造モデル(初期地質モデル)と調和的であった.さらに、ボーリング調査結果のみからでは判断が難しい、工学的基盤速度層周辺(Vs300~Vs500)の3次元構造が明瞭になった.
4.まとめ
本検討では,関東地域の主として低地・台地における極小アレイ微動観測で得られた記録に基づき,1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面を推定し,当該地域における既存の初期地質モデルと比較・検討した上で,可能な限り適切に速度層境界面を設定した.今回の取り組みは, 今後の地震動予測のための地盤のモデル化手法の要となるであろう.
謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました.
参考文献
1)先名重樹,藤原広行,微動探査観測ツールの開発その1-常時微動解析ツール-,防災科学技術研究所研究資料,313,2008.
2)長郁夫,多田卓,篠崎祐三,極小アレイによる新しい微動探査法,浅部地盤平均S波速度の簡便推定,物理探査,61(6),457-468,2008.
3)Cho, I., S. Senna, and H. Fujiwara, Miniature array analysis of microtremors, Geophysics, 78, KS13–KS23, doi:10.1190/geo2012-0248.1, 2013.
4)長郁夫,先名重樹,極小微動アレイによる浅部構造探査システム-大量データの蓄積と利活用に向けて-,Synthesiology,Vol.9 No.2,pp.86-96,2016.
巨大地震による被害推定を行う上で,広域における広帯域の地震動予測精度を向上させることは重要である.そのためには,より高度化された地盤モデルの構築が重要な課題の一つである.
防災科研ではこれまで,広帯域(0.1Hz~10Hz程度)の地震動特性を適切に説明することを目的として,ボーリングデータおよび物性値データ(主に微動観測データ)を収集し,浅部・深部を結合した地盤モデルを作成してきた.現在,防災科研では,内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の⑤「リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発」のテーマの1つである「地震被害推定のための地下構造モデルの構築」において,関東・東海地域の広域地盤モデルの構築を実施している.
本検討では,SIP事業の一環で2014年度後半から2016年度までに極小アレイ微動観測を実施した関東1都6県を対象として,極小アレイ微動観測記録から得られるS波速度構造を用いて,既存のボーリングデータや表層地質情報に基づいて作成された初期地質モデルの調整を行い,当該地域における浅部地盤モデルの高度化を試みる.ここでは特に,浅部・深部統合地盤モデルの構築を念頭におき,浅部および深部地盤の遷移領域に相当すると考えられる工学的基盤面周辺(Vs300m/s~500m/s層程度)の速度層境界面に着目した検討を行う.
2.極小アレイ微動観測
常時微動観測については,関東地域の主に低地・台地において,アレイ半径60cm の「4点極小アレイ」および1辺3m~10m超の「3 点不規則アレイ」を組み合わせたアレイ観測を実施した.これらの観測は,関東1都6県の公道上や地震観測点(K-NET,KiK-net,SK-NET,MeSO-net および気象庁)付近など合計で約10,000地点(2017年2月現在)において実施した.また,一体型常時微動観測機材JU210/2151)およびJU4101)を用いて,約1~2km 間隔で各地点15分間の観測を行った.サンプリング周波数は100Hzもしくは200Hz とした.
3.浅部地盤S波速度構造の解析手法とその結果
本検討では,近年の研究2)~4)で提案・高度化されている微動観測に基づく浅部地盤探査手法により,1次元S波速度構造の評価を行った.解析は,微動解析ソフト「BIDO」および「Microtremor Array Tools」等を用いて,以下の手順で行った.
(1)分散曲線およびH/Vスペクトル比の自動解析,読み取り
(2)AVS30等の増幅特性の抽出
(3)分散曲線の直接深度変換(Simple Profiling Method;SPM)
(4)簡易逆解析(Simple Inversion Method;SIM)等の逆解析処理
(5)H/Vと3,4の工程で得られた速度構造を初期値としたジョイントインバージョン(線形化逆解析)
(6)Vs350およびVs500上面深度の抽出
以上により得られる1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面について,既存の初期地質モデルと比較・検討した上で,必要に応じて修正を行った.その結果、河川部ではボーリングデータに基づくS波速度構造モデル(初期地質モデル)と調和的であった.さらに、ボーリング調査結果のみからでは判断が難しい、工学的基盤速度層周辺(Vs300~Vs500)の3次元構造が明瞭になった.
4.まとめ
本検討では,関東地域の主として低地・台地における極小アレイ微動観測で得られた記録に基づき,1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面を推定し,当該地域における既存の初期地質モデルと比較・検討した上で,可能な限り適切に速度層境界面を設定した.今回の取り組みは, 今後の地震動予測のための地盤のモデル化手法の要となるであろう.
謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました.
参考文献
1)先名重樹,藤原広行,微動探査観測ツールの開発その1-常時微動解析ツール-,防災科学技術研究所研究資料,313,2008.
2)長郁夫,多田卓,篠崎祐三,極小アレイによる新しい微動探査法,浅部地盤平均S波速度の簡便推定,物理探査,61(6),457-468,2008.
3)Cho, I., S. Senna, and H. Fujiwara, Miniature array analysis of microtremors, Geophysics, 78, KS13–KS23, doi:10.1190/geo2012-0248.1, 2013.
4)長郁夫,先名重樹,極小微動アレイによる浅部構造探査システム-大量データの蓄積と利活用に向けて-,Synthesiology,Vol.9 No.2,pp.86-96,2016.