JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] [JJ] 地殻構造

2017年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:青柳 恭平(電力中央研究所)、Gokul Kumar Saha(Indian Institute of Science Education and Research,Pune)

[SSS16-P12] 2016年熊本地震震源域の地震波トモグラフィー

*山下 慧1趙 大鵬1豊国 源知1 (1.東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター)

キーワード:トモグラフィー、2016年熊本地震

2016 年 4 月 16 日 01:25 (JST) に, 布田川-日奈久断層帯の破壊によりM 7.3 の熊本地震本震が発生した. この本震の直前には, 2016 年 4 月 14 日 21:26 と 4 月 15 日 00:03 にそれぞれ M 6.5 と M 6.4 の前震が起こり, 2016 年12 月 31 日までに震度 1 以上の余震が 4000 回以上発生した. 地震の活動域は, 熊本県から大分県の別府-万年山断層帯にわたる別府-島原地溝帯の大部分であり, 広域にわたり地震活動が活発になった. また, 別府-島原地溝帯は多くの活断層と阿蘇山, 九重山, 鶴見岳といった活火山が存在し, 熊本地震による火山活動への影響も懸念される. そこで, 本研究では九州地方に研究領域を設定し地震波トモグラフィーによる解析を行い, 別府-島原地溝帯の 3 次元地下構造を推定し, 熊本地震の発生機構について解明を試みた.

本研究では, 研究領域を九州地方の北緯30.5°~ 34.5°, 東経129.0°~133°に設定し, 等方性地震波トモグラフィー法 (Zhao et al., 1992, 2011) と異法性トモグラフィー法 (Wang and Zhao, 2013) を用いて大量の P 波と S 波走時データを解析した. 三次元速度構造を推定するためのグリッドは, 等方性成分に対して水平方向に0.2°間隔, 異方性成分に対して0.4°間隔で配置し, 深さ方向は地表から 1, 10, 25, 40, 60, 80, 100, 120, 140, 160, 180, 200 km (フィリピン海スラブ内には高速 4 % の速度異常を与え, その上面から 5, 15, 30 km) に配置した. 使用した地震観測点は195 点で, 震源データは気象庁一元化震源カタログ及び東北大学で読み取られた走時データを使用した.

トモグラフィーの結果からは, 九州中央部の前弧地域のマントルウェッジに 顕著な低速度異常領域が確認された. これはフィリピン海スラブの脱水によって生じたマントルの蛇紋岩化した領域を示唆している (e.g., Abe et al., 2013). また, この地域には trench-parallel 方向に Fast Velocity Direction (FVD) をもつ P 波の方位異方性が確認された. 背弧地域のマントルウェッジにおいても顕著な低速度異常がイメージングされ, trench-normal 方向に FVD をもつ P 波の方位異方性が確認された. これはスラブの脱水と高温のマントル上昇流によるものと思われる (e.g., Zhao et al., 2011; Wang and Zhao, 2013). 別府-島原地溝帯に沿う断面では, 熊本地震の前震と本震は上部地殻にある高速度異常領域に位置するが, その下の下部地殻と最上部マントルには低速度と高 Poisson 比の異常体が見られる. これらの結果から, フィリピン海スラブの脱水とマントルウェッジにある流体が上部地殻まで上昇し, 布田川-日奈久断層帯に浸入したことにより, 2016年の熊本地震を誘発したと考えられる (Zhao and Liu, 2016).

参考文献
Abe, Y., T. Ohkura, K. Hirahara, T. Shibutani (2013) Along-arc variation in water distribution in the uppermost mantle beneath Kyusyu, Japan, as derived from receiver function analyses. J. Geophys. Res. 118, 3540-3556.
Wang, J., D. Zhao (2013) P-wave tomography for 3-D radial and azimuthal anisotropy of Tohoku and Kyushu subduction zones. Geophys. J. Int. 193, 1166-1181.
Zhao, D., A. Hasegawa, S. Horiuchi (1992) Tomographic imaging of P and S wave velocity structure beneath northeastern Japan. J. Geophys. Res. 97, 19909-19928.
Zhao, D., W. Wei, Y. Nishizono, H. Inakura (2011) Low-frequency earthquakes and tomography in western Japan: Insight into fluid and magmatic activity. J. Asian Earth Sci. 42, 1381-1393.
Zhao, D., X. Liu (2016) Crack mystery of the damaging Kumamoto earthquakes. Science Bulletin 61, 868-870.