11:00 〜 11:15
[SSS17-02] 石英粒界水中の溶存イオン拡散特性の評価とその摩擦ヒーリング効果予測への応用
キーワード:圧力溶解、摩擦ヒーリング効果、速度状態依存摩擦則
断層面の滑りが停止してからの時間とともに摩擦強度が動摩擦の強度レベルから次第に大きくなる摩擦ヒーリング効果は、地震の周期やプレート境界の固着度に関わる重要な摩擦特性である。摩擦ヒーリング効果は、断層面の真の接触部が変形し、真実接触面積が増加することで引き起こされると考えられ、Dieterich and Kilgore (1994)によってガラス板どうしの真実接触面積が時間とともに増加する様子が観察された。
Slide-hold-slide(SHS)試験(e.g., Frye and Marone, 2002; Katayama et al., 2015)によれば、石英は粘土鉱物と比べて摩擦ヒーリング効果の大きい鉱物であり、摩擦ヒーリングが起こる上で水が不可欠である。さらに、摩擦ヒーリング効果は温度に依存する。例えば、摩擦ヒーリング効果の特徴の一つである強度回復が開始するカットオフ時間は、200℃では1.2E+3秒、927℃では5.9E+1秒と、温度によって大きく加速される(Nakatani and Scholtz (2004), Tenthorey and Cox (2006)のSHS試験結果を元に計算)。これは、高温・含水条件では圧力溶解(溶解-沈殿クリープ)が活性になり、接触面積の増加が加速されたためと解釈されている(Tenthorey and Cox, 2006)。この解釈を定量的に検証するためには、圧力溶解による石英粒子の変形(圧密)によって接触面積が増加する速度を正確に計算する必要がある。粒界水中の元素の拡散係数は、圧力溶解の変形速度の計算に不可欠であるが、実験から推定された報告値にばらつきがある(Renard et al., 2000)。そこで本研究では、分子動力学(MD)計算を用いて石英粒界水中の溶存元素の拡散係数を評価し、圧力溶解による接触面積の増加によって摩擦ヒーリング効果を説明できるかを検証した。
MD計算では、α-石英(1010)面の末端酸素に水素を付けて水酸基とした表面を作成し、向き合わせた2枚の表面の間に水分子および溶存Si(Si(OH)4分子)を配置することで、石英粒界水を模した系を作成した。粒界がどの程度開いているかは応力によって変化することが予想され、石英の圧力溶解では粒界水の厚さとして0.5 nm以上が想定されている(Gundersen et al., 2002)。そこで、粒界水の厚さ0.5–2 nmについて溶存Siの拡散係数を計算した。温度は150, 200, 250, 300, 350℃とした。計算には、MXDORTOを用いた。
得られた拡散係数と圧力溶解の物理モデルを用いて、先行研究のSHS試験(Nakatani and Scholtz, 2004; Tenthorey and Cox, 2006)と同じ条件(温度:100–927℃、封圧:60–250 MPa、流体圧:10–200 MPa)において、静止時に石英粒子どうしの接触面積が圧力溶解によってどのように時間変化するかを計算した。摩擦強度の回復量ΔΤ (MPa)が、増加した真実接触面積ΔAr (m2)に比例すると仮定すると、ΔΤはΔΤ = (ΔAr/Ar0)Cから推定できる。ここで、Ar0は初期真実接触面積 (m2)、Cは凝着力(MPa)である。計算したΔΤと静止時間の関係から強度回復のカットオフ時間を求めたところ、200℃では9.4E+3秒、927℃では2.0E+2秒となり、SHS試験におけるカットオフ時間をおおよそ再現することができた。本研究で行った計算では、摩擦ヒーリング効果を時間、温度、有効圧、粒径の関数として表しているため、SHS試験では困難な長い時間スケールにおける断層の摩擦ヒーリング効果を予測する上で有用であると考えられる。
Slide-hold-slide(SHS)試験(e.g., Frye and Marone, 2002; Katayama et al., 2015)によれば、石英は粘土鉱物と比べて摩擦ヒーリング効果の大きい鉱物であり、摩擦ヒーリングが起こる上で水が不可欠である。さらに、摩擦ヒーリング効果は温度に依存する。例えば、摩擦ヒーリング効果の特徴の一つである強度回復が開始するカットオフ時間は、200℃では1.2E+3秒、927℃では5.9E+1秒と、温度によって大きく加速される(Nakatani and Scholtz (2004), Tenthorey and Cox (2006)のSHS試験結果を元に計算)。これは、高温・含水条件では圧力溶解(溶解-沈殿クリープ)が活性になり、接触面積の増加が加速されたためと解釈されている(Tenthorey and Cox, 2006)。この解釈を定量的に検証するためには、圧力溶解による石英粒子の変形(圧密)によって接触面積が増加する速度を正確に計算する必要がある。粒界水中の元素の拡散係数は、圧力溶解の変形速度の計算に不可欠であるが、実験から推定された報告値にばらつきがある(Renard et al., 2000)。そこで本研究では、分子動力学(MD)計算を用いて石英粒界水中の溶存元素の拡散係数を評価し、圧力溶解による接触面積の増加によって摩擦ヒーリング効果を説明できるかを検証した。
MD計算では、α-石英(1010)面の末端酸素に水素を付けて水酸基とした表面を作成し、向き合わせた2枚の表面の間に水分子および溶存Si(Si(OH)4分子)を配置することで、石英粒界水を模した系を作成した。粒界がどの程度開いているかは応力によって変化することが予想され、石英の圧力溶解では粒界水の厚さとして0.5 nm以上が想定されている(Gundersen et al., 2002)。そこで、粒界水の厚さ0.5–2 nmについて溶存Siの拡散係数を計算した。温度は150, 200, 250, 300, 350℃とした。計算には、MXDORTOを用いた。
得られた拡散係数と圧力溶解の物理モデルを用いて、先行研究のSHS試験(Nakatani and Scholtz, 2004; Tenthorey and Cox, 2006)と同じ条件(温度:100–927℃、封圧:60–250 MPa、流体圧:10–200 MPa)において、静止時に石英粒子どうしの接触面積が圧力溶解によってどのように時間変化するかを計算した。摩擦強度の回復量ΔΤ (MPa)が、増加した真実接触面積ΔAr (m2)に比例すると仮定すると、ΔΤはΔΤ = (ΔAr/Ar0)Cから推定できる。ここで、Ar0は初期真実接触面積 (m2)、Cは凝着力(MPa)である。計算したΔΤと静止時間の関係から強度回復のカットオフ時間を求めたところ、200℃では9.4E+3秒、927℃では2.0E+2秒となり、SHS試験におけるカットオフ時間をおおよそ再現することができた。本研究で行った計算では、摩擦ヒーリング効果を時間、温度、有効圧、粒径の関数として表しているため、SHS試験では困難な長い時間スケールにおける断層の摩擦ヒーリング効果を予測する上で有用であると考えられる。