09:30 〜 09:45
[SSS17-15] ポテンシーバックプロジェクション
キーワード:バックプロジェクション、破壊進展イメージング、深さ依存性、震源過程、ポテンシー
バックプロジェクション (BP) 法は、P波理論走時を基に地震波形を波源に逆投影することで地震波の放射源の時空間分布を推定する手法として、2004年スマトラ・アンダマン地震 (Mw 9.1) 以降多くの地震、とくにM8–9クラスの巨大地震に対して適用されてきた。ハイブリッドBP (HBP) 法は、観測波形間の相関を利用して地震波の放射源を探るBP法に代わって、グリーン関数と観測波形との相互相関を利用することで地震波の放射源の時空間分布を推定する手法である。グリーン関数に含まれるP波と後続波 (pP、sP波) の相対振幅および走時差を利用することでBP法の欠点であった逆投影イメージの深さ方向への解像度を向上させ、さらに後続波のダミーイメージングを軽減することができる。地震波形あるいは地震波形とグリーン関数の相互相関関数の足し合わせにより波源の時空間分布を求めるBP/HBP法は、波形インバージョン法では扱いの難しい高周波の波源を求めることができる。高周波放射は、破壊伝播速度あるいは滑り速度の急激な変化を反映しており、巨大地震の破壊過程を理解するために、波形インバージョン法とBP/HBP法の統合的な解析が行われている。
BP/HBP法は、地震波形あるいは地震波形とグリーン関数の相互相関関数を足し合わせた要素震源を波源へ逆投影する手法であるため、求められたイメージの相対的なシグナル強度は、断層上のある要素震源から放射された地震波が、観測波形全体に占める割合に対応する。一般に震源近傍の剛性率は深さとともに増大するため、単位滑り速度に対するグリーン関数の振幅は要素震源の深さとともに増大し、BP/HBPイメージのシグナル強度はグリーン関数の振幅に依拠する深さ依存性を内包している。ただし、BP/HBP法による高周波イメージと波形インバージョン法により求まる滑り分布とを直接的に比較し、破壊特性の議論を行うためには、BP/HBPイメージのシグナル強度と滑り速度分布 (ポテンシーレート密度分布) とを対応させる必要がある。
本研究では、従来の定式化における正規化項を変更し、ポテンシーレート密度をイメージングする新たなBP/HBP法の定式化を提案する。BP法では各要素震源で理論走時分ずらした観測波形をグリーン関数P波の最大振幅で正規化、HBP法では各要素震源において観測波形とグリーン関数の相互相関関数をグリーン関数の自乗和で正規化して、全観測点分スタックし、各要素震源におけるシグナル強度を求める。本定式化では単位滑り速度に対するグリーン関数の振幅の深さ依存性が補正されるため、ポテンシーレート密度に対応したイメージを求めることができる。
新たな定式化の妥当性を検証するため、2015年チリ・イラペル地震 (Mw 8.3) を対象とした数値実験並びに実データを用いた解析を行った。数値実験では、同一のポテンシーを有した仮想的な点震源を断層上に複数個ランダムに配置して計算した理論波形に対して、提案手法を適用した。従来の定式化では、イメージのシグナル強度が深部ほど相対的に強くなる傾向が見られたが、新たな定式化では浅部におけるシグナル強度の低下が軽減され、入力したポテンシー分布を概ね再現することができた。ただし断層浅部の、P波と反射波との走時差が近接する要素震源では、逆投影されるシグナル強度が依然として小さくなる傾向がある。さらに、実データを用いた解析においても、数値実験で得られた結果と同様に、およそ25 km以浅の領域における相対シグナル強度が、従来の定式化に比べて高くなることがわかった。
本研究では、波形インバージョン法によって求まる滑り分布との直接的な比較が可能な、ポテンシーレート密度のイメージングを行うBP/HBP法の定式化を提案した。本定式化は、沈み込み帯において発生する巨大地震の破壊過程に対して、BP/HBP法と波形インバージョン法の解析結果を統合し、破壊特性の比較・議論を行う際に有用と考えられる。
BP/HBP法は、地震波形あるいは地震波形とグリーン関数の相互相関関数を足し合わせた要素震源を波源へ逆投影する手法であるため、求められたイメージの相対的なシグナル強度は、断層上のある要素震源から放射された地震波が、観測波形全体に占める割合に対応する。一般に震源近傍の剛性率は深さとともに増大するため、単位滑り速度に対するグリーン関数の振幅は要素震源の深さとともに増大し、BP/HBPイメージのシグナル強度はグリーン関数の振幅に依拠する深さ依存性を内包している。ただし、BP/HBP法による高周波イメージと波形インバージョン法により求まる滑り分布とを直接的に比較し、破壊特性の議論を行うためには、BP/HBPイメージのシグナル強度と滑り速度分布 (ポテンシーレート密度分布) とを対応させる必要がある。
本研究では、従来の定式化における正規化項を変更し、ポテンシーレート密度をイメージングする新たなBP/HBP法の定式化を提案する。BP法では各要素震源で理論走時分ずらした観測波形をグリーン関数P波の最大振幅で正規化、HBP法では各要素震源において観測波形とグリーン関数の相互相関関数をグリーン関数の自乗和で正規化して、全観測点分スタックし、各要素震源におけるシグナル強度を求める。本定式化では単位滑り速度に対するグリーン関数の振幅の深さ依存性が補正されるため、ポテンシーレート密度に対応したイメージを求めることができる。
新たな定式化の妥当性を検証するため、2015年チリ・イラペル地震 (Mw 8.3) を対象とした数値実験並びに実データを用いた解析を行った。数値実験では、同一のポテンシーを有した仮想的な点震源を断層上に複数個ランダムに配置して計算した理論波形に対して、提案手法を適用した。従来の定式化では、イメージのシグナル強度が深部ほど相対的に強くなる傾向が見られたが、新たな定式化では浅部におけるシグナル強度の低下が軽減され、入力したポテンシー分布を概ね再現することができた。ただし断層浅部の、P波と反射波との走時差が近接する要素震源では、逆投影されるシグナル強度が依然として小さくなる傾向がある。さらに、実データを用いた解析においても、数値実験で得られた結果と同様に、およそ25 km以浅の領域における相対シグナル強度が、従来の定式化に比べて高くなることがわかった。
本研究では、波形インバージョン法によって求まる滑り分布との直接的な比較が可能な、ポテンシーレート密度のイメージングを行うBP/HBP法の定式化を提案した。本定式化は、沈み込み帯において発生する巨大地震の破壊過程に対して、BP/HBP法と波形インバージョン法の解析結果を統合し、破壊特性の比較・議論を行う際に有用と考えられる。